第67話 友と家族を想う
「まさかアンタ達がココウの知り合いだったなんてなー。早くその事言ってくれりゃ良かったのによぉ!」
俺達をカモったあの少年がなんとココウの親友のクアリオだった。
この衝撃的な事実に一体どれだけ強く頭を抱えた事か。
で、今はそのクアリオと共に道中を歩いている。
ココウの知り合いだとわかった途端に言い値へ値引してくれたからな。
これで断ったらさすがにこっちが失礼だし。
とはいえ決してタダへと転ばない所はさすがだよ。
ま、実際にマオとフィーを運んでくれてるから対価を支払うのは当然だが。
「しかしココウが親友と言っていたから大人かと思ったが、意外に若いんだな」
にしてもその力はとても強い。
荷車を使っているとはいえ、軽々と二人を乗せて進めるのだから。
普通のエルフで子供じゃあこうとはいかない。
でも人は決して見た目で判断など出来ない。
どうやらこの見立ては間違っていた様だ。
「ノンノン、これでも大人だよォ。血筋の所為でここまで小さいのさ。なんたってドワーフの悪いトコを受け継いじまってるもんでね」
「って事はもしかして、ドワーフとエルフの相の子って事か!?」
「そうだぜー」
しかも驚くべき答えが待っていた。
混血とは聞いていたが、まさかドワーフとエルフの子とは。
確かに、言われて見ればどっちの面影も見えるな。
全体的に見ればエルフの子供って感じは否めない。
けどよく見れば肩肘は張っているし、足腰も力強い感じがある。
体格は間違い無くドワーフのそれを踏襲しているんだ。
おまけにこの二種族の子なんて相当レアだろう。
それこそ赤空界で聴いた夫婦の子くらいしか想像が付かない。
ほら、例のドワーフとエルフの文明を拓いたあの二人の事さ。
そんな珍しい境遇の混血児が今目の前にいる。
そう考えるとなんだか幸運にも思えて来るな。
「ココウから聞いた話だと技工士もやっているんだって?」
「あぁ、むしろそっちが本業だなー。でもこの緑空界じゃ魔動機の導入はほとんどねーから商売あがったりなんだよ」
「何でだ? 文化改革したんじゃなかったのか」
「あ~それねぇ、人は良くても魔動機だけは導入したくなかったのさぁ。森が鉄錆で汚れたりするのも嫌だし、意思の無い物が放つ魔力っていうのが怖いらしくてねぇ」
「そこんとこは猫姉ちゃんの方が詳しそうだな」
けど、その生活はと言えばきっと苦労の連続だったに違いない。
ただでさえ混血には風当たりの強い大陸だしな。
おまけに技工士となりながらも、こう下働きしてお金を稼いでいる。
それもわざわざ魔動機の少ない緑空界に残って。
本当ならココウみたいに飛び出した方がいいだろうに。
しかしこうして残り続けているという事は当然理由があるのだろう。
自身の才能を殺してでも働き続けなけれならない原因がな。
ではその理由とは一体何なのだろうか?
……どうやら膨らんだ好奇心を抑える事は出来なさそうだ。
「なら何故出て行かない? これくらい稼げば旅費くらいすぐ稼げるだろう」
「そういう訳にゃいかないのさー。オイラには家族がいるからなー」
「所帯持ちだったのか」
「いやいや、そういうんじゃない。まぁ確かに姉ちゃんはいるんだけど。実は混血児達に与えられた土地があってよ、そこに集まった皆を養ってるってぇワケだ。皆で支え合ってねー」
だからと訊いてみれば、思っていた以上の良答に感心さえ憶える。
あれだけ金を無心していたのにもれっきとした理由があったのだと。
決して夢の為では無く、家族の為に。
そう思って動けるクアリオって結構情に厚い奴なんだな。
「まさか、あの強欲賢者どもが分け与えたのかい? だとしたら奇跡以外の何者でも無いよ」
「へへ、オイラもそう思う。けどさ、三年前くらいにいきなり分けてくれたんだ。混血が少しでも暮らし易くなるようにってよ。だからオイラ達は今、変な蟠り無しで暮らせてる。すっごい助かったってもんさぁ」
「……やはり三年前か。エルナーシェ姫の死をキッカケに色々と起き過ぎだろう。とはいえ、今回はむしろ良い事だからホッとしたけど」
しかも自分達の土地を持ち、平穏を享受出来ている。
これは今までの大陸でも無かった事だ。
混血にここまで譲歩するなんて普通はあり得ないからこそ。
ここは偏屈な国かと思ったが、意外と人の事を考えているのかもしれない。
〝見た目に寄らない〟なんて言うが、これは人だけでなく国もなのかもな。
「所で話は変わるけどよ、ココウの奴は元気だったか?」
それでも生活に困窮している事に違いは無い。
この点さえ改善出来れば言う事無いんだが。
こればかりは人種に拘らずの世界的な問題だから仕方がないか。
「え? ああ、彼は元気さ。連絡は取り合っていないのか?」
「まぁね。アイツの邪魔はしたくないし、手紙とか新聞とかを都合するお金も無いしな。だから吉報だけ待ってる」
ただせめて手紙のやりとりくらいはさせて欲しいよな。
文明が無い訳でもないんだから。
ま、クアリオの場合は〝そんな暇があったら働く〟なんて言いそうだけど。
それだけ家族達の事を想っている様だから。
もちろん、ココウの事も相当に。
「まぁ色々あったが、今はS1ランクで上位争い出来るくらいだ。もしかしたら来年とかには吉報が聴けるかもしれないな」
「ほんとか!? よぉしッ!! アイツが【フライハイアー】になったら祝いに行くぜー!」
お陰で今、荷車が揺れて揺れて仕方がない。
クアリオが大興奮で飛び跳ねまくっているからな。
マオもフィーもそれでボヨンボヨンと荷台で跳ねているよ。
それだけココウの出世が嬉しいんだろうな。
ま、本当なら【フライハイアー】になる瞬間を見届けて欲しいとも思うけど。
「そんな話を聞いたら元気が出て来たぜーッ!! こうなったら少し歩を速めていいかい? 本来なら野宿するコースなんだけどよ、もう少し先に進めばオイラ達の村があるんだ」
「あぁ、構わない。なんなら俺達が荷車を引いたっていいさ」
「よっしゃ! じゃあオイラ達の村に案内するよぉ!」
しかし家族がいる以上、そう簡単に旅行も出来ないだろう。
ならここで吉報を待たせた方がいいのかもしれないな。
仲間に誘う事も考えたんだが、どうやら叶わなさそうだから。
確かに変わってはいるが、信頼出来る人物だとは思う。
それだけ情にも深くて厚いし、さりげなく几帳面でやる事はやるし。
戦いの向き不向きはこの際どうでも良いだろう。
だけど大切な家族から簡単に離れるとは思えない。
そこはやっぱりクアリオ自身の意思に任せたいから。
だから勧誘は諦めよう。
技工士は他にも大勢いるだろうし。
それに仲間を増やさずとも、誰かが運転技術を習熟すればいいしな。
そんな意思を密かに仲間達と共有しつつ、俺達は道を進んだ。
【識園の塔】までの道程、そしてクアリオの家族がいる村へと。
さて、クアリオが喜ぶ程な緑空界の計らいは一体どんな感じだろうか。
なんだかとても興味が膨らんで来たよ。




