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その魔女に祝福を  作者: 晴海翼
終章 祝福
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501.マナ・フライト

 魔導石(マナ・ドライヴ)が光を失い、朽ちていく。

 コーネリア・リィンカーウェルの魔力を全て消費した証だった。


「ふう……」


 上手く行って良かったと安堵の息を漏らしながら、地面へ尻餅をつくオリヴィア。

 曇天模様の空を見上げると、僅かながら光が差し込んだ。


「全く、また無茶振りをして」

「上手く行ったからいいじゃないですか。

 それに、ストルなら合わせてくれると思ったんですよ」

「まあ……。なんとなくやりそうな気はしたが」


 まさか初めて実践する魔術で、詠唱を破棄してくるとは思わなかった。

 呆れと驚きでため息を吐くストルだが、はにかむオリヴィアを前にして何も言えなくなる。

 

 魔力を使い果たしたのはオリヴィアだけではない。

 人間よりも多くの魔力を持つ妖精族(エルフ)でさえも、『扉』(ゲート)は魔力を喰らい尽くした。


 その理由は解っている。

 不老不死の少女。フェリー・ハートニアが、シンと共に現れたからだ。

 無尽蔵の魔力を持つ彼女が通るだけの『扉』(ゲート)を維持するのは、流石に骨が折れた。


 何よりオリヴィアもストルも、不思議と驚きはしなかった。

 なんとなく。そうなる気がしたからだ。

 ひとつの大きな影となった二人を見上げながら、少女はぽつりと呟く。


「後は頼みましたよ、みなさん」


 もう魔力を全て絞りつくした。何も出来ない。けど、やりきった。

 オリヴィア・フォスターは、ストルと共に全ての命運を仲間へと託した。


「よっ、ご苦労さん」

「ベルさん。イリシャさん」


 そんな彼女を労うかのように、白衣の女性が姿を見せる。

 同じタイミングで『扉』を抜けてきた、この状況に備えるべく奔走した女性。ベル・マレット。

 彼女の隣には、銀髪の美しい女性の姿もあった。


「オリヴィアちゃん。ストルも、ありがとう」

「イリシャさんがお礼を言うの、変ですよ」


 謝るイリシャに対して、オリヴィアはくすくすと笑う。

 世界再生の民(リヴェルト)との戦いは、ミスリアが発端だ。ユリアンはなにひとつ、関係が無い。

 更に言えば、シンやフェリーだってそうだ。むしろ自分達ミスリアの人間が「ありがとう」と言いたかった。


「ううん。それでも、ありがとうって言わせて欲しいの」


 だが、イリシャは礼の言葉を仕舞い込むつもりはなかった。

 自分のせいで狂ってしまった夫が、世界を救う一端になるかもしれない。

 得た力を、正しく使えるかもしれない。その想いから、出た言葉だったからだ。


(ユリアン、お願い。フェリーちゃんを、シンを。そして、世界を護って)

 

 一方的で、勝手だけれど。それが少しでも、人生が狂った者への贖罪になると信じて。

 イリシャ・リントリィは、愛する夫(ユリアン)の最後の戦いを見守ると決めた。


 ……*


「なに、あれは……」


 『扉』の向こうから現れた異質な存在に、ファニルは訝しむ。

 その理由は、シンとフェリーが跨っている魔導具にある。

 

 初めはマナ・ライドだと認識していた。

 装甲を厚くし、少しでも頑丈にと無駄な努力をしたものだと思っていた。


 だが、違う。マナ・ライドではない。そう認識をしたのは、機影が大きく変わったその瞬間。

 魔術金属(ミスリル)魔硬金属(オリハルコン)による合金で造られた翼が、鳥のように広がってからだ。


「ほ、ホントに飛んでるよ!?」


 美しい金色の髪を靡かせながら、フェリーは驚きと興奮を隠せない。

 シンの腰に腕を回しながら、信じられないという顔をしていた。


「このまま、邪神の元へと向かうぞ」


 操縦桿を握り締めながら、シンが搭載された魔導石(マナ・ドライヴ)の魔力を解放していく。

 マレットが予め用意しておいた魔導石・廻(マナ・ドライヴ・ギア)だけでなく、灼神(シャッコウ)霰神(センコウ)から供給された魔力は鋼鉄の鳥を加速させる。


 ……*


「シン。コイツに乗れ」

 

 ミスリアへと転移する直前。

 マレットは自らが跨っていたマナ・ライドを降り、シンへ乗るように促した。

 

「マナ・ライドに……?」


 いつもより装甲が分厚く、それでいて空気が流れる様に洗練された形状のマナ・ライド。

 初めて見る形のマナ・ライドに、シンは眉を顰めた。


「いいや。マナ・ライドじゃない。コイツは、マナ・フライト。

 アタシたち人間が、空を飛ぶ為の魔導具だ」

「空を……?」

「まあ、こんな感じだ」


 訝しむシンに答えを提示するかのように、マレットはマナ・フライトから翼を展開する。

 魔導石・廻(マナ・ドライヴ・ギア)による魔力と、車体に刻み込まれた重力と風の魔術が鉄の塊を宙へと浮かせた。


「う、浮いてる!」

「だから、空を飛ぶって言ってんだろ」


 マレットはケタケタと笑いつつも、期待通りの反応がフェリーから得られた事に満足していた。

 一方でマナ・フライトの存在とマレットがこの場に居るという事実から、シンはあるひとつの結論へと辿り着く。


「マレット。これ、相当な速度が出るだろう」

「ご名答。はっきり言うが、やり過ぎたってぐらいに速度が出る」

「……やっぱりか」


 悪びれもせずに、マレットは肯定をする。

 転移魔術が使えない状況で、芸術の国(クンストハレ)へ短時間で辿り着いた理由に合点がいった。

 彼女はマナ・フライトを飛ばして、シン達の元へと辿り着いたのだ。


「ついでに言うと、色々と仕込んでるんだよ。

 お前なら、使いこなせるはずだ」


 そう言いながら、マレットはマナ・フライトに搭載された機能を説明する。

 それはかつて、ピースが風祭祥吾だった頃の記憶から着想を得た魔導具だった。

 俄かには信じがたい話だが、彼らの世界では魔力が存在しないにも関わらず、鉄の塊が空を飛ぶというのだ。


 尤も、ピースは空を飛ぶという優位性から争いの道具が沢山生まれたとも言っていた。

 凄いと思う反面、どの世界も変わらないのだなと思うところがあった。


 ただ、マレットは彼の知識を聞き流すだけに留めなかった。

 空を飛ぶ兵器。戦闘機について、抽象的でもいい。彼が知る限りの事を教えてもらう。

 邪神との戦いに於いて、必要になると感じたから。


 そうして出来上がったのが、マナ・ライドを基に造られた魔導具。マナ・フライト。

 たった一点しかない魔導具。それは、自分が最も信頼する人物へ託す為に造られた物でもあった。


「無理に使えとは言わない。だけど、これはお前の力になるはずだ」


 空白の島(ヴォイド)で、山のように高く聳える邪神の話を聞かされた。

 邪神を救うというのであれば、足元で叫んでいるだけでは済まないだろう。戦う事にもなるだろう。

 だからこそ、マレットはこの力が必要だあと感じていた。


「ありがたく、使わせてもらう」


 シンもまた、彼女の想いを正しく受け止めていた。

 いつだってそうだ。ベル・マレットは、自分を支えてくれる。


 だから、情けない姿は見せられなかった。

 彼女の期待に応える為にも。

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