207.貴方に伝える、愛のことば
浮遊島を巡っての争いから、一ヶ月が経過した。
カタラクト島や海底都市は既に日常を取り戻している。
唯一変化があったとすれば、浮遊島の処遇だけだった。
「トリィよ。浮遊島は元々鳥人族のものだ。どうしたいかは、君が決めればいい」
傷付いた身体を癒しながら、蒼龍王は鳥人族の少女に問う。
ずっと隠していた島の存在が、悪意の手によって暴露されてしまった。
露わとなった浮遊島を再び封印するべきか、その岐路に立たされている。
「えと、ええっと……」
思わぬ決定権に、トリィはたじろぐ。鳥人族の同胞に助けを求めても、その権利はあっという間に返ってくる。
元々、トリィ以外は取り合おうとしなかった故郷の存在。最後まで言葉を発し続けた彼女こそ、決める権利があるのだと。
「あのぅ、カナロアさま……。わがままを言っても、良いでしょうか……?」
恐る恐る手を挙げるトリィに対して、蒼龍王は笑顔を返した。
「あぁ、勿論だ。我らは家族なのだから」
……*
カタラクト島からほんの少し、小舟で渡った先。
太陽の日差しを目いっぱいに浴びながら、大海原に佇む少年が一人。
ピースの手にはひとつの小さな壺。中に収められているものは、灰の塊。
浮遊島の戦いで命を落とした、ジーネスの遺骨を砕いたものだった。
「おっさん、悪いな。故郷でも訊いとけば、どうにか出来たんだろうけどさ」
壺の中へ手を入れ、掴んだ灰を海へと放り投げる。
海へ溶け込んだ事を確認したピースは、花を浮かべ、酒を流す。
「おれもやるのは初めてだし、作法とか違ったらごめんな」
生前に海洋散骨の経験は無い。うろ覚えで埋葬を済ませたピースは、そっと手を合わせる。
この世界の文化に則って埋葬しようとも思ったが、なんとなく風祭祥吾としても弔ってやりたかった。
それに、カタラクト島からすれば彼は侵略者だ。墓なんて建てられるはずもない。
死後も憎悪の象徴として残るぐらいならと、精一杯考えた結果だった。
「人魚族や海精族が泳いでるからって、テンション上げ過ぎて化けて出てこないようにしろよ」
一応釘を刺してはみるが、彼はきっと自分の忠告など聞きはしないだろう。
海を護っている蒼龍王や、大海と救済の神から叱られないようにしてもらいたいものだ。
ジーネスが遺したものは、あとふたつ。
ひとつは彼の右足に移植されていた、鈍色の石。邪神の分体である『核』の破片。
もうひとつは、彼の装着していた鋼の籠手。装着してみたものの、子供の身体にはブカブカな上に彼の血と汗が染みついて臭かった。
「あの辺は、持って帰るしかないよな」
邪神の『核』は、きっと研究材料としてマレットが喜ぶだろう。
カタラクト島に置いておく事で異変が起きてはいけない。シン達にも相談して、決めた事だった。
鋼の籠手については、正直言ってかなり悩んだ。
飾るにしても不格好すぎると思っていた所、魔導砲の銃身を思い出す。
加工して貰えばいいのではと、考えたのだった。
アメリア曰く、ただの鋼なので魔力を通す翼颴へ組み込むのには向かないだろう。
だから、小人族に頼んでから加工する物を選ぼうとピースは考える。
(あとは、あの娘……。逃げられなかったのかな)
トリスを追った黄龍は、やがて浮遊島へと戻ってきた。
つまり、役割を果たしたのだとピースは考える。彼女を気遣っていたジーネスを思うと、居た堪れない気持ちになる。
今回の事件で、ジーネスやトリスにも責任は多分にある。自業自得だと言われれば、それまでだろう。
けれど、結果としてピースはジーネスの事をあまり嫌いにはなれなかった。
なんやかんや話が合ったからだろうか。情でも湧いてしまったのかと、頭をガシガシと掻き毟る。
あるいは、自分も彼の言う通り別の形で逢いたかったのかもしれない。
「いや、アイツらの方が腹立つからってのもあるか」
一方で、仲間を簡単に殺そうとする邪神の一味には激しい怒りを覚えた。
突然この世界に転生して、世話になったからといって付いて行く。なんとなく、戦う力を持っているから戦う。
風祭祥吾の時と同じだ。友人を傷付けた相手を許すつもりはない。そいつらが世界の脅威となるのであれば、尚更だった。
義理と成り行きで戦っていたピースだが、彼にとっても戦う理由が出来た。
……*
カタラクト島へと戻ったピースは、浜辺へと向かう。
そこで何が待ち受けているのかを、彼は知っている。
「あっ、ピースくん!」
一面に広がる青い海と白い砂浜。足元に転がる貝殻や、縦横無尽に走り回る蟹。
巨大な岩が波によって削られ出来上がった、独創的なオブジェクト。
海を泳ぐ人魚族に、日光浴をする鳥人族。
そして、ぺたんと砂浜に座り込む金髪の美少女。纏め上げた髪から覗かせるうなじが愛くるしい。当然ながら、全員が水着姿だった。
健康的な彼女によく似合う、白いビキニ。収めている胸は今にもはちきれそうだった。
下半身も尻から太もも。更には足首まで纏わりついた砂。ずっと砂浜に座っていた事がよく分かる。
「ありがとうございます……!」
「うん?」
彼女だけではない。人魚族や海精族。更には鳥人族も美女揃いだった。
この場に自分が存在している事を、言葉で感謝するしか出来ない自分を恥じてしまう程に。
事の発端は、例によって治癒魔術の効きが悪いシンにあった。
左腕はひどく腫れ上がっており、ついでに肋骨も折れている。あれだけ無茶をしておいて、肺へ刺さっていないのが奇跡なぐらいだった。
大怪我をしたまま連れて帰る訳にもいかず、毎日アメリアが甲斐甲斐しく治癒魔術を唱えている。
誰よりも早く。それこそ戦闘が終わった直後に全快しているフェリーも、初めは全員の治療を手伝うべく奔走していた。
覚束ない手つき故に、皆をハラハラとさせる。それが島の住人との距離を縮めたのだから、結果的には良い方向へと進んだ。
蒼龍王、ピース、アメリアと徐々に回復が進んでいき、最後に残ったのがシンだった。
待たせていると申し訳なさそうにしたシンが、皆にカタラクト島で遊んで欲しいと言ったのが一週間ほど前の話である。
「ピースくん、見てよ! お城作っちゃった!」
「おお……。し、ろ……?」
得意げに胸を張るフェリーが作り上げたのは、砂で象られた自称城だった。
ただ、そう見えるのはフェリーだけで、ピースには砂の立方体にしか見えない。なんなら中心に穴を開けて、くじ引きでも始められそうだった。
「フェリーさん、これ城っていうか箱……」
「だって、ムズかしいんだもん! 模様とか入れようとしたら、すぐ崩れちゃうし……」
言われてみれば、根本には小さな砂の山が出来ている。きっと削って形成を整えようとした名残なのだろう。
ピースが苦笑していると、対照的にフェリーが頬を膨らませていた。
フェリーはこの一週間、カタラクト島で出来た友人と毎日海へ遊びに来ていた。
潮風だろうが、日焼けだろうが、不老不死の魔女である彼女の前では意味を成さない。その点では、少しだけ羨ましくも思った。
尤も、ピースも暇を作っては海へと訪れていた。水着の美女を拝める機会を、彼がそう逃すはずも無かった。
何なら、前世に存在している遊びも教えた。ビーチバレーや、ビーチフラッグなど複数人で遊べるものを。
要するに、水着姿で健康的に動き回る美女が見たかった。どちらも、人魚族や鳥人族によってルールが破綻してしまったが。
そしてもうひとつ。ピースには心残りがあった。
「うーん……。アメリアさん、遅いね。今日は来るって言ってたのになあ……」
フェリーの言う通り、未だアメリアは一度も海を訪れていない。
シンの治療を理由に断っていたアメリアだったが、大分容態が良くなったシンに「あまり俺に気を遣わなくてもいい。遊んできてくれ」と言われたのが昨日の事である。
この時ばかりは、ピースは心の中で盛大にシンへ感謝の言葉を贈った。
しかし、彼女はまだ現れない。シンの治療が終わった後に来ると、言っていたのにだ。
「あたし、ちょっと見てくるね」
「え? あっ、はい」
そう言って、フェリーはカタラクト島の内部へと走っていく。
迅速な行動を前にして、ピースは呆気に取られていた。
……*
「……これで、今日の治療は終わりですね。まだ、無理はしないでくださいね」
「ああ、いつもすまない」
毎日のように治癒魔術を唱え、僅かでもシンの回復を後押しする。
いつもならここで微笑んで見せるのだが、今日のアメリアは様子がおかしかった。
水着の上に薄手のシャツを羽織っているだけだからだろうか。心なしか、落ち着きが無い。
「えっと、それで……ですね。私のみ、みず……」
アメリアはもじもじと、シャツの袖を擦り合わせる。
俯いた視線は、ベッドで寝ているシンを直視できない。
今回、彼女は治療の後に海へ遊びに行くと言う約束をした。
水着に着替えるのは、治療後でも全く問題は無かった。
それでも敢えて、水着を着て来た理由はひとつ。シンに見せたかったからだ。
彼女なりの精一杯の勇気を振り絞ったのだが、シンからの反応はない。
正確に言えば、少し驚いた様子は見せていた。得られなかったのは、感想だ。
(へ、変だったでしょうか。それとも、シャツを羽織っているのが中途半端でした? いっそ、水着だけで居た方が良かったのでしょうか?
オリヴィア、フローラ様。悩殺なんて簡単に言いますけど、早々できるものではないですよ!)
様々な思考が頭の中をぐるぐると駆け巡る。顔から火が飛び出そうだった。
感想を強要しては、引かれるのではないだろうか。いっそ、このまま海へ遊びに行くのがベストではないだろうか。
視線を左右に動かしたり、ベッドのシーツを握ったり離したりするが、一向に落ち着く気配はない。
「アメリア」
挙動不審のアメリアだったが、シンの言葉でその動きがピタリと止まる。
彼女一人にだけ、妙な緊張感が走る。
「こういうのが正しいのか、判らないけど。似合っていると、思う」
「……!」
不安と羞恥心から赤くしていたアメリアの顔が、喜びによって更に紅潮する。
俯いていた視線は、自然とシンの瞳を捉えていた。
力強く、真っ直ぐな眼。初めて出逢った時から変わらないけど、今はあの時よりも少しだけ彼の事を知れた。
彼がずっとその瞳で追っている存在。彼が大切にしている女性。間に入り込む隙なんて、本当は無いと知っている。
けれど、恋をしてしまった。だから、アメリアはその言葉を口にした。
決して目を逸らさず。思いの丈が、きちんと伝わるように。
今、言えなければきっと自分は永遠に伝えられないと思ったから。
「……シンさん。貴方のことが、好きです」
沈黙を空間が支配する。
短い言葉に、全ての気持ちを籠めた。
シンからの返答を待つ時間が、中々訪れない。
自分だけ時間が止まっているのかと錯覚した。
むしろ、止まっていて欲しいと願っているのかもしれない。結果を聞くのが怖かった。
「アメリア」
名を呼ばれたアメリアの身体が硬直する。シンもまた、彼女からの告白に驚いていた。
顔を紅潮させ、振り絞ったように出した声。本心なのだと理解するのに、時間を必要とはしなかった。
その上で、シンも嘘偽りのない言葉で返す。
「気持ちは嬉しい。けれど、俺はフェリーが好きなんだ。
アメリアの気持ちには答えられない。本当に、すまない」
一点の曇りもない瞳で、シンは彼女を見上げている。
シンにとって、彼女へ見せる事の出来る最大の誠意。
飾らない本心を、アメリアへ返す事だった。
言い訳ならいくらでもできる。
身分も違うし、何より自分は多くの人の命を奪った。
貴族であり、王国を護る騎士のアメリアとはとても釣り合わない。
様々な理由が脳裏を過った。けれども、どれも彼女への返事としては相応しくない。
勇気を振り絞ったアメリアの気持ちを、決して踏みにじってはいけない。
「……はい。知っています」
アメリアは晴れやかな顔で、そう言った。
面を喰らった顔をするシンがおかしくて、アメリアはくすりと笑った。
「シンさんがフェリーさんを好きなのは、勿論知っています。
けれど、どうしても伝えたかったんです。貴方が居たから、私は救われました。
気持ちを伝えたのは、私の我儘なんです。きちんと答えてくれて、ありがとうございます」
知っていた。ずっと、シンはいつもフェリーを気に掛けている。
どこかぎこちなくても、大切に想っているのはすぐに解った。
三日月島で感情が彼の溢れた時、羨ましいと思う反面、良かったと思った。
直向きに彼女を想っているのに、彼が直接的な行動に出す事は無かったから。
愛し合う二人の仲を裂きかねないのに、想いを伝えたのはアメリアの我儘だった。
彼が真摯に答えてくれたのが分かるからこそ、アメリアは嬉しかった。好きになってよかったと、心から思う。
ただ、願わくばもうひとつの我儘には応えて欲しいと、彼女は続ける。
「……ですが、シンさん。ご迷惑でなければ、これからも今までのように接しては頂けないでしょうか」
「それは、勿論だ。俺の方こそ、本当にすまない」
「謝らないでください。私が気持ちを伝えたのに、シンさんが謝るのはおかしいです」
「……すまない」
「ふふ、また言っていますよ」
顔を見合わせて、シンが照れくさそうに頭を掻いた。
大丈夫。自分は笑えている。今までと何も変わらない。
「それでは、私は海へと行ってまいります。折角、水着に着替えたわけですし」
熱くなった鼻頭を隠すように、アメリアは背中を向ける。
声のトーンが変わった事を、シンは敢えて触れなかった。
「ああ。気をつけてな」
「はい、ありがとうござます」
そう言って、アメリアは小屋を出る。
「あっ……」
小屋の入口には、フェリーが立っていた。
どう反応すればいいのか判らず、金魚のようにパクパクと口を開いている。
「えっと、その。アメリアさん、なかなかこないなって……。
あ、あの。聞こうと思ってたワケじゃないよ。ホントだよ!?」
しどろもどろになるフェリーを見て、アメリアはくすりと笑った。
この二人は、本当に優しいのだと実感する。
「はい。分かっていますよ」
「でも、その……。ごめんなさい。聞いちゃ、イケないお話なのに」
「気にしないでください。どのみち、フェリーさんにはお話する予定でしたから」
「えっ?」
アメリアの真意が判らず、フェリーは目をぱくちりと瞬きさせる。
一挙手一投足が可愛らしくて、アメリアはまたくすりと笑った。
「お二人が好き同士なのは、知っていたわけですから。三日月島で、想いを伝えあったことも。
その間に割って入ろうとしたのですから、むしろフェリーさんが怒ってもいいぐらいですよ」
「そ、そんなコトないよ! あたしが、アメリアさんとシンが仲良しになるようにしたりも、したし……」
今思えば、本当に酷い話だと思う。
アメリアに期待だけさせて、突き落としたようなものだ。
罵倒されてもおかしくないのに、彼女は決して恨んだりはしない。
「その節は、どうもありがとうございました」
「あ、えっと! ち、違うよ! お礼を言ってほしいワケじゃなくて……!」
「ふふ、分かってますよ」
コロコロと表情を変わるフェリーを見ているのは、とても楽しい。
その上で、アメリアは自分の想いをフェリーにも伝えた。
「シンさんにはフラれてしまいましたが、私はまだきっと好きなままでしょうね。
そう簡単に切り替えられるほど、器用な人間ではないですから」
「う、うぅ……」
アメリアの気持ちは痛いほどわかる。自分もシンへの想いを断ち切る事なんて出来なかった。
けれど、自分が彼女の為に出来る事が思い浮かばない。どんな行動も、自分がするだけで彼女を傷付ける結果になりかねない。
「だから、フェリーさんにお願いがあります」
「おねがい……?」
「はい。フェリーさんは、シンさんとずっと仲良くしていてください。
幸せそうなお二人を、私に見せてください」
「えっ……」
フェリーは逡巡した。それは、最も彼女を傷付ける行為なのではないかと思っていたから。
しかし、アメリアは微笑んでいる。それが偽りのものだとは、思えない。やけっぱちにも見えない。
「私のせいでお二人がぎくしゃくしてしまうのは、本意ではありません。
フェリーさんはずっと、シンさんを好きだったのですよね?」
「う、うん」
「シンさんも同じです。ですから、今まで以上に仲良くしてください。
幸せそうなシンさんとフェリーさんを、私に見せてください」
ここまで言われて、フェリーは漸く理解をした。
アメリアは気持ちを整理しようとしているのだと。だったら、彼女の気持ちに応えてあげるべきだとフェリーは何度も頷いた。
「や、約束する! ゼッタイ、シンとずっと仲良くする!」
「はい、ありがとうございます」
アメリアは、フェリーの優しさに感謝をした。
当然だが、胸は痛む。もしかすると、彼より好きになる人間は現れないかもしれない。
けれど、気持ちを押し殺したまま生きていくことはしたくなかった。悔いはない。
人によっては大した事ではないかもしれないが、アメリアは自分を褒めたいと思った。
好きでいさせてくれてありがとうと、シンへ感謝を贈る。
彼らの前で涙を流さない事が、自分に出来る精一杯の感謝だった。
……*
それから更に一週間。
シンの快復を以て、カタラクト島を出港する日を決めた。
「アメリア。それに皆、今回のことは本当に世話になった」
「いえ、私こそ。蒼龍王の神剣のこと、本当にありがとうございました」
アメリアとカナロアは、固い握手を結ぶ。
堪えきれなくなったマリンが、アメリアとフェリーへ抱き着いた。
「アメリアさぁぁぁぁぁん! フェリーさぁぁぁぁぁん! 絶対、また来てくださいね……!」
「ええ、勿論です。水の精霊さんにも、よろしくお伝えください」
「マリンちゃん、また遊びに来るからね!」
ミスリアから遠く離れた島で、新たに出来た友人。
きっといつか、また会いに来ようと二人は堅く心に誓う。
「そうか、浮遊島は海の上に浮かべるのか」
「うん。カナロアさまも『隠しておく必要がないから、構わない』って言ってくれたから!」
トリィが元気いっぱいに、空を飛び回る。
浮遊島に建てられた大海と救済の神の神殿と海底都市を楔に、今は海面に浮かべられている。
カタラクト島から少し離れた場所に、新たな島として浮かべておくらしい。勿論、島民であれば行き来は自由だ。
島に住みたいと言ったトリィを、蒼龍王は快く受け入れた。
これからも護って欲しいという我儘も、蒼龍王は快く受け入れた。
マークやタマも、トリィと一緒に浮遊島へ移り住むらしい。
「トリィだけだと、なにかと不安だからね」
「大声で騒ぎ立てられたら、島の皆が困るからニャ」
「どういう意味っ!?」
むっと頬を膨らませるトリィに対して、悪戯っぽい笑みを浮かべるマークとタマ。
微笑ましい光景が、場の空気を和ませる。
「元気でな。機会があったら、またフェリーたちと来る」
「約束だからね!」
カタラクト島から離れていく船を、カナロアたちは見えなくなるまで見送っていた。
この島は、全てを受け入れる。また逢えるその日を、心待ちにしながら。