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第60話 対ランドドラーケン

 今、俺の頭上にはあの【ランドドラーケン】がいる。

 というより、元々から跨ぐ様にして立っていたんだ。


 つまりあの白壁通路は幻影。

 このドラーケンを巧妙に隠す為のな。

 そして侵入者がやってきたら襲わせる算段だったのだろう。


「この子はチッキーと言ってな、小さな頃から共に育って来た私の兄弟だ。ドラーケンは野生だと一切言う事を聞かないが、幼体から育てればとても人に懐く。とはいえここまで大きくなると育てるのも一苦労でな」


 にしても大き過ぎだ!

 マオの巨大化クロ様より首丈が高いじゃないか!


 これは俺が聞いていたのよりもずっとデカいぞ!?

 大きな奴でも精々平民用の家一軒分だと聞いていたのに!


「なので大統領権限を行使し、ここに飼育場を造った。お陰でここまで立派に育ってくれたよ。野生でもここまでデカいのは早々見られまい」


 そんな魔物も人の手が加わればここまで成長するものなのか。

 それも股下を通路に偽装出来るまでの大きさに。

 口なんて人一人軽々と飲み込めそうなくらいじゃないか。


 それ程の大きな頭が今、俺を睨みつけている。

 クッ、もう既に飲み込まれた様な気分だよ……!


「そして彼は私の言う事を必ず聞いてくれる。なので一つ合図を出せば一瞬で君を消し炭に出来るという訳だ」


「それはお前も一緒じゃあないのか?」


「ははは、そんな訳があるまい。よく見たまえ。私の前には魔防結界が張られているのだよ」


「ううッ!?」


「これはチッキーのフレアーブレスにも耐えうる性能を誇っている。緑空界より供与された魔防技術を結界装置に組み込んだからね、とても優秀だぞ」


 そう怯んだ俺にバウカンの人差し指の先が向けられる。

 ニヤニヤとした厭らしい笑みを向けたままに。


 なるほど、全てにおいて準備万端って事か。

 俺の様な奴がここまで来る事なんて最初から想定済みだったんだ。


 いや、もしかしたら襲撃自体が初めてではないのかもしれない。


 きっと今までに反発する者も多くいただろう。

 側近や関係者などに拘らず。


 けど全て返り討ちにされた。

 そして逆らわない者だけが残されたんだ。

 バウカン帝国を築き上げる為の礎達だけが。


「それではサヨウナラだ少年。君との話はとても楽しかったよ」


 その洗礼が今、俺にも向けられようとしている。

 焔を漏らした剛顎をゴリリと軋ませながら。


 クッ、今炎を放たれたら回避するのは不可能だぞ!


 直下へ放たれれば炎は地面を伝い、空間全域へと撒き散らされるだろう。

 それに今は腹の下だから逃げ道が無いときたもんだ。


「チッキー、放て」


「くッ!!」


 しかし奴は一切躊躇しなかった。

 容赦無く指を振り下ろしたのだ。


 すると空かさず、ドラーケンの口から烈光が解き放たれる事に。


 超高熱のフレアーブレスである。

 それも白く輝く程に激しい放出量を誇るという。

 余りの火力故に、瞬時にして空間が灼熱地獄へ。


 この様な一撃が直撃したならば――人など須らく消し炭となるだろう。


 その光が遂には俺をも飲み込んでいく。

 バウカンの指示通りに、情け容赦無く。


「ふははは燃えカスだあッ!! 愚か者は所詮こうなるのが運命なのだッ!! にしてもさぁすがは私のチッキィィィ!! 素晴らしき炎だよお(ディッモォールトォ)ッ!!」


 そんな炎を前にして、バウカンは堪えきれぬ興奮を見せつけていた。

 両腕を高々と振り上げ、こうも絶叫してしまう程に。

 それ程までにドラーケン(おとうと)が誇らしいのだろう。




 だがな、絶賛するにはまだ早いんだよ。

 



 間も無く、灼熱の炎が引いていく。

 溜め込んでいた空気を絞り切った事によって。

 なら奴等にとっての想定外が早速お目見えだ。


「――なにッ!?」


 にしても肺活量が乏しいぞ。

 ここに居続けた所為で運動不足なんじゃあないか?

 少なくとも俺を焼き切るなら今の一〇倍は長く吐いて貰わないとな。


「な、何故今のブレスを受けて生きていられるうッ!?」 


 そうさ、俺はこの通りピンピンしている。

 それも火傷一つ負う事無く。


 ならどうやって生きられたかって?

 なぁに、簡単な話さ。

 なんたって俺には【輝操術】があるのだから。


 炎が吐かれる直前、咄嗟に自分の周囲へ【輝操術】の膜を張ったんだ。

 予め用意していた術を展開する事でな。


 その名も【輝操(アークル)囲隔(クルセット)】。


 これによって外部との大気が完全遮断され、熱も一切伝わらなくなる。

 気圧や水圧も隔絶出来るからな、水中に潜る時にも使える術さ。 

 ちなみに触れても昇華しないから攻撃には使えないけどな。


「くッ!! チッキー! もう一度ブレスを放てェ!!」

「コォォォ!!」

 

 けどもうその力を展開し続ける理由は無い。

 何故なら、今のブレスが吐かれる事はもう二度と無いからだ。


 このドラーケンの肺活量は大体把握出来ている。

 そこから察するに、次に放てるのはおおよそ五秒後。


 俺はその間にお前を仕留める事が出来るのだから。


 この時、肺一杯に空気を吸い込み一秒。

 その最中に全身へ闘氣功を巡らせ二秒。

 かつ体を深く引き絞る事に三秒。


 そして頭上の腹を見据えて大地を蹴れば――全てが終わるだろう。




「【鋼穿烈掌(ウルアーティ)】ーーーッッッ!!!!!」




 ありったけを籠めた剛掌が今、ドラーケンの腹部を穿つ。


 なれば間も無く巨大な腹部へ大穴が開く事に。

 それも甲殻さえ砕いて吹き飛ばし、骨や筋肉をも裂断させて打ち上げながら。

 更には天井におびただしいまでの血玉をぶちまけ、周囲を真っ赤に染め上げた。


 こうなればもはや生きる事など叶わない。

 なにせ胴体の半割が肉塊として吹き飛んだからな。

 故にドラーケンが膝から崩れ、首をもぐしゃりと床へ叩き付けさせる。


 俺が離れ歩くその中で。


 まさに一撃必殺。

 これが【鋼穿烈掌(ウルアーティ)】最大出力の破壊力だ。


「あ、ああ……チ、チッキィィィ!?」


 例え鋼鉄の皮膚を持とうが関係無い。

 そもそもこの一撃は対巨龍用に編み出された拳術なのだから。

 父は若かりし時にこの力を編み出し、己の身一つでドラーケンを討ったのだ。

 ならば通用しない訳が無いだろう。当然の結果だな。


 更には周囲へ【冷気放射弾(フラジール)】を放って温度を中和。

 そのまま魔防壁を潜り抜けてバウカンのすぐ傍へ。

 どうやらこの壁、物理防御力は皆無な様だ。


 とはいえ大気はしっかり遮断するらしい。

 おまけに空調があるからかとても快適だな。

 こんな所で働いているなんて羨ましい限りだよ。


「ここまで来たらもう逃げられないぞ、バウカンッ!!」


「うくく……ッ!」


 そして察するに今のが最後の防衛網だったらしい。

 それも突破した今、障害はもう無いという訳だ。


 さぁて、これからコイツをどうしてくれようか。


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