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その魔女に祝福を  作者: 晴海翼
第二部:第六章 芽吹く悪意

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349.合流、そして分散

 イルシオンがブラドを、フィアンマがオルゴを討伐する数日前。

 王宮に設置された転移魔術が作動し、妖精族(エルフ)の里からの援軍が到着をする。

 その中には、ミスリア第三王女フローラ・メルクーリオ・ミスリアの姿も混じっていた。

 

「イレーネ姉様、ご無事ですか?」

「フローラ! 貴女まで、どうして……!?」


 第二王女(イレーネ)は可愛い妹との再会よりも、妹がこの場(ミスリア)に居るという事実に動揺を隠せない。

 妖精族(エルフ)の里で身を匿ってもらっていたというのに、戦時中に戻ってきたのだから当然の反応でもあった。


「ミスリアの者は勿論、妖精族(エルフ)や魔獣族。龍族(ドラゴン)にまで力を貸していただいているのです。

 妖精族(エルフ)の里で私だけがのうのうとしているわけにはいきません」

「けれど……」


 それは第一王子が、ビルフレストが命を狙っているからだ。

 窘めてどうにか妖精族(エルフ)の里で匿ってもらおうと画策をするが、隣に立つオリヴィアが手をぶんぶんと左右へ振っていた。


「無理ですよ。フローラさまは、こうなったら止められません。

 わたしもお姉さまも散々、危ないって忠告したんですから」


 イレーネは視線をアメリアへと動かすと、彼女も苦虫を噛み潰したような顔をしながら頷いている。

 フローラは、紛れもなく自らの意思でミスリアへと足を踏み入れた。


「当然ではないですか。リタ様やレイバーン様も来てくださっているのですから。

 私に出来ることは限られていますが、精一杯務めを果たすつもりです」

「まあ、理屈は解るんですけど……」


 既にミスリアへ常駐をしている、紅龍王(フィアンマ)だけではない。

 妖精族(エルフ)の女王であるリタ。魔獣族の王であるレイバーンまで、ミスリアへ赴いている。

 味方の士気を上げる狙いもあり、自分が帰らない理由はないという主張に全員が折れての帰還だった。


「ところで、現況を教えていただいてもよろしいでしょうか?」

砂漠の国(デゼーレ)の進軍はカッソ砦で抑えている状態だ。

 詳しいことはヴァレリアの元で話をしよう」

「ええ、そうですね」


 ロティスはアメリアの問いを簡潔に答えつつ、ヴァレリアの元へ向かうように促す。

 援軍が来たとなれば、騎士団長であるヴァレリアにも考えがあるはずだという彼の言葉に、一同は従った。


 ……*

 

 妖精族(エルフ)の里から援軍が現れた事に、ヴァレリアは歓喜する。

 同時に彼女が吐いたのは安堵のため息。

 

「ありがたい! これで、カッソ砦にも援軍を送れる!」

「そんなに状況は悪いんですか? 相手は砂漠の国(デゼーレ)ですよ?」


 抱いていた印象との乖離にオリヴィアは訝しむ。

 ヴァレリアの元へ向かう途中、イルシオンやフィアンマが向かったとロティスからは聞かされている。

 第一王女(フリガ)派の離脱により騎士の数こそは減ったが、龍騎士(ドラゴンライダー)も配備されている。

 砂漠の国(デゼーレ)の兵士であれば、難なく抑えきれるだろうと考えていた。


「……邪神の一味が、手を貸しているのでしょうね」

「恐らくはな」


 アメリアの呟きに、ヴァレリアは同意をする。

 実際にカッソ砦へ訪れた際に遭遇した砂漠蟲(デザートワーム)だけに留まらない。

 砂漠の国(デゼーレ)が侵攻を始めると決断する程の戦力が、与えられていると考えた方が良いだろう。


「それだけじゃない。ウェルカや港町(ポレダ)でも、異常発達した魔物が暴れていると報告を受けている」

「タイミング完璧すぎて、隠す気ないじゃないですか」


 いっそ清々しいぐらいだと、オリヴィアが呆れ気味に呟く。

 戦争の開始に合わせて、東部で異常発達した魔物が暴れ始める。

 騎士団の戦力を分散したいという意図が、見え見えだ。


「そうなんだが、ここまであからさまだと逆に動き辛かった。

 ただでさえ、騎士の数はかなり少なくなっているんだ。

 戦力を割いてしまえば、相手の思う壺だ」

「その様子だと、まだ邪神の適合者たちは姿を見せていないようだね」

「テランの言う通りだよ。この状況だ、騒ぎに乗じて邪神で乗り込んでくるかもしれない」


 リシュアンからもその可能性は十二分にあると忠告を受けたからこそ、ヴァレリアは動けなかった。

 彼と同様に世界再生の民(リヴェルト)に所属していたテランも、ビルフレストのやり口だと肯定をする。


「ただ、お前らが来てくれたのなら話が変わってくる。

 テラン、リシュアンはいけると言っていたんだが。お前の考えを聞かせてくれ」

「珍しいこともあるものだね。一体、どうしたんだい?」


 ヴァレリアが訊きたかったのは、三日月島で受けた互いの干渉を遮る魔術。常闇の迷宮(ブラック・ラビリンス)

 闇のカーテンを国境沿いに設置すれば、防衛がかなり楽になるのではないかという相談だった。


 リシュアンの話では、魔術の術式自体は把握している。発動は可能だと、彼は言う。

 ただ、国境を覆うとなれば一人では心許ない。闇の魔術の基礎を把握している魔術師として、ディダは連れて行きたいという話だった。


「術式をリシュアンが把握しているのなら、ディダを補助に回すのは悪い判断ではないよ。

 ああ見えて、魔術の才能だけはあるから」

「なら、決まりだな」


 ディダにとって魔術の師であるテランが太鼓判を押した。

 それはヴァレリアに決断をさせるにとっては、十分な材料。

 こうしてリシュアンとディダは、カッソ砦の窮地に間に合う事となった。


 残す問題は東部に発生している魔物の対処。

 誰を援軍に送るかという話になった時、真っ先に手を挙げたのはピースだった。


「おれ! おれが絶対に行きます!」


 ウェルカはただでさえ治安が悪くなっていると教えられた。そこに異常発達した魔物が幅を利かせている。

 冒険者ギルドは機能しているのだろうか。セレンの身を案じたピースは、居ても立っても居られない。

 

 その次は港町(ポレダ)だ。海の男(ゴーラ)にもピースは世話になっている。

 彼にとって思い入れのある場所を、世界再生の民(リヴェルト)に好き勝手されたくはない。

 マギアへの遠征で同行を許されなかったからこそ、今度こそはという思いが強かった。


「お、おう……。じゃあ頼むよ、少年」

「はいっ!」


 何が何でもと向かうという剣幕に圧され、ヴァレリアは許可を出す。

 気合の入った姿を見せるピースを前にして、このタイミングでオリヴィアは問う。


「ヴァレリアさん。マギアがどうなっているか、情報が入ってたりしませんか?

 ベルさんたちがオルガルさんに呼ばれて救援に向かったんですよね」


 マギアがミスリアへ侵略をするのであれば、まずは東側から攻めてくるだろう。

 異常発達した魔物が暴れているのも東部。最悪、魔物は討伐ではなくマギアに取り込まれる可能性も想定しなくてはならない。

 妖精族(エルフ)の里からでは、他の大陸の情報までは入り辛い。こればかりは、ミスリアの持つ情報が全てだった。


「マギアか。テランやリシュアンから聞かされてアタシも調査はしていた。

 内乱が起きていたようだが、向こうの国王は討たれたという話を聞く」

「それって……」


 状況の整理をするべく、リタが頭の中で状況を思い浮かべる。

 マギアはミスリアへ侵略をしようとしていたのだから、国王が討たれた為以上、計画は白紙となるだろう。

 シン達がマギアで戦争を止めるべく動いていた。その為の要請だったのだと、理解をする。


「うむ。シンたちは上手く行ったということだな」

「あ、やっぱりそれで合ってるんだよね」


 深く頷くレイバーンに、リタは胸を撫で下ろす。

 再会するまではっきりとした事は判らないが、事は順調に進んでいる。


「そうか、それでシンたちは来ていないのか」

「うむ。マギアの者に呼ばれたのでな、援軍へ向かっていたのだ」


 いつも同行しているシンやフェリーの姿が見当たらないと訝しんでいたヴァレリアも、レイバーンの言葉で納得をする。

 彼らはマギアの人間だ。オルガルやオルテール同様に暴走しようとしている故郷を、自らの手で止めたかったのかもしれない。

 それは少しだけ、羨ましくもあった。本来ならば、自分達もそうするべきだと思っていたから。


「……だとすると、東部は少し厄介かもしれないね」

「どういう意味だ?」


 マギアとの戦争は起きないという有益な情報を前に、テランだけが神妙な顔つきをする。

 決して喜ぶ者達を冷やかしている訳ではない。世界再生の民(リヴェルト)に所属していたからこその判断だった。

 

「シン・キーランドたちがマギアの侵略を止めたのであれば、彼らが船でミスリアへ戻ってくるだろう。

 そうなると、最短距離を通れば東部へ辿り着く。世界再生の民(リヴェルト)にとっては、待ち伏せをする絶好の機会だ。

 特に彼らには散々煮え湯を飲まされている。叩けるなら、邪神の適合者を宛がうぐらいはするかもしれない」


 尤も、彼らもそれぐらいは覚悟しているだろうと、テランは付け加える。

 だが、マギアでどれほどの規模の戦いだったかは判らない。傷だらけであるならば、分が悪い戦いとなるだろう。


「……やっぱり東部にはもっと援軍を送るべきだな」

「なら、私が――」


 誰に頼むべきかと思案するヴァレリアに、リタが手を挙げようとした瞬間だった。

 透き通った声が、周囲の空気を支配する。


「アメリア、オリヴィア。一時的に護衛の任を解きます。

 貴女たちが、東部へ向かいなさい」


 声を発したのは、ミスリア第二王女。フローラ・メルクーリオ・ミスリア。

 透明感のある声でありながら、その言葉は芯の通った強い口調で発せられた。


「フローラさま!? 何を言ってるんですか!?」


 唐突に何を言いだすのかと狼狽をするオリヴィア。

 彼女程の反応ではないが、アメリアもフローラの判断には驚いていた。


「テランの話を聞いたでしょう。生半可な戦力を送って、返り討ちにされては意味がありません。

 貴女たちは私が最も信頼をしている二人です。私にとっては、これが最善の策だとしか思えません。

 ヴァレリア、貴女はどう思いますか?」

「その、願ってもないのですが……」


 不意に話を振られたヴァレリアは背筋を伸ばしながら、フローラの考えを肯定する。

 一方で、視線をオリヴィアへと滑らせた。案の定、彼女は頭を抱えていた。


「だったら、どうしてミスリアまで来たんですか!?

 護衛が居なければ、もしもの時に――」

「……っ。オリヴィア、その点はロティス兄さんにお任せください!

 私が片時もフローラから離れませんから! ロティス兄さんに、一緒に護衛をしてもらいます!」


 懇願する第二王女(イレーネ)の眼差しを前に、ロティスは息を呑む。

 恐らくイレーネは、本気でフローラの身を案じての行動だろう。

 もう既に決定事項とでも言わんばかりの雰囲気が醸し出されていた。


「フローラも、アメリアも、オリヴィアも! それでいいでしょう!?」

「はい。我儘を言った私のために、お気遣いありがとうございます」


 イレーネの提案にフローラは感謝をする。

 彼女の役に立てたからだろうか、イレーネの頬が僅かに綻ぶ。


「……ロティスさん。お願いしてもよろしいでしょうか?」

「なるべく早く戻ってきますから。それまでの間、絶っっっ対に守り抜いてくださいね!」

 

 申し訳なさそうに眉を下げるアメリアと、こうなったからには何が何でも護り通すようにと念を押すオリヴィア。

 着実と埋められていく外堀に、ロティスは頷く以外の選択肢が残されていなかった。

 

「……分かりました。この命に代えても、お二人の命は必ずお守りいたします」


 こうしてアメリアとオリヴィアは、ピースと共に東部へと向かう運びとなった。

 その先で待ち受ける運命を、彼女達はまだ知らない。


 ……*


 残るはリタとレイバーン、そしてテラン。

 テランは兎も角、リタとレイバーンはミスリアの地理に明るくはない。

 東部へ向かう機会を失った事もあり、ヴァレリアの要望で王宮の防衛を任されていた。


「すみません。リタ様、レイバーン殿。

 来て頂いている時は、いつも争いばかりで」


 妖精族(エルフ)の女王と魔獣族の王が訪れているというのに、毎回大したもてなしも出来ない。

 それどころか、争いに巻き込んでしまっている。顔を顰めるヴァレリアに、リタは首を横へ振った。

 

「ううん。気にしないで。でも、戦いが終わったら色々な所に連れて行ってもらうからね」

「ええ、それは勿論です」

「約束だね」


 二つ返事のヴァレリアに対して、リタは満面の笑みで返す。

 その様子をレイバーンは、嬉しそうに眺めていた。彼の想いもまた、リタと同様なのだから。


 リタは主に、王都へ張り巡らせた結界の補助を担当する。

 これに合わせて、彼女の魔力感知を用いて暗殺を目論む世界再生の民(リヴェルト)の動きを察知しようと言う狙いがあった。

 併せてレイバーンは、リタの援護を任されている。


 テランは己の考えがあるらしく、騎士団へと合流を果たした。

 それぞれが用意された配置へ向かう中。戦いは更に激しさを増していこうとしていた。

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