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第58話 バウカン大統領

 筋肉部屋を抜けた先には真っ直ぐな細長い道が待っていた。

 それも全てが真っ白で、飾り気が一切無いという。


 ただ、正面奥には人の気配がある。

 恐らく奴がバウカン当人なのだろう。


 それにしてもホントどういう趣味をしているんだろうか。

 入り組んだ道程もそうだが、先の部屋といい、この通路といい。

 ここまで露骨だと何かしらの意図さえ感じてならない。


 例えば誰かが侵入してくるのを想定しているかの様な。


 もっとも、赤空界のトップなら警戒するのも当然か。

 なら何か罠が仕込まれているかもしれないな。


 しかしだからと言って怖気づいている訳にはいかない。

 なんたって後ろではマオが今も耐え忍んでいるのだから。


「お前がバウカン大統領だな」


 故に警戒しつつも走り寄り、直ちに問いただす。

 とはいえ【輝操(アークル)探追(シーク)】が捉えた以上、言い逃れは出来ないが。


 そんなバウカンはこの時、事務椅子(オフィスチェア)に座して背を向けていた。

 それも沢山と並んだモニターを前にして。


 だが無反応だ。

 俺の声が届いていないのか?

 侵入者に気付いていない訳でも無いだろうに。


「……ぶしつけだな。今の若者は礼儀や作法も知らんのか。少しは敬語というものを嗜んでみてはどうかね」

 

 いや、そうじゃない。

 歯牙に掛けるまでも無いと判断されただけなんだ。


 だとしたらコイツ、相当に肝が据わっているな。

 普通なら敵を前にすれば怯えたりしそうなもんなんだが。


「俺が敬うのは尊敬に足る人物のみと決めている。そしてお前はその範疇外だバウカン=デウナジー」


「ふむ、それは指導力不足という私の落ち度かな。ならばいざ仕方あるまい」


 加えてこの低くも落ち着いた声色。

 まるで俺を一切恐れていないと言わんばかりだ。

 その自信の根源は一体どこにある……?


 しかしそう探りを入れようとした時の事。

 椅子が何の前触れも無くゆっくりと回っていく。

 そうして現れたのは、やはり街でよく見かけた姿だった。


 ドワーフでありながら背丈が人間に近く大柄。

 自慢の髭は剃られ、胴回りにも匹敵する角張り顎が露わとなっている。

 髪もオールバックで整えられていて清潔感に溢れているな。

 更には真紅のスーツまでしっかりと着込んでいるときた。


 ただ正面切って腕組んだ姿から初めてわかる。

 人間のそれよりもずっと力強い体格が。

 体質などでは決して再現出来ない種族らしさがハッキリと。


 これは戦いの為の肉体ではない。

 技術を奮う為に代々培われた肉体なのだと。


「ところで君は一体何者かね? 私はアポイントメントを取らない者との面会は一切お断りしているのだが」


「これは面会じゃないさ。俺は不信任を突き付ける為やってきたんだからな」


「ほう、つまりはこの貧弱な老体を鞭打ちに来たと? フン、随分と殊勝な事だ」


 そう、コイツの身体は明らかに戦い向きじゃないんだ。

 体格が大きいだけで肉体そのものは衰えが見える。

 そもそも年齢的にも高齢だしな。若作りなだけで。


 なのに何故だ。

 何故ここまで落ち着いていられる?


「君は知らないのかね? 私が今なお市民に愛された歴代最高の大統領であると。まぁその身なりからすると来たばかりと言った所だろうし、知らないのも無理は無いがね」


「いや、重々承知しているさ。だがな、お前のやっている事がその市民への徹底搾取だって気付いたから来たんだ。全く、よくバレずにここまでやったもんだよ……!」


「なるほど、裏政策の仕組みに気付いたという訳か。これは驚きだ」


 しかも今度は笑顔で拍手まで。

 コイツの引き出しの深さがまるで読めないな。


 けど怯んではならない。

 この手の相手は一歩でも引いてしまえば一気に畳みかけて来るだろう。

 こう口達者な奴ほど油断ならない相手なんだ。


 父曰く。

宣弁起勝(イム・ウェブル)。舌戦もまた戦いの一つ。ここで押し負ければ戦の勝機さえ逃しかねぬ。故に頭を動かせ。常に思考を回せ。誰よりも先行く為にも〟


 この教えがある以上、俺は舌戦でも負ける訳にはいかない。

 例え相手が人生経験豊富で百戦錬磨の口先名人だとしてもな。


「どうしてここまでする!? 市民を職で縛り、適さない者を駆逐して、その上で伝統競技を操作して金を巻き上げるなど! そんな事をしなくともお前の知略ならまともに統治出来るはずだ!」


「フッ、まともに統治か……幻想だな。子供が思い描く様な甘ったるい夢物語の国でも造れと言うのかね」


「何……!?」


「ならば教えて差し上げよう。裏政策に気付けた君ならば理解出来ると信じてね」


 口ぶりから察するに、俺がココウの仲間として訪れた事には気付いていない。

 恐らく興味無いんだ。

 コイツにとってその程度の者など塵芥にしか思っていないのだろう。

 ココウ本人ならいざ知らずな。


 だからこそ俺が独自に気付いたと思っている。

 いや、そう想定した上で思考を回しているんだ。

 コイツも常に相手の先へと行く為にと。


 なら油断なんて出来る訳が無い。

 この手の相手は、少しでも気を緩めれば口論だけで堕とされかねないのだから。


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