表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/147

第62話 策士を堕とすのに力も魔法も必要無い

 まさかバウカンもがエルナーシェ姫に影響を受けていたとは。

 とはいえこっちは抑止力としてだが。


 ただ、彼女が亡くなったからこそ止める者がいなくなった。

 なら奴の野望はもう暴走したも同然だ。


「……話は大体わかった。お前が今のまま何ら変わる事が無いって事がな」


 しかし今の政策を辞める気が無い以上、もう話しても無駄だな。

 コイツに何一つ期待する事が出来そうにない。

 ここまで来るとラターシュ達が可愛く思えて仕方ないよ。


 権力を振り翳して他者を蔑み搾取する。

 そんな強欲がここまで歪めば如何におぞましいかとよくわかった。


 父よ、これが貴方の嫌った在り方なのですね。

 今なら心から同意する事が出来そうです。


「なら後の裁きは流れに委ねるとしよう。俺が出来るのはここまでだ」


 ただ、俺にやれる事はもう無いさ。

 だからこそ踵を返し、片手をそっと振り払う。


 その姿はきっと、バウカンには「諦めた」なんて風に見えただろうな。


「フンッ、無能が粋がりよって。所詮小物は大統領であるこの私に黙って跪いておればいいのだ」


「そうだな。まぁお前がまだ大統領であり続けられるなら、だけど」


「……何?」


 そうさ、俺は()()()()()()()を諦めたんだ。


 その様な愚者を奈落へ落とすのは俺じゃなくていい。

 そこに武力や魔法なんて物は必要無いんだ。


 必要なのはより多くの意志。

 すなわち、国民の総意という奴なんだからな。


「まだ気付かないのか? お前の裏にあるモニターから音が消えている事に」


「――は?」


「ほら画面を見てみろよ。面白いものが映っているぞ」


「え? な、なんだこれはッ!?」


 そんな国民の総意は既にこの部屋からでも丸見えだ。

 ついさっきまでバウカンが覗いていたモニターを通してな。


 モニターには赤空界各地の状況が映されていた。

 競船場のみならず、各企業への監視映像や政府施設もが。


 その映像が今、どこもかしこも大暴れしている。

 大量の民衆達が暴動を起こし、各地に雪崩れ込むという形で。


「実はそこのモニター達に少し細工をさせてもらったんだ。盗撮している事はわかっていたからな。その論理を逆転し、モニターをカメラに昇華()えさせてもらったって訳だ」


「そ、そんな事が出来るワケ――ハッ、それじゃあまさかあッ!!?」


「ご名答。お前の言動は最初から最後まで全部国民に伝わっていたのさ。当然、あの暴言の嵐もな」


 それは皆が真実を知ったから。

 今の俺とバウカンとのやりとりを一部始終眺める事で。


 そう、ここの出来事は全部筒抜けだったのさ。

 俺がつい先ほど考え付いた新しい【輝操術】のお陰でね。


 そうだな、名付けるなら――【輝操(アークル)反律(アリージュ)】と言った所か。


 ここに並んでいるモニターはいわばデータ出力機だ。

 各地より撮られた映像を魔力回路を通して表示させる為の。

 その仕組みは一方的で、どれだけ弄ろうとも決して入力機になどなりはしない。


 けどその原理を【輝操術】で逆転させたらどうなると思う?


 【輝操術】は概念そのものを捻じ曲げる力だ。

 岩を生き物に変え、今まで生きていたという事にしてしまう様な。

 ならモニターという出力機を、入力機へと概念変更させる事も可能なのさ。

 仕組みを変える必要なんか無いんだよ。そういう力だから。


 思い付いたのはバウカンの近くへ歩み寄った時の事。

 振り向いた時、咄嗟に【輝操(アークル)探追(シーク)】をモニターへ作用させたんだ。


 それで力を発現させて今、ここに並ぶモニターが全てカメラになった。

 赤空界各地にバウカンの暴挙を余す事無く伝える為の。

 だから今頃、各地のモニターにその悪辣様が漏れなく伝わっただろうよ。


 つまり今までの俺の会話術は暴言を引き出す為だったに過ぎない。

 それにバウカンはまんまと乗せられたって訳だ。

 自分が勝ったと信じて疑わないままにね。


「お前は言ったな? 〝熱弁するのは決まって勝利を確信した時〟だと。でもその勝利が実は虚像に過ぎなかった、と理解した今の気持ちはどうだ?」


「あ、ああ……」


「これが騙されるという事だ。少しは市民の気持ちがわかったか? けどこれからもっと思い知るだろうさ。それだけお前の罪は重いと知れよ外道!」


 だけどバウカンは今ようやく敗北を認めた。

 膝を折り、崩れ落ちた事によって。


 この通り、最初から武力なんて必要無かったのさ。

 口論で負かさせる必要さえもな。


 ただ策略を策略で覆してやればそれだけで簡単に折れるのだから。


 つまりこれで俺達の役目は終わりだ。

 バウカンを追い詰めて自白させた以上は。

 後はこの国の人達に全てを任せるさ。


 きっともうすぐこの場所にも市民達が雪崩れ込んでくるに違いない。

 そうなれば彼等の手によって裁きが下されるだろう。

 もしかしたら悲惨な結末を迎えるかもしれないな。


 ただ、俺はそれでも信じたい。

 この国の民衆がそこまで愚かではないという事を。

 コイツが言う様な愚衆ではなく、いつか自由を掴み取れる様な者達であると。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ