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第65話 もしかしてカモられてる?

「この店がとても安くて美味しいんだぜーっ! オイラのおすすめさぁ!」


 道端に出会った少年に連れられるままレストランへと辿り着く。

 すると早速芳しい香りが漂ってきて鼻腔をくすぐってくれた。


 見た感じは普通の木製建屋で、居酒屋 兼 食事処といった所か。

 他の国にもあった建築様相だから違和感なく入れそうだ。

 これは味も期待出来そうだな。


「さて兄ちゃん達、ここまでの運賃と案内代をちぃーとばかし恵んでもらおうかなぁ。なんたってオイラ、タダでやるとは言ってないんだぜー?」


 ――なんて思っていた矢先に少年がとんでもない事を言いだした。

 クッ、コイツ最初からそのつもりで纏わりついていたのか!?


「おっとぉ踏み倒そうなんて思わないこったぁ。ここじゃ料金未払いは重罪なんだよね。まぁ何もそこまで高くなくていいんだよ。ほら一〇〇ウィルくらいでいいからさぁ」


 しかも値段もそこまで高くない、子供のお駄賃レベルだ。

 これで断ろうものなら逆にセコさを露呈しかねない。


 クッ、やられたな。完全にカモられた。

 まさか親切心を餌にサービス押し売りされるとは。


 これは前言撤回せざるを得ないな。

 この国の未来はあまり明るくないかもしれない!


「まぁまぁそう憤らないでくれよぉ、大した金額じゃないだろ? その代わり、この店とっておきの料理を勧めるからさ! あ、これはちゃんとタダでね」


 これくらいの商魂があれば以前の赤空界でも生きていけそうだ。

 その根性だけは目を見張るものがあるよ。


 ま、金を取る代わり嘘は付かないだろう。

 信頼第一だからな、商売っていうのは。

 ならさっさと払って見返りを得るさ。


 という訳で料金を少年へ渋々支払う事に。

 仕方ない、ここは勉強料だと思って諦めよう。


「毎度有りィ! ならほら入って入って。マスター、いつものやつ人数分よろしくぅ!」


 ただその手際の良さは光るものがある。

 いざお金を受け取れば、こうして客寄せ店員の様に店内へ案内してくれて。

 すぐさま席まで用意し、ニコニコしながら茶まで出してくれたよ。


 なるほど、現金な奴だけどやる事はやるのな。


 それで早速、幾つも料理が俺達の席へと運ばれてくる。

 どれも美味しそうだ、勧めるだけの事はある。


「はい、これで()人分ね」


「六人? 待ってくれ、俺達は五人しか――」


 だけどこの時、俺は気付いてしまったんだ。

 ここまで事を運んだのは全てあの少年だったという事実に。


 それで咄嗟に振り向いてみれば。


「それすっげェ美味いぜぇ! ゆーっくり楽しんでくれよなーっ! オイラも楽しむからよーっ!」


 あの少年が今にも店を出ようとしていた!

 しかもその手にテイクアウト用の手提げ弁当箱まで下げて!


 あの野郎ォ!

 最初からこれが狙いだったのかァァァ!!!


 そんな怒りに身を任せて堪らず立ち上がる。

 何が何でも捕まえて憲兵へ差し出してやる為に。


 しかしその直後、俺の肩へと店主の掌が載せられて。


「未払い駄目ね。払わないと店から出さないよ?」


 そして冷静にこう言われた。

 しかも何やら闘氣功の気配を感じる。

 相応の使い手だコイツゥ……!


「待ってくれ、俺達はアイツの分まで出すつもりなんて無いぞ!?」


「でもアンタ達が払わないと未払いが発生するね。それはお互い困るね」


「ぐッ……!」


 恐らく、この店主もグルだな。

 あるいはこの行為が常習化しているか。

 だからわかっていて料金を俺達にツケたんだろう。


 ただ、これは完全に俺達の落ち度だ。


 実際に料理は提供されたし、アイツは確かに金をとっていない。

 今の形は〝俺達が親切心で驕った〟だけに過ぎないんだから。

 サービスを利用した時点で俺達の負けだったんだ。


 クッ、緑空界に来て早々にこれか。

 まさか開幕でこうまで騙されるとは思ってもみなかったぞ。


 しかも無駄に料理が美味しい!

 チクショウ、なんだかもの凄く悔しいぞおッ!!

 こうなったら喰って喰って喰いまくってやるゥゥゥ!!


 ――とはいえ、だ。


 料理の値段も確かにリーズナブル。

 それでこの味ならむしろ何度も通いたいくらいだ。

 

 それにここは外と全く空気が違う。

 なにせこの店内には異種族が溢れているんだ。

 店長も猫人族だし。


 おまけに差別的な眼差しも乏しい。

 無い事もないが、外と比べたら生易しいレベルさ。


 つまり、あの少年からの情報に間違いは何一つ無かった。

 それどころか安全圏への案内という付加価値まで付けてくれたんだ。

 それを料理一食分で提供されたと思えばむしろ安いとさえ言える。


 そうも考えると何だか複雑だ。

 騙されたのに得した気分を味わわされたって感じで。

 だとすると一体何が目的だったのだろうか、あの少年は。


「へへ、アンタらもアイツに騙されたクチかい?」

「ま、運が悪かったと思って諦めな。ガッハッハ!」


 そう思考を巡らせていたら、こんな笑いと声が聴こえて来た。

 それで振り向いてみると、席に座った獣人が二人ほど。

 どうやら俺達以外にも被害を受けた奴がいたらしい。


 なら正体も知っているのだろうか。


「そんな常習犯なのか? アイツは」


「そうさ。金が入用らしくてな、何でもやるってぇここいらじゃあ有名でよぅ。ま、でも犯罪だけはやらねぇからって皆見て見ぬフリしてんのさぁ」


「頼んだ事はしっかりやってくれるしな。こないだ俺の魔動機をソッコー直してくれたぜ。しっかり金は取りやがったけど」


 こうして聞いてみるとまるで何でも屋だな。

 おまけに魔動機も修理出来るとなると技工士としての腕前もあるのだろう。


 ……なんだかこの話、妙にデジャブを感じるぞ。

 おかしい、あんな奴の話なんて聞いた事無いんだが。


 何にせよ関わるとロクな目に遭わなさそうなのは確かか。

 もう二度と騙されまいと心に留めておかなければ。


「アークィン、ここは諦めた方がいいかもしれないねぇ。悔しいけど相手の方が一枚上手だったのさ」


「にゃー(ボクはむしろここを教えて貰えた事に感慨さえ感じるね! 外の空気はとてもよろしくないからさ!)」


 ノオン達もこう言ってるしな。

 とはいえ、見返りがあるならちゃんと支払う事だって吝かじゃないんだが。

 なのになんでこんな回りくどい事をするんだか。


 まったく、初日から妙な奴に遭遇してしまったなぁ。


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