表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/147

第72話 狂気に憤り、己を見失って

 ゼコルの思考はまさに思考逸脱者(サイコパス)そのものだった。

 例えば〝この家の立て付けが気に入らないから家人を殺そう〟と秒で考え付くくらいのな。

 マオの言う通り、他者の命など道具程にしか思っていない奴さ。


 【輝操術】を巡らせればこれくらいは簡単に読み取れるんだよ。

 長く感じたくないと思えるくらいに気色悪くておぞましいけどな。


「コイツがこの村をここまで貶めたのか。こんな奴がこの世にいていいのかよ……! こんな事をする奴が賢者であっていいものかよッ!!」


「アークィン……」


「何の為の知識なんだよ! 賢者っていうのは、その知識を正しい事に使う者達の事を言うんじゃないのかよ……ッ!!」


 故に顔が歪む。

 怒りと吐き気が混ざり合う事で。

 余りにも理不尽な理に絶望さえ感じながら。


 これではまるで犯罪者が国を回している様じゃないか!

 犯罪者の思考がまかり通った大陸って事じゃないか!


 な ん な の だ こ の 地 は。


 一瞬、俺自身が間違っているのかとさえ思えてしまった。

 挨拶する様に他者を殺す事が常識なのかと。

 なまじ【輝操術】を通してゼコルの意識を受けているからだろうか。


 だけど父を思い出して我を取り戻す。

 伝えられた言葉を脳裏に過らせ、己を律する事によって。


 父曰く。

自戒時始(デカ・ミルブン)。行動に責任を抱け。その上で覚悟し力を奮え。己の正しさを見失うな。そのいずれかでも抜け落ちた時、たちまち行為そのものが悪意となるだろう。だがアークィンよ、お前には私の思想を徹底的に教え込んだ。なれば自信を持て。その思想は決して間違いではないのだと〟


 父はこう教えてくれたのだ。

 何があろうと邪を退ける意思は消してはならないと。

 例え俺の行為で誰かが不幸になろうとも。

 その責任をも背負う覚悟で事を成すのだと。


 それが正義を語る者の義務だとして。


「ならば正しき知識を今すぐお前に届けてやるぞゼコル! お前の死という業も、俺が背負ってやるッ!!」


 もう奴には【輝操術】が絡み付いている。

 ここからどうする事だって俺には出来るのさ。


 だったら今すぐ、汚物を洗い流してやるまでだ……!




「ッ!? 待ってー、アーク――」

「【輝操(アークル)転現(ライズ)】ッ!!」




 この時、俺の拳が震える程に強く土を握り締める。

 それで景色の先のゼコルはと言えば。


 たった今、奴は土へと崩れ去っていた。

 己が崩れていく事に絶望しながら苦しんで。

 きちんと頭を最後まで遺す様にしたから存分に味わって欲しい。


「……今、ゼコルは人ではなくなった。この土と同じ組成に変えてやったんだ。奴にお似合いの末路だろうさ」


「さすがアークィン、やる事がえげつないねぇ。ま、アイツは死んで当然の様な奴だから全く同情しないけれども」


 後は呪いの土として死ぬまで衰弱し続けるがいいさ。

 人ではなくなったから呪いも解けた事だし。


 実際、もう繋がりも消えたから意識が肉体に戻っている。

 だからふと振り向けばマオが笑みを見せていた。


「それは、どうかなー」


「「「えっ?」」」


 けどそんな喜びも束の間、フィーの浮かない声が聴こえて来て。

 皆で振り向いてみると、そこには何故か肩を落とした彼女の姿が。


「アークィン、あちしは言うたよ。犯人を見つけよーて。でもそれ、死なせるのは違うの」


「え……?」


 フィーの落胆具合は異常だった。

 被ったフードで顔全体が隠れてしまうくらいに。

 それでいて震える様にも見えていて。


 そんな中で彼女の腕が上がり、杖先が村を指した。


「だけどもう、遅かた。()()()やよ」


 たちまち悪寒が漂う。

 身体が動かなくなってしまいそうな程に。

 だけどフィーの杖に釣られてしまって仕方がなくて。


 それで皆で振り向いた時、現実が視界に映ってしまった。




 村人が、倒れていたんだ。

 しかも映った者全員が、まるで枯れた草の如く静かに。




 彼等はまるで動く様子が無かった。

 周りの景色と同化したかと思える程に。

 それどころか、さっきまであった気配が一切消えてしまっている。


 まるで廃村かと言わんが如く。


「【生命越源現象(プラーナルダウン)】やね。みんな、呪いの反動に耐えられなかったんやよ」


「「「プラーナル、ダウン……!?」」」


 しかしフィーの言葉が容赦無く現実を教えてくれる。

 今俺がしでかしてしまった事への代償の正体を。


「呪いは一定の力を奪うと奪力を溜め込む習性があるー。で、強引に解呪すると奪った力が持ち主に還るーの。けど……」


「それって、まさかッ!?」


「限界近くまで奪った力はすごく強い。だから還って来た時の反動で弱った魂が押し出されて、その人は死んでしまうんやよ」


「「「ッ!?」」」


 【生命越源現象(プラーナルダウン)】。

 この事は父には教えて貰わなかった。

 あの人も呪術にそこまで詳しい訳ではなかったから。


 ただ反動らしき物があるとは聞いている。


 呪いは相手から力を奪うも、奪った力は常に呪い内に残され続けていて。

 消えると術者のデメリットも含めて各々に還っていくのだと。

 呪いが解けると体調が元に戻るのはそれが理由だ。


 でもまさかその反動がここまで作用するなんて。


 想像を超えた事態に、俺もが身体を震わせずにはいられなかった。

 自身の浅はかな行動が産んだ悲劇に堪えきれなくて。


「ね、姉ちゃん!? 姉ちゃあんッ!!」

 

 その中、事態を把握したクアリオが堪らず自宅へと駆けていく。

 だけど非情な現実は誰一人として逃す事は無かったんだ。


「うあああーーーーーーッ!!! 姉ちゃぁぁぁーーーーーーんッッッ!!!!!」


 そして間も無く彼方からクアリオの悲鳴が聴こえて来て。

 この時、俺達は揃って項垂れ落ちていた。


 それだけの無力感が俺達の心を支配していたから。

 救えたかもしれないのに。

 救いたくても叶わなかった、と。


 ただただ、後悔する事しか出来はしなかったんだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ