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その魔女に祝福を  作者: 晴海翼
第一部:第五章 妖精と魔族と

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幕間.フェリー、魔王城へお呼ばれする

 居住特区を作るやら、宴会の準備やらで妖精族(エルフ)と魔獣族がてんやわんやしている時にそれは言われた。


「フェリーも一度、我が城に来て貰いたい。

 今回の礼がしたいのでな!」

 

 そんなわけであたしは今、レイバーンさんのおうちにお呼ばれをしている。

 いちおう、レイバーンさんにはシンを拉致した前科があるので、シンはいつ戻ってくるかをしつこく訊いていた。

 そんなに気になるなら、シンもついてくればいいのに。

 

 夜には再び妖精族(エルフ)の里を訪れるらしいので、日帰り旅行のような感覚だった。


 魔王のお城なので、もっとおどろおどろしいものを想像していたら意外と普通のお城だった。

 それはちょっとだけ残念だったケド、決して口にはしない。


 ……*

 

 あたしはちょっとだけ緊張している。

 レイバーンさんには、妖精族(エルフ)の里でエラそうなコトを言ってしまっているのだ。

 

 ――告白したしたら、ちゃんと返事聞かなきゃ。


 言葉を思い出すと、恥ずかしくなってきた。

 どの立場で、何目線でモノを言っているのだろう。

 顔から火が出そうになる。


 そんな勇気も、資格もないあたしが言っても説得力のカケラもない。

 レイバーンさんはズルっこでもなんでもない。

 大切な人のタメに、何かしてあげられるのはスゴいコトだと思った。


「フェリーには余もリタも感謝しておる。

 勿論、シンにもな」


 シンの名前が出た時、傍にいたルナールさんが顔を逸らした。

 この間、叩いてしまったコトが気まずいらしい。


 でも、もう怒ってないとは言っていた。

 あたしも、シンがずっと嫌われているのはイヤだったので良かった。

 次会う時には仲直りして欲しい。

 元々、シンは気にしてなさそうだったケド。


 逆にあたしは、その件で申し訳なさそうな顔をするシンに怒っていた。

 勝手に飛び出したのはあたしなのに、自分の責任みたいな顔をしていた。

 

 本当は、あたしが怒られると思っていたのに。

 あたしを殺していいのは、シン。

 何よりも大切な約束があるのに、簡単に命を投げるようなマネをしたコト。

 

 怒られると思った。

 でも、怒られなかった。

 きっとシンは、あたしが飛び出すって解ってたんだと思う。

 だから、大型弩砲(バリスタ)を壊そうとしたんだって。


 でもそれは、レイバーンさんが死んでいたかもしれない。

 リタちゃんが、一生後悔していたかもしれない。

 あり得ないケド、あたしが死んでいたかもしれない。


 きっとシンも悩んでくれたんだと思う。

 その中で、あたしが飛び出す可能性に賭けた。

 あたしの『やりたかったコト』が、シンの思い描いたコトと重なった。


 それなのに、自分が悪いような受け止め方をしている。

 本当は、あの時にあたしを怒って欲しかった。

 シンは優しいのに、あんぽんたんだ。


 リタちゃんも、レイバーンさんも今はこうして笑っている。

 難しいコトはよく分からないから、あたしはそれでよかった。


「む、そろそろ昼食の時間だな。

 今日は料理長が腕に縒りを掛けておる。堪能をしてくれ」

「やった!」


 そう言われると、どんな美味しい物が食べられるのだろうかと期待をしてしまう。

 我ながら、単純だと思った。


 ……*


 正直に言うと、失念していた。

 妖精族(エルフ)の里で出された料理は果物をベースにした物が多くて、とても美味しかった。

 レイバーンさんのお城も、アルフヘイムの森からすぐ傍にあるし似たようなものだと思った。


 でも、違うのだ。

 妖精族(エルフ)と魔獣族と人間。

 あたしたちは、明確に違うのだ。


 まず、出てきた食べ物の色が見たコトの無い色をしていた。

 すごく濃い紫色で、なんか泡立っている。シチューのようにとろみのあるそれを掬うと、四角い食べ物が出てきた。

 肉なのか、野菜なのか、それとも別の何かなのか。

 これは、本当に口にしてもいいやつなのだろうか。


「どうしたのだ、フェリー? 食べないのか?」

「あ、うん。珍しい料理だからちょっとじっくり見ちゃってた。あはは」


 あはは。じゃない。かなり焦っている。

 レイバーンさんは普通に食べている。つまり、口にしてもいいのは間違いない。

 でも、それはあくまで魔王の味覚であって……。


 ここだけの話、あたしは割と偏食だ。

 好き嫌いが多い。シンがピーマンを入れた時は絶対、シンにそれを食べさせる。

 シンの妹(リンちゃん)と一緒に、シンのお皿に嫌いな食べ物を移すのは日常茶飯事だった。


 シンの料理は美味しい。

 でも、それはそれ。これはこれだ。


 あたしは食べなくてもサイアク死なない。

 不老不死になった直後とか、一ヶ月ぐらい何も口にしなかったし。


 とはいえ、客人として招かれた物を口にしないのは失礼だ。

 それぐらいはあたしにも判る。

 でも、コレを食べる勇気に変わるかと言うと話は別だ。


「むぅ……」


 にらめっこを続けるあたしを、レイバーンさんも不思議がっている。

 違う、レイバーンさん。不思議じゃないんだよ。

 人間の食べ物では見たコトがない色をしているんだよ。

 

 そこであたしはヒラめいた。

 シンは泊まっている時、どうだったのだろう。

 もしシンが食べていないのなら、断る口実になる。


「ちなみに、レイバーンさん。

 シンはどんなもの食べてたの?」


 シンは保存食を作っている。

 そう、サイアクここでの料理を食べなくても不思議ではないのだ。


「うむ。これと同じもの一緒に食べたぞ!

 共通の話題になると思い、フェリーにも同じものを作らせた!」


 食べたんかーーーーーい!!!


 危うく声を出しそうになった。

 つまりこれは人間の食べ物になると。そう認識されていると。

 レイバーンさんは純然たる好意で出してくれたと。

 そういうコトになる。


 ウカツだった。シンはそーいうトコある。

 シンはあたしと違ってなんでも食べられるのだ。

 あと、積極的に色んな食べ物を食べるのだ。

 

 でも多分、一口目は毒見みたいな感じでカッコつけて食べてると思う。


 料理長と思わしき人は、困った顔をしている。

 レイバーンさんは、不思議そうな顔をしている。


 あたしはカクゴを決めた。

 ブクブクと泡立つそれを、戸惑いながらも口へと運んだ。


「……おいしい」


 自然に出てきた言葉は、それだった。

 ほくほくのイモが、口の中で崩れる。

 程よい塩気が甘味を際立たせ、流れるように喉を通り過ぎていった。


 料理長の顔が、ほっとしたものに変わる。

 レイバーンさんが「そうだろう!」と笑顔になる。


 次々と運ばれた料理はどれもドギツイ色をしていたけれど、とても美味しかった。


「そういえばレイバーンさん。シンが泊まっていた時は何を話していたの?」


 食事を楽しみながら、あたしは気になっていたコトを訊いた。

 一体、レイバーンさんはシンとどんな話をしていたんだろう。


「む、シンとの話か?

 そうだな、リタの話を少々と……」

「やっぱり、リタちゃんの相談はしたんだ。

 シン、役に立たなかったでしょ!」

「あまり興味なさそうしていたが、ちゃんと聞いてはくれていたぞ。

 共感してくれる部分もあったみたいだしな!」


 レイバーンさんはニコニコしている。

 シンもちゃんと、恋愛相談とか出来たんだ。

 何に共感したのかは、よくわかんないケド。


「後は……、人間が魔物に変わる話をしたりしていたな。

 魔物の召喚についても話をしたぞ」

「え……」


 あたしは驚いた。

 ウェルカ領での出来事を、シンはちゃんと考えていたのだ。

 

 アメリアさんのためなんだろうか。

 あの後、アメリアさんはたくさんシンへ会いに来ていた。

 騎士のカッコしてる時はキリッとしてたけど、シンに会う時は可愛らしいカッコだった。


 シンもまんざらじゃないのだろうか。

 ……そう考えると、あたしが一番ズルっこのような気がしてきた。


 約束を盾にして、シンと一緒にいる。我ながら、イヤな子だと思う。

 シンは優しいから、何も言わない。


「む、口に合わなかったか?」


 あたしの手が止まったコトを、レイバーンさんが心配してくれている。

 自己嫌悪しているだけとは、言えなかった。


「ううん、これもおいしいよ!

 ちょっと考えごとしてただけ!」


 あたしはゴマかすように、どんどん料理を食べた。

 いつの間にか、見た目は気にならなくなっていた。


 ……*


 それから、レイバーンさんと色んな話をした。


 シンは、あたしの体質についても相談をしてくれていた。

 何も判らなかったみたいだけど、あたしはすごく嬉しかった。


 あと、魔族語を少しだけ読めるように勉強していたらしい。

 時間が足りないから、まだほとんど読めないらしいけど。


 今日出してもらった料理のレシピも、料理長の人に書いてもらった。

 魔族語だけど、出来るだけカンタンに書いてもらった。

 味はおいしかったから、シンが作ってくれるコトを期待してる。

 見た目は……野営中ならそんなに気にならないと思うし。


 ルナールさんの尻尾にも触らせてもらった。

 すごくもふもふして気持ちよかった。

 レイバーンさんの尻尾は、リタちゃんが怒りそうだから触らないでおいた。


「もうこんな時間か。そろそろ妖精族(エルフ)の里に行かなくてはな」


 すっかり日が暮れていた。

 レイバーンさんはそわそわしている。きっと、リタちゃんに会いたいんだ。

 微笑ましいから、二人にはこのままずっと仲良くしていて欲しい。


「その、ハートニア殿。レイバーン様の事、本当にありがとうございました。

 それと、その……」


 ルナールさんが言い辛そうにしている。

 きっとシンのコトだ。


「うん、シンは気にしてないからだいじょぶだよ!

 ルナールさんが怒るのも、ちょっとわかるし!」


 あたしがそう言うと、ルナールさんはホッとしていた。

 

「よし、それでは行くとするか!」


 レイバーンさんの戦車(チャリオット)に乗って、あたしは妖精族(エルフ)の里へと戻っていった。

 行きの時も思ったケド、乗り心地はあまり良くなかった。


 ……*


「帰ってきたのか」


 シンは、妖精族(エルフ)の料理を食べていた。

 一口目だったのか、やっぱりカッコつけて毒見みたいな感じで口にしていた。


「うん、レイバーンさんとたくさんお話したよ!」


 殆どはシンとリタちゃんの話だった。

 知られると恥ずかしいので、内容を訊かれてもゴマかした。


 特にウェルカの話は、言い辛かった。

 もしかしたら、アメリアさんと旅をしたかったのかもしれない。

 シンに肯定されるのが、怖かった。

 

 でも、あたしだってシンと一緒にいたい。傍に、いてほしい。

 やっぱり、あたしが一番ズルっこだ。

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