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第75話 識園の塔

 もしかしたらクアリオの村と似た境遇の場所は他にもあるかもしれない。

 そしてもしその呪い全てがゼコルの物なのだとしたら。

 恐らくは他の場所でも同様の悲劇が起きている事だろう。


 その対象は全て奴等が卑下した者達。

 劣等と罵り、蔑み、追いやりたかった相手だ。


 ならこれは詰まる所の弱者謀殺計画である。

 選民思想、血統思想、優性思想など、無形の理想を押し付けた大量虐殺なのだ。

 それも己のエゴだけで貶める相手を決めたというな。


 そんな非道を平気でやる奴等を野放しにする訳にはいかない。


 だから俺達が止めるんだ。

 そんな病原体に侵されきった樹は早急にこの森から排除してやろう。

 歪んだ思想ごと、根本から引っこ抜いてな。


「皆おはよう! 朝ついでにちょっと手伝って貰いてー事がある!」


 そう誓い合ってから翌日。

 朝早くから早速、こんな力強い声が家中に響いた。


 まぁ俺達にとっては良い目覚ましだったよ。

 元々気持ちが昂って深く眠れていなかったしな。

 ついでに朝の運動までさせてくれるそうだ。


「ちとオイラの部屋から幾つか荷物を運び出して、外の荷車に乗せて欲しい。ちょっと一人じゃキツイもんばかりでさ」


「ふわーわ……部屋ー? この家の間取りここだーけ」


「へへ、実はそうじゃないんだなぁ。オイラの部屋は地下にあるのさ」


「え、ここ地下室があったのか!?」


 すると早速クアリオが部屋の隅の床を弄り出して。

 途端、木の床がバッカリと持ち上げられる。

 地下室への階段の登場だ。


 それでいざその階段を降りれば――堪らず驚かされる事に。


 地下室がなんと魔動機だらけだったんだ。

 まるで魔動機で出来た家なのではないかと思えるくらいに。


 ココウが変だって言うのも納得する程に様相がおかしい。

 なんたって、どう見てもここだけ緑空界じゃあないからな。


 周囲一面が鉄で覆われ、色んな機械が光を放っている。

 更には蒸気を吐くものまでがあってとても騒がしい。

 クアリオがいない間にも常々動き続けていたのだろう。

 どおりで寝る時、変な音が微かに聴こえると思った。


 お陰で今初めて理解出来たよ。

 〝あぁ、クアリオって技工士だったんだよな〟ってさ。


「この中から持っていきてー物を指定するから運び出して欲しいんだ。頼めるか?」


「任せろ、力仕事ならお安い御用さ」


 そんな技工士だからこそ思う所があるに違いない。

 そう信じて俺達は潔く申し出に従った。


 ともあれ、人数もいるからあっという間だったな。

 中には俺とノオンで運ばないと持てない物もあったが。

 こんな物、一体どうやって地下に搬入したんだか。


 それで今は全て荷車の上。

 クアリオも既に牽引取っ手を手にしてやる気満々だ。


「それじゃあオイラは一足先に行くぜ。絶対に間に合わせるからよ、信じててくれよな?」


「あぁ、あっちで待ってるからな」


 何故こんな荷物を運ぶかは俺達にもまだわからない。

 しかし今はそれも信じて全てを託すだけさ。


 そんな想いのままに、荷車を引いたクアリオを見送る。

 やはり重いのだろうか、少し足取りは不安だったが。

 けれど意思が本物なら決して挫けはしないだろう。


 そう信じ、俺達も迷わず先へ進む事にしよう。

 その前に村人達の墓へと供養の祈りを捧げて。


 願わくば、クアリオを応援してあげて欲しい。

 貴方達の為に必死になっているアイツをどうか見守って、と。


 ――さて、これで準備は整った。


 それでは行くとするか。

 愚者の巣窟と化した【識園の塔】へ。


 この緑空界をも悪意から解放する為にな。



 



 それから俺達は半日ほど歩き、難なく目的地へと辿り着いた。

 巨塔を構える大都市へと。


 その名も【識園都市クランメルウ】。

 巨大な湖を中心に構えた湖畔都市である。


 この国のシンボルとも言える建造物を抱える事から観光地としても有名。

 ただそれ以外の特徴も無い事から、訪れる人はそこまで多くもない。

 精々知識を求めた魔導士などがやってくるくらいだとか。

 そんな者達の執筆のお供にと、識園饅頭や識園羊羹といった土産が人気だ。


 とはいえ、この街は決して【魔導宗国ペタラプリモ】の首都という訳ではない。

 この都市だけはどの州にも当てはまらない独立自治を誇っているから。

 【識園の塔】を有するだけの只の一都市でしかないんだ。


 表向きはな。


 しかし一つ裏を返せば、宗国を牛耳る者達の集合地。

 あの十賢者達が各州の州長を集めて指導を行っているという。

 きっと自慢の知略と策謀を巡らせて纏め上げているのだろう。


 そんな裏政治の場が何を隠そう【識園の塔】の上階。

 選ばれた者にしか立ち入れない場所だからやりたい放題だそうだ。

 なにせ塔そのものが難攻不落の要塞だからな。


 巨大な湖の中心にそびえていて、アクセス出来るのは正面の大橋のみ。

 おまけに透明のドーム状魔導障壁が周囲を覆い、外敵を一切寄せ付けない。

 こうなれば空は愚か地中からすら侵入不可能だ。


 だからと言って正面突破しようものなら、内部の防衛機構が一斉に襲い掛かる。

 無数に配備されている防衛用ミスリルゴーレムによってな。

 こればかりは俺達でも突破するのは厳しい。


 だけどな、俺達にはもう攻略出来る算段が付いている。


 なので今は事前の下見中。

 幸い、俺達の存在はまだ明るみに出ていないらしいからな。

  

 なんたって街道を歩いていればすぐ気付く。

 他大陸の新聞や雑誌はおよそ一〇日前の物ばかりでさ。

 いずれも商品に拘らず扱いが雑で、くたびれたまま置かれているんだ。

 きっと外国にはそこまで興味が無いんだろう。


 ゼコルが消えた事もまだ流布されていないらしい。

 緑空界の新聞だけは今日の物だが、それらしい記事は無くて。

 秘匿されているのか、それとも気付かれていないだけか。


 ま、土に変わっただけだからな。気付かれないのも無理は無いさ。


 それで今は塔へと続く大橋の前。

 五人揃って観光客のフリしながら目標を眺め中だ。


「あれが【識園の塔】か。かなりデカいな」


「あぁそうさ。デカすぎて上層部以降はまだダンジョンみたいなもんでねぇ。賢者達でさえ立ち入らないのさ。おまけに【陽珠領域】にまで届きそうなくらい高いし、途中からはエレベーターも無いからね」


 なんたって俺達には最高のガイドが付いているからな。

 見所抜群な場所ばかり教えてくれる。


 それこそ吐き気がするくらい奴等の臭いが漂う場所をな。


「で、この列挙する(気色悪い)像はなんなんだい? 彼等の趣味かな?」


「十賢者を讃える(悪趣味な)巨像さ。賢者になると記念に建てられるんだよ。前任者のを取り壊した跡にね」


 なんたって大橋の傍には十賢者を象ったらしい石像達が建っている。

 見ただけで顔を歪めてしまうくらい悪趣味な奴がな。


 見た目はいずれも凛々しいんだけども。

 話に聴く様な奴等の面構えとはとても思えん。

 これは明らかに盛っているだろう。


 ゼコルなんて干からびたジジィだったが、像だとやたら筋肉質だし。


「じゃーマオしゃの像もあったー?」


「んや。私はホント短期だったし造る間も無かったからねぇ」


「ねね、テッシャも彫っていい!? イケメンに造り直せるよ!」


「興味は大いにあるけどやめときな。変に格好良くなると私が悔しい」


 これでマオの像があったらどうなっていたんだろうな。

 きっとよりグラマラスでイヤラシイ体つきの像が建っていたに違いない。


「アークィン、変な想像はよそうか」


「何故バレたし!」


 いや、決して邪な考えで思い付いたんじゃあないぞ。

 今の姿から更に誇張しようとしたらそんな想像に辿り着いただけだ。


 一度見てみたいという気持ちは少なからずあるけども。




 こうして俺達は下見を続け、三日後に備えた。

 計画をより完璧なものとする為にも。


 絶対に失敗する訳にはいかないからな。

 今日までに意味も無く迫害され、命を奪われてきた者達の為にも。


 もうあんな悲しい出来事を二度と繰り返させたくは無いから。


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