489.彼の生き方、彼女の生き方
オリヴィアがコーネリアの領域に足を踏み込んでいた頃。
マーカスと対峙したトリスもまた、己の戦いに身を預けていた。
「マーカス! 今すぐ貴様が操っている者たちを止めろ!
そうすれば、命までは奪いはしない!」
トリスは最大限の譲歩をしながら、マーカスを止めるべく戦い続ける。
これ以上、罪を重ねるな。それは、自分が深い後悔を抱いたからこそ出せる言葉でもあった。
しかし、マーカス・コスタは気の迷いから世界再生の民に身を寄せたトリスとは違う。
彼は性根から、悪意に染まり切っている。ある意味では、生まれたての邪神よりも性質が悪いと言えるほどに。
「そのような世迷言に、誰が耳を傾けるものか!
神器を得たからと言って、裏切り者だった貴女にそこまでの決定権があるとは思えない。
何より、研究が行えないのであれば私にとっては死んだも同然だ!」
賢人王の神杖から放たれる魔術を受け止めるのは、マーカスによって生命を弄ばれた魔物達。
指輪の魔石に命令を下すと、合成魔獣はたちまち主人を護る肉の壁と化す。
肉が焼け焦げ、不快な臭いが狭い空間に充満していく。
合成魔獣の素体となった人間の苦しみ、悶える声が響き渡たった。
今、この瞬間も。この世を呪う怨嗟が邪神へと伝わっていく。
「貴様というやつは、どれだけの命を虚仮にすれば気が済むのだ!」
断末魔の叫びを経て、トリスは不快感を露わにした。
彼はいつもこうだ。自分が傷付く事を知らず、他者の苦しむ様を見てほくそ笑んでいる。
ある意味では、最も邪悪な存在。
「ステラリード卿。貴女こそ、召喚魔術を用いて魔物に戦わせていたではありませんか。
私と貴女で、何が違うというのですか?」
「っ!」
トリスとて、自身の召喚できる魔物を使い捨てにしたではないか。
そう指摘するマーカスを前にして、痛い所を突かれたとトリスは顔を強張らせた。
「私は貴様のように、命を弄んでいたわけでは……!」
「弄んでいるだなんて、心外です。私とて、より高みへ登るために研究を続けているに過ぎません。
どうして、貴女の基準で決められているのですか? 魔物を使い捨てにした貴女は、命を弄んでいないのですか?」
口の減らないマーカスを前に、トリスは更に表情を強張らせる。
マーカスを否定したいのは、同族嫌悪からなのか。
彼のペースに乗せられているとも気付かず、トリスは胸に不安を過らせた。
(そうだ、迷え。躊躇しろ)
一方で、目論見通りの状況へ持ち込めたとマーカスはほくそ笑む。
無理もない。マーカスはあくまで研究者。純粋な戦闘力で、トリスに勝てる道理は無かった。
故に彼が狙うのは、この空間中に仕込んだ合成魔獣や人造鬼族による奇襲。
まずはトリスから賢人王の神杖を手放させ、反撃の手段を奪った上で制圧をする。
公私ともに一生。その身を弄ぶ事が出来るのであれば、マーカスにとっての最高。
気の強い女のプライドを、時間をかけてゆっくりと嬲っていく様はさぞかし愉しいだろう。
尤も、あくまでそれは努力目標に過ぎない。
反抗の態度が改まらないのであれば、勿体ないが殺す事も厭わない。
もう少し。後少し隙が生まれれば。
合成魔獣を一斉に襲わせ、制圧をする。
指をほんの少し動かす。唇をほんの少し揺らすだけで、数多の生命が自分の意のままに動く。
かつてピアリーで行った残虐非道の数々を思い返し、マーカスは身体を震わせた。
もうすぐ、またあの支配者としての感覚が愉しめる。そう思うと、昂る感情を止められない。
「――っ」
(さあ、考えろ。言葉を探せ。意識が戦いから逸れた瞬間が、貴様の最期だ)
心臓が弾ける様を感じながら、マーカスは息を呑んだ。
トリスが真っ直ぐと自分を見据える。口を開くと同時に、合成魔獣を襲わせる。
勝利は目前に迫っていると、マーカスは確信していた。彼女の口が開く、その時までは。
「――六花の新星」
しかし、トリスの口が動いた瞬間。状況は一変する。
周囲に走るは氷の結晶。擬態した合成魔獣や人造鬼族も関係がない。
瞬く間に、氷で覆い尽くした空間が完成する。
「気付いていたのか!?」
賢人王の神杖を用いて拡張した六花の新星は、合成魔獣達が表へ出る事を許さない。
切り札を失ったマーカスは狼狽し、トリスへと問いかける。
「……考えてみれば、妙な話だ。貴様は、私以上に臆病で矢面に立とうとはしない。
臆病で、狡賢くて。それでいて、誰よりも歪んでいる。
かつてはフェリー・ハートニアに邪神の実験体を斃された経験さえもある。
ならば、罠を仕込んでいる。いや、自分を防衛する手段はいくら用意しても足りないだろう。
貴様は、そういう奴だ。だから、察知されたに過ぎない」
「くっ……」
自分もマーカスと同じなのではないか。
そんな考えが頭を過った時、とある言葉が彼女を救った。
――お前さんは気負い過ぎなんだよ。
とてもだらしない、怠惰な男が遺してくれたもの。
それは彼女の思考を、既の所で矯正をしてくれた。
マーカスの言葉は、本質を突いたかもしれない。
だけど、今の状況には関係が無い。自分はあくまで、彼を止めに来た。
気負いを棄てた結果、己がするべき事を見つめなおせたのだった。
一方でこうも考える。
確かにマーカスの言う通りかもしれない。
自分だって、召喚した魔物の命を蔑ろにしたかもしれない。
認めざるを得ない。自分の過ちに付き合わせて、散ってしまった命は確かにあるのだと。
だからこそ、トリスには大切にしている仲間がいる。
自分に唯一、手元に残した炎爪の鷹のヴァルム。
彼女にとって、支えにもなってくれた大切な存在。
罪滅ぼしと言っていいのかは、判らない。
だけど、自分のせいで散ってしまった命の分は償う。そう決めた。
(ジーネスには何か言われるかもしれないが、そもそも奴の言葉が全て正しいかは別の話だな)
とてもだらしない男は、大きな影響を与えてくれた。
ただ、自分がそうなりたいかどうかは別の話だ。
ジーネスの話は都合のいいように解釈すると、トリスは決めた。
きっとその方が、彼も喜んでくれる。そんな気がしたから。
「マーカス、貴様はここまでだ。
貴様が操っているもの全てを、今ここで止めてもらうぞ」
トリスは賢人王の神杖の先端に魔力を込め、マーカスの眼前へと突き出す。
命までは奪わせるなという、最後の通告として。
……*
自分が『始まりの魔術師』を越えるのは、今でなくても良い。
全員で勝つ。オリヴィアのその言葉に、偽りはない。
「テランさん」
オリヴィアは自らが握っていた杖を、テランへと投げる。
その堂々とした所作に面を喰らったコーネリアは、罠である可能性を警戒していた。
(あれはたしか、魔導具の障壁を出していたね。
下手に手を出すと、こっちがヤケドするか?)
杖の柄からは、『羽・盾型』が射出されていた。
真言では無効化できず、下手に触れる事は叶わない。
何より、オリヴィアから攻撃の気配が感じられなかった事により下手に手出しが出来ない。
尤も、これが彼女の望んだ状況である可能性は高い。考えが読めず、中々に強かだと感心をしていた。
「オリヴィア? なんのつもりだい?」
ただ、テランの言葉でコーネリアは眉根を寄せる事となる。
じっと杖を見つめては、テランが首を傾げているのだ。
何か策があるはずだと目論んでいたのだが、これでは意味が解らない。
(フォスターは何を企んでいる?)
思考が誘導され、コーネリアはハッと我に返る。
そう、誘導されていたのだ。思考だけでなく、視線までも。
杖を渡す動きはあくまで囮。
あまりにも堂々としているが故に、勘繰ってしまった。
彼女から目線を離した一瞬を、コーネリアは後悔する。
「あれ? 要りませんでしたか?」
「ああ、僕には義手がある。君に返すよ」
テランからオリヴィアへ杖が投げ返される。なんてことはない、ゆったりとした動作。
しかし、変化は起きていた。オリヴィアの爪先が、ほんの僅かではあるが外へ開いている。
(何を仕込んだんだ? オリヴィア・フォスター!)
強い警戒と僅かな期待を胸に、コーネリアはオリヴィアを見据える。
彼女がこう勘繰る事までが、オリヴィアの計画の内だった。
「ストル! ピースさん!」
爪先の動きに、直接的な意味はない。
こうすればコーネリア・リィンカーウェルは自分を警戒してくれる。
一歩先の領域に踏み込んだ。彼女にとって無視できない存在となったからこそ、取れた行動。
オリヴィアがコーネリアから奪ったのは、一瞬の時間と判断力。
その隙間を埋めるのは、信頼する仲間。
「任せてください!」
ピースが放つは、颶風砕衝。
元々、長い詠唱を必要とするこの魔術をピースは敢えて破棄をした。
まだ魔術師として未熟であるが故に、小規模な竜巻が生み出される。
「こんなモン! 真月!」
だが、詠唱を破棄したという事は完結していない魔術を放ったという証左。
コーネリアにとっては脅威ではない。現に、颶風砕衝は真言によって呆気なく打ち消される。
尤も、当然ではあるがその弱点は織り込み済みだ。
ピースが求めた結果は、コーネリアへの有効打ではない。
いくつもの亀裂が入った。割れた大地を竜巻によって持ち上げる事。
颶風砕衝を放った瞬間。その目的は既に達成されている。
「十分だ、ピース」
ピースが繋いだバトンを受け取るのは、精霊魔術の使い手であるストル。
持ち上がった大地を繋ぎとめ、コーネリアを取り囲むように魔造巨兵を精製していく。
「魔造巨兵が本命か! しゃらくせえ!」
間髪入れずに打たれた次の手に感心をしながらも、まだ甘いと言い放つコーネリア。
浮き上がった土塊はどれも疎らで、術者であるストル自身も十分な魔造巨兵が生成できていない。
これならば真言の頼る必要はないと、コーネリアは水の魔術で迎撃を行う。
無論、その間も残る戦力への注意は怠らない。
魔造巨兵に隠れる形で移動をするオリヴィアとテランを、視界の隅に捉えていた。
(フォスターと右腕が義手の兄ちゃんは、動き回ってやがるな。何を企んでいる?)
この瞬間。コーネリアは魔造巨兵も囮であると断定をした。
オリヴィアとテランが移動をする為の目眩まし。あくまで本命は、あの二人のどちらかだ。
そう判断したからこそ、冷静でいられた。
「だから、コイツも囮だな!」
「げっ!」
水の魔術によって、泥と化した魔造巨兵。
その奥から襲い掛かる『羽』に、コーネリアは気付いていた。
絶対的な魔力の差を見せつけるかの如く、ピースよりも強い風の魔術で気流を乱す。
纏った泥を噴水のように撒き散らしながら、『羽』が地面へと叩きつけられる。
(さあ、どうする? フォスター!)
『羽』さえも囮と判っていながらも強い魔術を使用したのには、意味がある。
泥による壁は視界を遮る。壁抜きによる攻撃は無意味だと、今しがた見せつけたばかりだ。
それでも壁の向こうから攻撃をするか、別の手段を採るか。選択が迫られている。
「だったら!」
泥壁の向こうで、オリヴィアの声が聴こえる。
次の瞬間、崩れ落ちるはずだった泥はその形を保っている。
オリヴィアによる凍撃の槍が、吹き上がった泥を固めた結果だった。
「そう来たか!」
壁を抜くのではなく、固定させる。
真言で溶かす事は容易いが、彼女が狙っているのはその隙だろう。
胸が躍ると同時に、思惑通りに行かせてなるものかと反骨精神を見せるコーネリア。
彼女が敢えて真言の力を解き放つのは、ある意味では必然でもあった。
「――真土」
「きゃっ!?」
土の真言が、地面に大きな揺れを引き起こす。
固まった泥諸共、崩れる足場にオリヴィア達は体勢を崩す。
恐らくは杖を落としてしまったのだろう。
カランと地面の響く音が、彼女の位置を報せる結果となってしまった。
「残念だったな。折角走り回っていたのに」
壁が崩れ、体面したコーネリアは膝をつくオリヴィアと対面した。
『始まりの魔術師』が見下ろす中、オリヴィアの顔は敗北を認めていない。
「いえいえ。走るのも飽きて来たところだったんで」
不敵な笑みを浮かべるオリヴィア。
戦意が萎えていない事を、コーネリアは嬉しく思った。
現に彼女達が止まったのは、足だけだ。
同じく膝をついていたテランから放たれるのは、魔導弾。
最速を誇る稲妻弾が、コーネリアを狙い撃つ。
「その魔導具は、大分厄介だよ。本当に」
詠唱もイメージも必要のない、完結した魔術が道具で再現されている。
技術の進歩に舌を巻きながらも、テランの一撃はコーネリアへ届かない。
魔術によって造られた結界が、稲妻を遮る。
結界と稲妻弾が触れ、激しい光が周囲を覆う。
視野が極端に狭くなったその時を、オリヴィアは狙いすましていた。
「ええ、わたしも思いますよ。ベルさんは、本当に天才だって」
「――っ!」
コーネリアが身の危険を察知したのは、本能によるもの。
それだけ彼女は、オリヴィアを警戒していたという証左。そして、オリヴィアはその期待に応えて見せた。
掌に収まる程度のオリヴィアが、コーネリアの足元へと出現する。
先刻も見た、流水の幻影による分身。焼きまわしの如く、小さな掌から魔術が撃ちあげられようとしている。
「同じ奇襲を使うのは悪手だ。フォスター! ――真水!」
ここまでお膳立てをして尚、『始まりの魔術師』へは届かない。
水の真言がかき消すのは凍撃の槍だけではなく、流水の幻影そのもの。
オリヴィアへの意識を決して途切らせはしなかったコーネリアが、上回った形となる。
ただ、代償はある。オリヴィアに割いていた意識が色濃くなると言う事は。
他への警戒が薄れている証明に他ならない。
「――影縫」
流水の幻影が消えるまでの間。
詠唱を終えたテランが、影縫を放つ。
影の帯がコーネリアへと巻き付き、テランへと引き寄せられていく。
「テメッ!?」
コーネリアが真言を用いて影縫を掻き消すも、勢いまでは殺せない。
徐々にテランとの距離がゼロへと近付く。
「これで――」
彼女の接触に合わせ、義手の肘から二本の杭が伸びる。
腕に内蔵された魔硬金属の槍が、コーネリアを貫くべく放たれた。
「まだだっ!」
義手の機構が解放される。即ち、真言で対処できる可能性は極めて低い。
咄嗟に察したコーネリアは、全神経をテランの腕へと切り替える。
一点に集中した魔力の結界が、放たれる槍と接触する。
「ぐうぅぅぅぅ……っ!」
想像以上に勢いで射出された魔硬金属の槍は、コーネリアから余裕を奪った。
気を抜けば、結界そのものが突き破られてしまう。逆に言えば、耐える事が出来ればテランは成す術がない。
「……なんだ!?」
気を張るコーネリアだったが、結界に異変が起きる。
その発端は、結界の前へ再度現れた流水の幻影による分身。
小さなオリヴィアが結界へ触れた途端、結界の出力がみるみる落ちていく。
「フォスター!」
「へへ、よくお気づきで」
見なくても判る。彼女がどんな顔をしているか。
理由はすぐに察しがついた。彼女は自分と同じ領域に踏み込んだのだから。
今、彼女は間違いなく自分の結界を真言と同じ手段で掻き消そうとしている。
彼女自身ではなく、水の分身を通して。
尤も、オリヴィア自身も最後の賭けに等しかった。
消耗した魔力の量が大きすぎる。この攻防の後、自分はきっと出涸らしになるだろう。
だからこそ、確実に決めなくてはならない。
「こンの……!」
対するコーネリアも、最後の意地を見せる。
このままでは、槍が結界を突き破る。そうなれば、自分に成す術はない。
防ぎ切らなくてもいい。直撃を避けるべく、彼女もまた魔力を振り絞る。
「真火!」
炎の真言を唱え、結界の内側から爆発を引き起こすコーネリア。
自分が負傷する事も厭わず、彼女は爆風により強制的にテランと距離を置いた。
亀裂の入った大地では、誰もすぐには接近出来ない。
魔術による攻防を仕切り直そうとした瞬間。爆発は起きた。
「――っ!?」
足元から放たれる炎が、コーネリアの身を灼く。
理解が追い付かない。誰も近付いてはいない。魔術を使った形跡もない。
ただ、炎を浴びた瞬間に理解した。これは、完結した魔術だと。
「これが、本当の切り札ですよ……」
魔力を使い果たしたオリヴィアが、ふらつく身体を起こす。
その手に握られているのは、ひとつの魔導具だった。
「なんだよ、それ……」
今までの戦いで見せられなかった魔導具を前に、コーネリアは眉を顰める。
オリヴィアは大地の亀裂へと指を差し、彼女の疑問に答えた。
「転移魔術ですよ。簡易転移装置を通して、魔導弾をコーネリアさんの足元へ転送させました」
「転移魔術……。これが、か」
それは、魔力を持たないシンのみが短距離の転移を可能とする魔導具だった。
魔導砲を充填している間は、彼でさえも転移できない。
シンはその点を改良点として挙げていたが、それはある事実を浮き彫りにする。
使用していない魔導弾は、魔導石からまだ魔力を放っていない。
故に、簡易転移装置を用いての転移が可能だという点。
そして、シンが立証している事実はもうひとつ。
雷管から叩けば、魔導弾は刻まれた魔術を解放する。
これらの事実を元に、オリヴィアは作戦を組み立てた。
本来なら、この簡易転移装置はシンに渡す予定だった。
しかし、彼らの旅立ちに間に合わなかったが為にオリヴィアが持ち歩いている。
今回の戦闘に於いて、それが功を奏した。『始まりの魔術師』の虚を突く、たった一回限りの切り札として。
杖を一度テランへ投げたのは、『羽』が収まっていた空洞へ魔導弾を仕込んで返してもらう為。
泥壁の向こうで杖を落としたのは、簡易転移装置の輪を仕込む音を隠す為。
気付かれるかどうか。この場所へ誘き寄せられるかは賭けだった。
彼女達は、細い糸を全て通しきったのだ。
「――そうか。お前さんたちは、何重も罠を仕込んでいたんだな」
「言ったじゃないですか。ちゃんとみんなで勝つって。
ズルいかもしれませんけど、勘弁してください。なんと言っても『始まりの魔術師』相手に、勝たないといけないなんて無茶振りだったんですから」
苦笑するオリヴィアは、手札を使い切ったと自白したようなものだった。
「はは、変なトコで律儀な奴だ」
「これでも、個人的には尊敬してますから」
身体が崩れ落ちる中で、コーネリアも釣られるように苦笑した。
彼女は、何が大切かを理解している。きっとこれからも見失わないだろう。
次代を担う者の生き様を見せられ、コーネリアは満足をしていた。