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第79話 万越たる再築者(クアリオ視点)

 す、すげぇ、あの巨大なゴーレムを一瞬で二体も倒しやがった!

 これがアークィンの実力なのか!?

 なんてとんでもねぇ奴なんだ!


 村に行くまでの道中でもアイツの戦いは見ていたよ。

 けど魔物相手なんかじゃその力は推し量れねぇ。

 なんたってあの巨大なパンチを難なく避けちまっているんだから。


 ――あぁクソッ、歯がゆいな。

 オイラはなんて無力なんだ。

 あんな実力があれば一緒に戦えたってのに。


 でもきっと今のオイラじゃあのクソ賢者ども相手でも返り討ちがいいとこさ。

 魔法は愚か、腕っぷしもからっきしだからよ。

 混血なのに親のいい所をほとんど受け継いじゃいないんだ。


 だからオイラにゃ機械を弄る事しか出来ねぇ。

 これが唯一の取り柄だしな。

 後は精々小賢しい頭を回すくらいさ。


 だけどよ、それでも何かしてやりたい。

 アークィンを助けてぇんだよ。


 姉ちゃん達の仇を取りたいんだよ……!


 いや、違う。

 奴等はきっと父ちゃんや母ちゃん達の仇でもあるんだ。

 二人がオイラ達を置いていなくなったのも、恐らくアイツラの所為だから。




 両親はオイラ達が子供の時、忽然とどこかに消えた。

 何か言伝を残す事も無く。


 ただ一つ憶えていたのは、あの前日。

 それもブブルクと口論していた時の事さ。

 それだけの剣幕で二人とも咆え散らかしていたからな。

 あの時は姉ちゃんと一緒に抱き合って怯えていたもんだよ。


 けどブブルクが去った後の二人はとても優しかった。

 一生分だけ愛してくれたって言わんばかりにさ。

 それに二人が大事にしていた宝もオイラに託してくれたんだ。


 まるで自分達が消える事を知っていたかの様に。


 父ちゃんは技工士、母ちゃんは魔導士。

 おまけに友達が一杯いて、色んな人が訪ねて来たよ。

 どちらも仕事熱心で、時々没頭しちゃってご飯を忘れるなんて事もあったけど。


 だけどそれが堪らなく格好良くて、憧れていて。

 いつか二人みたいな大人になりたいって憧れた。

 姉ちゃんだって同じだったよ。




 だからオイラ達は二人が消えても今まで頑張れたんだ。

 きっと二人はまだどこかで生きていて、いつかまた会えるんだって。




 けれど、それはきっと幻想だったんだろうな。

 現実を受け入れたくなくて、逃避したくて。

 それで互いに夢を追い求めて、ずっと現実に目を背けて来た。


 父ちゃんも母ちゃんももういないんだって。

 あの村を貰えた事自体がおかしいんだって。


 それでも縋りたかったんだと思う。

 いつかきっと二人に教えてもらった技術が役立つんだってさ。

 緑空界も変えて、ブブルク達も変える事が出来ると信じて。


 それが儚い幻想(ゆめ)だったって、今更ながら気付かされた。


 あのクソ賢者どもは気に入らない奴を簡単に殺す。

 アークィンに殺意を向けている今の様に。


 それだけ稚拙なんだよ。

 投げかけている言葉と同じ様に。

 例え知識があっても、まるで子供みたいに無邪気に人を殺せるんだ。


 そんなくだらない殺意が父ちゃんと母ちゃんも殺した。

 姉ちゃんも村の皆も結果的に殺しちまった。

 そして今、アークィンをも殺そうとしている。


 だから何とかして止めたい。

 もうこれ以上知り合いを失うのは嫌なんだよ!


 ならあのブブルク達を、あの鉄巨人を何としてでも――




 ――待てよ? 鉄巨人って事は、だ。

 あのゴーレムももしかして、魔動機の一種なんじゃないか?




 そう思い付いた時、突然オイラの頭の中がスッとクリアになった。

 まるで難解な歯車機械を完成させた時みたいに。

 これはいつもの閃きが走った時と同じだ。


 そうさ、あのゴーレムは人じゃない。

 人型だけど、意思の無い無機質構造物なんだよ。


 だったら、オイラにだって何とか出来るんじゃあないか?


 普通に考えたら無理だろうさ。

 技工士ったってネジを締めてボタンを押すくらいが限度なんだから。

 そんな物があんなゴーレムに付いている訳無い。


 けどな、オイラにゃそれ以上の事が出来るんだ。

 父ちゃんから預かったあの()()があれば……!


「……やってやる、やってやるんだ! オイラがアークィンを助けるんだ! アークィン達が姉ちゃん達を救おうとしてくれた様にッ!!」


 そんな想いが腰裏に備えた一つの道具を取り出させた。

 見た目は只のスパナだけどな、その力は半端じゃないぜ!


 確かに人相手じゃあ何の役に立たない。

 けど、相手が魔動機なら――コイツは無敵なんだッ!!


「アークィィィンッ!! オイラも、やる時ゃやるんだぜーッ!!」


「クアリオ!? やめろ、来るなーッ!!」


 ダメだね! オイラはもう走り出しちまった!

 こればかりはもう気持ちが収まり切れねぇ。


 父ちゃん、母ちゃん、姉ちゃん。

 そして村の皆、勇気を分けてくれよ。

 機械を弄る事しか出来ねぇオイラに、戦う為の勇気をよ!


「ウッ、あの小僧の持っている道具を見ろッ!?」

「あれはまさか、ガウザとメローナが造ったあの魔道具ではッ!?」

「何ィ!? ではまさかあの小僧がッ!?」


 どうやらやっと思い出したらしいなッ!!

 そうさ、オイラの父ちゃんと母ちゃんはすげぇんだ!


 なんたって、緑空界と赤空界を繋げたあの二人なんだからな!


 そして二人が知恵を振り絞って造ったこの工具こそ唯一無二。

 全ての技工士と魔導士が夢見た理想の道具なのさ。


「今更気付いても遅ーぜッ!! もうオイラは止まらねぇぞぉ!!」


 その力を今見せてやる!

 だから目をかっぽじってよぉく見てやがれッ!!




「今こそ奴を組み替えてみろッ!! 【万越たる再築者(アストラトリガー)】ーーッ!!!」




 アークィンが引き付けていたから近づくのは容易だった。

 お陰でオイラは背後から飛び掛かる事が出来たのさ。


 それでこの【万越たる再築者】を叩き込む事が出来た。


 すると途端にゴーレムが輝き始めて。

 その巨大な身体が軋みを上げてメキメキと形を変えていく。

 それも、オイラの心から願った形にな。


 そう、これは魔動機を「思った形に作り替える」道具なんだ。

 それも一瞬で、何のデメリットも無く。

 必要なのは緻密なまでに構築されたイメージくらいさ。


 どうだい、これ以上に技工士が欲しくなる道具は他に無いだろう?


 なにせこうやって打ち当てるだけでいい。

 たったそれだけで望んだ物が出来上がるんだぜ?


 きっとブブルク達もこれを狙っていたんだ。

 それで父ちゃんと母ちゃんを問い詰め、挙句に殺した。

 この道具を何としてでも奪い取る為にな。


 けどよ、見な。

 その力が今、お前等を倒す為に発揮したんだぜ。


 自慢のチェアゴーレムを、オイラの仲間にする為になッ!!


 光が収まって来たぞ。

 なら出てこい、オイラの願いを受けた新しい巨人よ!

 その力を、雄姿を今すぐ見せてみろーッ!!




『ホールドアーップ!! 魔導勇者(ブレイブフェンサー)だ!! 観念しろ悪党ども!』




 ――待って。

 父ちゃん母ちゃん待って、これオイラと想像していたのと違う。


 確かにカッコいいよ!

 とてもスタイリッシュな人型で、かつ力強いフォルムだけれど!

 頭には角が付いているし、目が緑に輝いて強そうだけども!

 奴等に指差す姿がキマってて最高だけどさ!


 完成した瞬間にいきなり叫ぶなんて聞いてないよ!!


 お陰でアークィンも唖然としてる。

 あんな口開けてあんぐりするんだな、アイツ。


 でもどうやらブブルク達には効果的だったみたいだ。

 皆してビビッて慄いてやがる。

 よくわかんねーけど、やったぜ!


 結果的には良かったからひとまず成功という事にしておこっと。


『ボス、命令を! 我々の勇気を見せつけてやろう!』


「お、おう! じゃあまずあの乱戦中のゴーレムを倒すんだ!」


『了解ッ!!』


 にしてもなんだか暑苦しい奴になったなー。

 けどまぁいいか、なんか凄い従順だし。

 それにとても強そうだしさ。


 よし、行け! オイラの――えっと、新しい仲間!

 名前は終わった後で付けてやるから、とにかく今はこの場を収めるんだーッ!!


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