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第83話 善を成し遂げた末の逃避行

 ブブルク達への罰は済んだ。

 後はこの場から脱出するだけだな。


 封印も解けたから機空船も飛べるだろう。

 幸い、深く突っ込んでいたお陰で崩落には巻き込まれなかった様だし。


 ただ、普通に脱出するだけとはいかなさそうだが。


「アークィン、よく聞いてください。恐らく貴方達はこれより緑空界の脅威として追われる事になるでしょう。これは私達では止められない事です」


「何故だ? 賢者がこの国を制御していたんじゃないのか?」


「確かに、裏ではブブルク達が手を回していました。しかしこの国は基本的に各自治体の働きによって成り立っています。そこに賢者が口を挟む権利は無いのです。つまり、賢者がどうなろうと関係無い。【識園の塔】をここまでやった貴方達をきっと追い詰めようとしてくるハズです。犯罪者として」


 そう、ブブルク達がどうなろうと俺達がやらかした事に変わりはない。

 賢者は言わばアドバイザー的な存在でしかないから。

 多少は口添えも出来るだろうが、絶対的な力は無いって訳だ。


 とはいえ、この事態は元々予想していた。

 その為の逃走手段確保としてクアリオに協力してもらったのさ。

 まさかここまでの戦力になるとは思わなかったけどな。


「ですが、ある程度の口添えは出来ます。時間は掛かるでしょうが、少しでも理解を広める事は出来るハズ。少なくとも人道的とは言えない行為が明るみとなった以上は」


「それをミルダ殿がやってくれると?」


「私達三人が出来る限り協力致します。ブブルクを止めきれなかった罪をどうか償わせてください。我々穏健派では暴走を止める事が叶わなかったのですから」


 それに加えてミルダ達が協力してくれるなら願っても無い事だ。

 彼女達の動きは信頼に値するから。


「ですので今はどこかへお隠れなさい。少なくとも一ヵ月ほどは。それも可能な限り人の目に付かない所で。決して街などにいてはなりませんよ」


「……わかった。今は貴方を信じる事にするよ。父からも何より信頼出来る方だと聞いているから」


「まぁウーイールーがそんな事を……」


「御厚意に感謝する。それではミルダ殿、お達者で」


 こういう人物こそ賢者を名乗るべきだろう。

 今後は是非とも彼女達を参考にしてもらいたいな。

 決してブブルクの様な存在を生まないで欲しい。


 父曰く。

融智快世(ジノ・シャウヴ)。他が為に知恵を奮え。己が欲の為に使うよりずっと良い。個人的満足というちっぽけな世より、無数の世を拓けるのだから。そう出来る勇気をまずは持つのだアークィンよ〟


 この三人ならきっとそれが出来るだろうから。


 いや、もしかしたら父の方がそう教えられたのかもしれないな。

 彼女もまた歳相応、共に旅をしたのも若い頃だと聞いたし。


 なら今度はちゃんと落ち着いた所で再会したいものだ。

 俺も知らない父との思い出も聞けそうだから。

 なんたって忘れられそうにない記憶な様だし。




 ――違うな、そこは敢えて聞かない事にしておこう。

 人の恋心なんて滅多に覗くもんじゃあないさ。




 そんな想いを胸に秘め、俺達はミルダ達と別れて空へと発った。


 クアリオの操縦は安定したもので、俺なんかよりずっと上手なもんさ。

 おかげでノオンの回収もすぐさま終えられたよ。

 「ハッハー! 死ぬかと思ったよ!」なんて愚痴を返されたけどな。


 その後はマオ、フィー、テッシャも回収して一旦空へ。

 そのまま高速で緑空界から脱出したんだ。


 追っ手も来ていたが、こちらはなんて事ない。

 クアリオの改造のお陰で凄まじく速くなったからな、この船。

 おまけに操縦能力も高過ぎて、回り込まれても一瞬で擦れ違いだ。


 運転手が違うだけでこうまで変わるもんなんだなぁ。


 ちなみにクアリオンはゴッドフェニシオンと一緒にどこかへ消えた。

 『力が必要な時、喚んでくれ。その時再び力を貸そう』って言い残してな。

 だからと言って、まさか当人ごと帰喚するとはな。

 何から何まで規格外過ぎるだろう、アイツ。


 それで今、俺達は宛ても無く飛び続けている。

 ミルダに言われた通り、どこかへ身を隠す為にも。


「悪いな皆。これからしばらく身をひそめる事になりそうだ」


「ふふ、なんて事はないさ! むしろ巨悪を退治出来たんだ、喜ばしい限りだよ!」


 にしても一ヵ月か。

 その間に何も出来ないのが歯がゆいな。

 まぁ国を蝕む程の悪意をこれだけ潰したし、しばらくは休んでもいいだろうが。


 幸い、みな理解が早くて助かる。

 元々覚悟はしていた事だけど。

 それでもこうして屈託無く接してくれるのは嬉しい限りだ。


 ただ、一つだけ心残りはあるんだけどな。


「クアリオすまない。なし崩しに巻き込んでしまった」


 それはクアリオをこうやって連れてきてしまった事だ。


 確かに復讐の為に仕方なかったとはいえ。

 俺達の戦いに巻き込み、おまけに足として使ってしまった。

 本来なら村に返してあげたい所だったんだけどな。


 けどそんな俺達に、クアリオはこう言ってくれたよ。


「気にすんなってぇ! どうせ降ろしてもらったって捕まってたさ。それにオイラが運転しなきゃ皆も捕まってただろうしなっ!」


 コイツは本当にいい奴だ。

 最初出会った時はとんでもないとか思ったものだけど。

 こうして接してみて初めてわかる優しさがある。


 芯も通っているし、いざって時の勇気もある。

 実行力だってあれば、クアリオン付きの戦力だって馬鹿にならない。


 その点で見ればココウ以上に凄い奴なんだよな。


「クアリオ、調子いーいー」


「へへっ! あとよ、オイラ感謝してんだ。姉ちゃん達の仇を取ってくれた事によ。だからこれからも協力させてくれよ。あの土地に帰るのは落ち着いてからでもいいしな」


「クアリオ……」


 更にはこうして義理堅くもある。

 ならむしろピッタリじゃあないか。


 俺達の仲間に誘う相手としてはさ。


「ならクアリオ、俺達の仲間にならないか? 皆が良ければ、だけど」


「そうだね、ボクも異論は無いよ。皆もどうやら賛成らしいし」


 どうやらこれも満場一致だったらしい。

 ここまで意見が合うと何だか清々しいな。


 それに、どうやら意見が合っていたのは俺達だけじゃ無かった様だ。


「いいのか!? よっしゃあ! ならこのクアリオ様が存分に力を貸してやるぜっ! かっ飛ばすから掴まってやがれーっ!!」


 ま、一緒に戦った時からこうなる事は予感していた。

 クアリオと出会ったのは運命なのだと。


 そんな運命などにあまり依存するつもりは無いが、今だけはそう信じたい。

 ここまでの仲間や友人に出会った事も含めて。

 この集まりは決して偶然なんかじゃないんだってな。


 その出会いを祝福して、今は心行くまで飛び続けよう。

 新しい仲間クアリオの思うがままに。


 クアリオは夢を叶える為にやっと羽ばたいたんだ。

 家族の犠牲を必死に乗り越えようとしながら。


 だから安心してくれミラリア。

 変な所に飛んで行かないよう、俺達が共にいる。

 仲間として、友達として――そして新しい家族としてさ。


 本当なら君達がやりたかったであろう事を、俺達が引き継ぐから。

 



 そうさ、ここまで来たならもう止まれない。

 なら共に世界を駆け抜けようか。

 まだまだ俺達を必要としている人達がいる限り。


 【銀麗騎志団】――この名が、偉業が、我が父の如く轟き巡るその日まで。


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