第74話 緑空界の英知、十賢者の正体
マオがまさか十賢者だった事があったなんてな。
確かに、精霊術の卓越具合は明らかに普通じゃない。
他にも優れた観察眼や状況判断などと、どう見ても達人クラスだ。
それこそ幼い頃から英才教育を受けたかの様に。
「ま、ほんと二〇年くらいも前の話さぁ。それに実際に賢者だった期間も一年未満と新米で終わったもんだから、ほとんど歴史には残って無いだろうね。というより奴等に抹消されてるだろうよぉ」
「まさか猫姉――マオ様が賢者様だったなんて……」
「やめておくれよ柄じゃない。ちなみに成ったのは七歳の頃だからね、妙な追及はしない様に」
「「「若ーい!」」」
「ほんとだな、そんな歳で賢者になれるもんなのか?」
「これでも神童なんて呼ばれたもんさ。五歳で精霊術を憶えて七歳で習熟したよ。そこで師匠から世襲的に立場を貰ったのさぁ」
しかしいざ聞いてみれば英才教育さえ必要無いときたか。
神童、つまり天才的な存在だったという訳だ。
それで賢者である師匠とやらに見初められて行動を共にしたと。
という事は、七歳で今の戦闘能力に至ったのか。
通りであれだけ迷い無く動けたんだな。
赤空界での動きはまさに〝力を扱い馴れた〟という感じだったから。
つまり年季を見せつけられたって事なんだろう。
……別に深い意味は無いぞ。
「けどその後が酷かった。師匠が離れた途端にブブルク達が私を目の敵にし始めたのさ。アイツらはいわゆる『異種排斥派』の強硬派閥でね、私みたいな混血が疎ましくて仕方なかったんだろう」
「なるほど、昔からそういう奴だったって訳か」
「ああ、ホント気色悪いくらいに。アイツラに囲まれた時はもう酷かったね。腐った肉壺に漬けられてた気分さ。嫌がらせ、虚言、嘘の流布などやりたい放題。挙句に師匠の研究成果を盗み、自分の手柄にしやがってね。おまけに師匠を盗賊賢者だとか言って罵りやがった。だからもう付き合いきれないって思って辞めたワケ」
「まさかそこまでの奴だったなんてオイラも知らなかったよ。アイツら、土地くれた時はニコニコしながら〝さぁこれで君達は自由だ。これから好きな様に思う存分生きなさい〟なんて言ってたもんだからさ」
しかもそんな若い時から奴等の悪い所を身近で見て来た訳か。
一般人じゃ知り得ない様なドス黒い部分を。
ご苦労様としか言いようがないな。
そんな奴等を前にしたらあのバウカンでさえ善人に見えて仕方が無い。
緑空界が良くなる訳も無かったんだ。
トップがここまで腐りきっていたから。
全く、ここまでの悪質な事をする奴のどこが賢者なんだか。
これではまるで愚者そのものではないか。
こうなるともはや『賢者』と認定する機関そのものが怪しいと思えてならない。
「あのゼコルもブブルクにだけは頭が上がらない。賢者の地位を得たのもあの男のお陰だからね。おまけに同じ派閥とあって利害が一致したんだろう。だから今回の件は間違い無く『異種排斥派』の企みと思っていいよ」
「わかった。つまりこれで倒すべき敵が見えた訳だ」
ならその機関そのものを叩き潰そう。
バウカンの時の様に民衆へと委ねるまでもない。
奴等は国を治めるに値しないクズどもだからな。
その為には俺達だけでなく、クアリオにも協力してもらわなければ。
「そこで一つクアリオに頼みがある」
「何でも言ってくれ! 姉ちゃん達の仇を取れるなら何だってするぜ!」
「これを託したい。お前にならコイツを自由に扱えるハズだから」
「これって機空船の始動キーか……!?」
「ああ。クアリオなら俺達の船の事もリサーチ済みだろ? ならあの船を今回の戦いに役立てたい。ココウが調整を手掛けてくれた大事な機体だからな。お前になら出来るハズだ」
いや、絶対に協力してもらう。
クアリオにも敵討ちにしっかりと参加してもらうんだ。
もちろん彼自身にそこまで出来る度胸と覚悟があるなら、だけどな。
「わかった! なら後はどうすればいい!?」
「具体的な事はこれから話し合う。ただ一つ言えるのは、俺達はクアリオを待たないって事だ。例え来なくても作戦は決行する。だから船へと向かうのも一人でやってもらうし、その船をどう扱うのもお前次第だ」
「そうか……よし、じゃあ具体的な話ってやつをやろうぜ!」
その度胸と覚悟はともかく、気合いだけは申し分ない。
だったら退路確保だけでもいいから役立ってもらおう。
敵討ちとはいえ、素人に「戦え」なんてとても言えないからな。
それで俺達は早速、賢者打倒計画を練る事にした。
夜が更ける中だろうと構わずにな。
とはいえ内部事情を知るマオがいるからな、割と早く話が付いたよ。
お陰で明日は早く出発が出来そうだ。
計画決行は明日より三日後。
奴等が【識園の塔】へと集まった所を強襲する事に。
クアリオにはその間に機空船発着所へ戻り、機体を取って来てもらう。
その間に俺達は現地の下見でもするとしよう。
賢者どもを一網打尽とする為にも、計画は入念に進めなければならない。
あぁ、当日が楽しみだよ。
自称賢者どもを早くブチのめしてやりたいからな……!




