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その魔女に祝福を  作者: 晴海翼
第二部:第八章 再会
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433.告げなくてはならないこと

 転移魔術の設置後。シン達は一度、ミスリアへと帰還する。

 王妃へ完了を伝えた後に妖精族(エルフ)の里へと戻ろうとする中。

 背後から、呼び留めようとする声が聴こえた。


「シン・キーランド!」


 振り返ると同時に、燃え盛る炎のような紅の髪が視界へと入る。

 シンを見つけたイルシオン・ステラリードが、小走りで近付いてくる。


「イルシオンか」

「お久しぶりです、シンさん」


 行動を共にしていたと思われるイディナが、イルシオンの影からひょいと姿を見せる。

 はにかみながら会釈をする様を、シンはぼんやりと眺めてた。


「……あのう、シンさん?」


 異変を感じ取ったイディナが、小首を傾げる。

 まさか自分の顔を忘れてしまったのではないだろうかと、少しばかり不安を覗かせていた。

 

「いや、すまない。イディナも一緒だったんだな」

「はい! イルさんやフィアンマさんと、ミスリアの各地に転移魔術を設置してきましたよ!」


 一仕事やり切ったと言わんばかりに、八重歯を覗かせるイディナ。

 吸血鬼族(ヴァンパイア)との争いでは命の危機に扮したらしいが、彼女は「みなさんのおかげで、なんとなかりました!」と笑顔を絶やさない。


 当然ではあるが、シンはイディナの事を忘れてなどいない。

 ただ、彼女を見ていると色々と思い出してしまっていた。

 

 イディナやフィアンマを通して、シンとフェリーはミシェルと逢うに至った。

 得た情報を元に、フェリーはリオビラ王国へと旅立っている。

 

 フェリーはクロエと自分を会わせたくなかった。

 一方で、自分も今回の旅にフェリーは連れていけなかった。


 今までに別行動をする事はあっても、全く違う目的地というのは初めてとなる。

 フェリーは無事に旅を終えられただろうかと、今もまだ心配をしている。


 そして、もうひとつ。全くイディナとは関係がないのだが。

 妹のリンは、今の彼女に近い年齢で命を落とした。背格好はイディナの方が少しだけ小さいだろうか。

 顔立ちも決して、似ている訳ではない。それでも、どうしてもリンと重ねてしまっていた。

 

 心当たりはある。テランに調べてもらった答えに起因するものだろう。

 自分の想像通りの結果だったからこそ、家族の事が脳裏を過るのを避けられない。


「そういえば、昨日フェリーさんも帰って来てましたよ。

 今回は珍しく、別々の場所に行ってたんですね」


 事情を知らないイディナが、何気なくフェリーの帰還をシンへと伝える。

 シンの心臓が、僅かに鼓動する感覚を短くする。


「そうか。フェリーは、どこに居るんだ?」

「報告を済ませて、妖精族(エルフ)の里へ戻っていったぞ」

「分かった。俺も妖精族(エルフ)の里へ戻る。情報、感謝する」


 イルシオンがフェリーの行先を伝えると、シンは足早にその場を去っていく。

 追従するテランが一度だけ振り返り、手で「すまない」と合図していた。


「……待ち合わせでもしていたのか?」

「どうなんでしょう?」

 

 転移魔術を使えば、妖精族(エルフ)の里へはすぐに戻れる。焦る必要はないだろうに。

 取り残されたイルシオンとイディナが互いの顔を見合わせては、首を傾げていた。


 ……*


「シン!」


 戻ってきたシンとテランを出迎えたのはフェリーではなく、イリシャだった。

 彼女もまた、シンの帰還を待っていたのだ。


「……フェリーの様子はどうだ? クロエには逢えたのか?」


 シンの問いに、イリシャは少しだけ考える素振りを見せた。

 数秒の間を置いて、彼女は自分が感じた事をそのまま伝える。


「あまり良い結果とは言えないけれど……。

 でも、きっとフェリーちゃんなりに区切りは付けたと思うわ」

「そうか」


 イリシャの反応から、クロエの人物像を想像する。

 概ね、ミシェルが言っていたような人間に近かったのだろうか。

 それならばやはり、文句のひとつでも言ってやりたい所だ。フェリーには止められるだろうが。


 フェリーの気持ちを慮り、奥歯を噛みしめるシン。

 その反対側では、イリシャが己の二の腕を強く握りしめていた。


「フェリーちゃんのこともだけど。シン、貴方は……。

 ううん。()()()()()は――」

 

 知りたかったのだ。シンが旅で確かめて来た答えを。

 シンの想像通りなら、自分も無関係ではないから。

 

「……俺の思った通りだった」


 少しばかり言い辛そうにするシン。対するイリシャは、言葉を失っていた。

 覚悟はしていた。『嫉妬』(レヴィアタン)幻影(ヴィジョン)が映し出した姿からも、懸念は現実味を帯びていた。


 ただ、違う。もう「かもしれない」では居られない。

 フェリーの内に潜む存在を、彼女も確信した瞬間だった。


「そう、なの……」


 ようやく言葉を絞り出したイリシャだったが、どんな顔をすればいいのか分からなくなっていた。

 シンの心も、決して楽ではない。重苦しい雰囲気の中、それでも彼はこう言う以外の選択肢を持たない。


「伝えよう。フェリーに」


 それはイリシャではなく、自分に言い聞かせた言葉。

 知ってしまったから。もう、後戻りできないから。

 シンは心臓の動悸が強まっていると感じながらも、フェリーの元へと歩んでいった。


 ……*


「おかえり、シン」

「ああ、ただいま」

 

 久しぶりに会ったフェリーの姿は、当然ながらいつも通りだった。

 強いて言えば、少しだけ笑顔がぎこちない。まだ完全に心の整理がついていないのだろう。

 

 ただ、フェリーもシンに会いたくて仕方が無かった。

 互いの旅の話をしようと、彼を部屋へと招く中。彼の後ろから、銀色の髪が顔を覗かせる。

 見間違うはずもない。イリシャのものだった。


「あれ、イリシャさんも?」

「ええ、わたしも話に入れてもらっていいかしら?」

「うん、ゼンゼンへーきだよ」


 自分以上にぎこちない笑みを浮かべるイリシャに、フェリーは特に疑問に思わなかった。

 むしろ、居てくれた方がありがたいと二つ返事で頷く。


「フェリー。クロエに逢えたというのは、イリシャから聞いた。

 それで、フェリーを産んだ人間かどうかは……」

「えとね、わかんない。というか、知りたくなかった……かな?」


 シンの問いに対して、クロエはばつが悪そうに苦笑した。

 「訊けなかった」ではなく、「知りたくなかった」という返答を訝しむシン。

 フェリーがそう選択した意図を知りたいと思い、焦らせないように腰を据えて彼女が語り始めるのを待つ。


「クロエさんにもね、娘がいたっていう話は聞いたよ。

 仕方なく、離れ離れになったんだって。生きていれば、今のあたしと同じぐらいの年齢だって。

 だったら、あたしじゃないかなって。もし本当にあたしだったら、クロエさんはあたしに興味がなかったんだなって」


 フェリーの言わんとしている意図は、シンにも理解が出来る。

 彼女は16歳から成長が止まっている。容姿を見て同じぐらいの年頃だと言うならば、それはフェリーではない。

 つまりクロエは娘をやむを得ず手放した訳ではない。最後の最後まで、興味を持たなかったのだ。


「それに、クロエさんはあたしの人生を勝手にツラいって言ったから。

 それはちょっとだけ、許せなかったの。あたしはちゃんと、幸せだったもん。

 勝手にそう決めつけるひとが、もしも産んだひとだったらヤだなってなったの」


 そう語るフェリーは、憤慨しているようにも見えた。

 怒りの源泉は思い出。彼女がどれだけカランコエでの生活を大切に想っているかの証明。

 今も変わらずそう言ってくれるフェリーを、シンは愛おしく思う。


 同時に、こうも思う。

 だからこそ、はっきりさせなくてはならない。と。


「あたしのほうはこんなカンジだよ。

 シンはどうだったの? っていうか、ドコ行ってたの?」


 そろそろ教えてくれてもいいだろうと、頬を膨らませるフェリー。

 イリシャの視線が泳いだ理由を彼女が知るのは、その直後。シンから行先を告げられてからの事だった。

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