第82話 愚か者達に最悪の裁きを
「さてブブルク、言っとくが情状酌量の余地は無いぞ。それでも申し開きはあるか?」
「うぐぐ……!」
クアリオンの活躍のお陰でようやくブブルクを追い詰める事が出来た。
とはいえコイツの事だ、まだ油断はならないけども。
だから本心はと言えば今すぐ首を刎ねたい所だ。
けどクアリオンの意志は汲まねばならない。
ここまでやってのけたのは彼だから。
なら勇者とやらの流儀に則って話を進めないとな。
「アークィンと言いましたね? ブブルクは一体何をやったのです?」
「さっき言った通り、コイツはゼコルの呪術を使って混血に与えた土地へ衰弱の呪いを掛けたんだ。その結果、クアリオの仲間達はみんな死んでしまった。その引き金を引いたのは俺だけどな。ゼコルを始末した結果、力が戻った反動に耐えられなかったのさ」
「なるほど、【生命越源現象】ですね。そこまで弱る程に苦しめていたと……ブブルク、貴方はなんて悍ましい事を」
それに今はマトモと思われる三賢者もいる。
一方的に殺すのは少し気が早いだろう。
彼女達からも話を聞き出したいしな。
こちらは出来れば穏便に。
「話は大体理解出来ました。それでブブルク達をどうするつもりなのです?」
「俺が裁く。父がここにいたならばそうしていた様に」
「そうですか、彼はもう……。わかりました。であれば貴方に委ねましょう」
「協力感謝する」
確か彼女はミルダとか呼ばれていたな。
その名は父に聞いた事がある。
以前、少しだけ共に戦っていた仲間だと。
そうか、彼女はその後に賢者となっていたのだな。
これは父からも聞いていなかった事だからわからなかったよ。
でも結果ブブルクを止める事が出来なかった。
その点で語れば同罪とも言えるだろう。
助けてもらった以上、責めるつもりは無いけれど。
きっと彼女はブブルクを止めたくても止められなかったのかもしれない。
力無き正義は無力、と言うしな。
「さて愚者ども、言い分が無いならこのまま始末させてもらうがそれでいいか?」
――まぁとりあえず彼女達の事は後回しだ。
今は目の前の罪人を何とかしなければ。
にしても申し開きも無く睨むばかりとは。
往生際が悪いにも程がある。
「ちょ、調子に乗りおって……! やはり雑種などこの世に生まれてはならん存在だったのだ! でなければこんな事になど――」
「その雑種とやらに追い詰められた今はもう見苦しいだけだぞ? そんな腐った思想を持ち続けている限りな。紫空界の出来事を知らない訳じゃないだろう」
「ま、まさかあのクーデターを阻止したのも貴様等か……ッ!?」
ここまで諦めが悪いと根負けしてしまいそうだよ。
今すぐにでもあの細い首をへし折ってやりたい。
だけどな、俺はもう決めたんだ。
こいつらには死より辛い目に遭わせねば気が済まないとな。
「そうやって世界を掻きまわして、英雄にでもなったつもりか!? そんな事で摂理が簡単に切り替わるとでも思うておるのかあ!?」
「そんな訳無い。当然俺のやった事を怨む奴だっているだろうさ。俺達は事の後始末が出来るほど有能じゃないし、支持されている訳じゃないしな」
コイツの所為で多くの人が死んだ。
しかもそれをあろう事か当然の如く振舞っている。
もしかしたらここまで歪むのに何かがあったのかもしれない。
何かしらの理由があって、混血を憎んでいるのかもしれない。
しかしそれで無作為に命を奪っていいという事にはならないんだよ。
「けどな、病巣を見分けて取り除く事は出来るんだよ。無駄な血を流させて喜んでいるお前の様な存在をな。〝混血だから〟と言って考えも無しに差別しているお前にこんな事をする権利は一片たりとも存在しない。〝たかが伝説を鵜呑みにした愚か者〟ってだけだ」
「うぐぐ……!」
ま、少なくともコイツには混血の事で俺に言い返せないでいる。
つまり理由は無いけど憎んでいるっていう何よりもの証拠なのさ。
さて、終わりにしようか。
これ以上の問答は不要だ。
他の奴等はもう観念している様だしな。
故にトドメを差す為にとブブルクへ歩み寄る。
奴等の目前でXを刻みながら。
その輝きに、ブブルク達もミルダ達さえも驚いている。
身近で見て初めて異質な力だと気付いたんだろう。
「では歯を食い縛れブブルク! お前を今ここで――」
「やらせるか小童如きがァァァーーーッ!!」
だがそれはどうやらブブルクに限りフェイクだったらしい。
なんとこの時、奴は床に突いていた手を俺へとかざしていたんだ。
それも高熱の炎塊を瞬時に顕現させながら。
それが今、俺の目前で爆発した。
凄まじい熱風が吹き荒れる。
傍の仲間達さえも巻き込みながら。
己さえも爆風に晒すという暴挙のままに。
「くはははッ!! やはり所詮は小童――」
「ぬるいな。ドラーケンの炎の方がずっと効果的だったぞ」
「――ッ!?」
でもそんな小細工が通用する訳も無いだろう。
俺は【輝操・囲隔】を展開していたからな。
クアリオンの斬撃の時から今までずっと。
もうこの部屋の封印が消えていた事は気付いていた。
闘氣功も使えるようになっていたし。
ならこうして反撃してくる事もわかっていたさ。
けどな、そんな物が今更効くかよ。
今まで善戦出来たのは所詮、過去の賢者達の知恵ゆえに過ぎない。
浅はかなんだよ、お前の考える全てが。
愚かさ極まる程になッ!!
そして今の一撃がお前の最後の抵抗となるッ!!
今、俺は【輝操術】を籠めた拳を力強く振りかざしていた。
奴が魔法を解き放った時には既に。
ならば俺の拳が老体に避けられる訳も無いだろう。
「【輝操・転現】ッ!!」
故に今、俺の拳が振り下ろされた。
ブブルクの右半身を光に包みながら。
そう、右半身だけだ。
ここだけでいいのさ。
奴には少しでも長く生きてもらわにゃならないからな。
――正真正銘の半人半獣として。
「あ、あご、うぅわごぉぉぉ!?」
それも半分が獣人とかいう生易しいものじゃない。
まさしく体半分を狼にしてやったのさ。
それも股間部に獣頭半分が、尻尾と人側の頭が混ざるという状態でな。
そう、逆さまだ。
全てにおいて逆にしてやったよ。
思考論理も混ぜといたからな、魔法さえ使えなくなっただろうさ。
良かったな、お陰でお前も混血の仲間入りだ。
これで二度と差別なんて出来ないだろうよ。
ま、そこまでの思考力が残っていればの話だけど。
「こ、これは……この力は一体!?」
「これが俺だけの力、【輝操術】だ。父が見初め、力の扱い方を考え、その力の危険性さえ教えてくれた。考え方次第で何でも出来る秘術さ。その力でブブルクの半身を狼に昇華えた。記憶は残ってるから醜い姿だと笑ってやってくれ」
「何て恐ろしい力……だからこそ年月を掛けて学ばせたのですね。とてもあの人らしいやり方です」
この状況を見て、さすがのブブルクの仲間も恐れたらしい。
たちまち怯えるままに逃げ走って行く。
逃げる場所なんて無いのにな。
だから俺は力を打ち放ち、一人づつその姿を変えさせた。
一人は大蜥蜴の尻尾付き下半身に。
一人は海獣が如き様相の四肢へ。
一人は脚を翼人族の翼腕に変えて。
一人は怪魚の醜い左半身と化した。
そして最後の一人は小鬼の上半身にしてやったよ。
決してかわいそうだとは思わないね。
この姿で死ぬまで混血の痛みを想い知ればいい。
こいつらが与え続けた苦しみを全てな。
だから痛覚は半減させておいた。
それとある程度再生能力も付けといたよ。
狂い死なない様に、少しでも長生きさせる為にと。
もちろん最初から過ちを認めればここまではしなかったさ。
精々ラターシュやツァイネルの様に物言わぬモノへと昇華える程度だった。
場合によっては許す事さえあっただろう。
けど一片たりとも認めようとしなかった。
罪を増やす事さえ厭わないままに。
つまりこの姿は奴等の犯した罪そのものなのさ。
ここまでやり尽くしたが故の罰は死さえも軽い。
これくらいが丁度いいんだ。
そう理解したまま生きて貰うとしよう。
己のやった事を永遠に、後悔を懺悔しながらな。




