第57話 マオ 対 筋肉鬼人軍団(マオ視点)
『行け、人の子よ。この場は我が引き受けよう』
「わかった! ここは任せたぞマオッ!!」
さすがはアークィンだ。
この力を見せつけたのにもう飛び出してきていた。
私の速さに順応するのも早いねぇ。
さぁて、肝心のバウカンは彼に任せるとして。
なら私は一人たりともここを通さないよう張り切るとしようじゃないか。
アークィンが先へ進む中、私自身が扉の前に立ち塞がる。
目前の筋肉達に負けず、堂々と腕を組んでの仁王立ちでね。
その筋肉達も今の力を見せつけられて戦々恐々さ。
まぁ今のは制御が難しいから奇襲か牽制にしか使えないけど。
でも成果は充分さ。
見な、皆アークィンを追いかける事も出来ずにいるじゃあないか。
とはいえ、彼等も戦士だ。
そう簡単には諦めてくれそうにないようだねぇ。
「ヌゥ! なんという実力!」
「だが我等【鬼の十兄妹】はこの程度で挫けたりはせん!」
「姉者! こうなったらマッスルフォーメィションだッ!」
「うむ! 行くぞ弟達よ!」
「「「応ッ!!」」」
……にしてもこれのどこが兄妹だって言うのさ。
皆そっくりな背格好で赤肌筋肉、声まで同じじゃあないか。
あ、三人ほどしっかりブラ付けてるね。
なるほど、ここで見分けられる訳だ。
ちゃんとコンプラを守っている様でなによりさ。
そう感心している間に彼等が陣形を組み始めた。
姉者と呼ばれた一人を正面に立て、背後に他の奴等が。
まるで矛先の様な陣形が出来上がっている。
「奴の一撃、恐らく闘氣功の一種と見た! なればその力を受け流せば我等に正気あり! そして我等にこれがあぁるッ!!」
「「「それが! この! マッスルフォーメィショォンッ!!」」」
しかも今度は自分達からネタばらしときた。
なんなのさコイツラ!
馬鹿なの!? 真の脳筋なの!?
それともそれだけの自信があるっていうのかい!?
けど残念だ。
私はこういう無駄に暑苦しいのが苦手なのさ。
何事もそよ風の如くスマートに行きたいのが心情だからね。
だからこの時、私はもう宙へと飛び上がっていた。
大人しく目当ての攻撃を見せつけるほど義理堅くはないんだ。
そのまま天井をも駆け、瞬時にして奴等の背後へ。
そら、目当ての一撃をもう一度ブチかましてやろうじゃないか!
「速い! だがぁ!!」
『ッ!?』
けど再び放った時、想定外の事が起きた。
私の蹴りが受け止められていたんだ。
数人がその厚肩を重ね合わせる事によって。
『なッ!?』
「ふははは掛かったなぁ!」
しかも今度は肩達が離れ、隙間からなんと腕が飛び出してくる。
勢いを失った私の足を掴まえようとして。
でもそう簡単にはやらせないよ。
咄嗟にもう片足をも振り上げ、伸びて来た腕を蹴り飛ばす。
そうしてまた宙を舞い、再び奥の扉前へと離れ飛んだ。
「なかなかの体術捌きである! 今のに捕まらなかったのはなかなかにマッスルポイントが高いぞ!」
「そして何を隠そう! この防御陣形に穴など無い! 我等の筋肉壁は常に閉じられたも同然なのだッ!!」
なるほど、そう簡単にはいかないって事かい。
もう、ホントに厄介な肉壁だ。
見事に騙されたよ。
どうやら今の攻め方は失策だったらしい。
あの誘いはフェイク、裏から攻撃させる為の罠だった。
いや、むしろ全方位から攻撃してもああなんだろうさ。
それに加えてあの防御力か。
まったく、今の【スピードフォーム】と相性最悪じゃあないか。
まだ【パワーフォーム】に切り替えれば何とかなるかもしれない。
けどそうすると持続時間が一気に削られてしまう。
最悪の場合はほとんど戦わずに時間が切れてしまうかも。
悩ましいねぇ。
相手もタダじゃ転ばない歴戦の戦士って事かい。
一人やられただけじゃ変わりゃしないってさ。
「しかし貴様の筋肉ではァ!」
「我等が一撃にも耐えれまい!」
「故に我等が勝ぁつッ!!」
その戦士が自信満々に腕を振り上げて咆えている。
調子に乗るんじゃないよ。
こんな事ならアークィンに【輝操術】の一発でもブッ込んでもらえば良かった。
あの力なら防御なんて無視して食らわせられるだろうし。
あぁしんどいねぇ、しくじったかな。
――ま、後悔しても何も始まらないか。
何があろうとここはなんとか死守しないといけないからね。
いくらアークィンでも背後から襲われたらひとたまりも無いだろうし。
柄じゃあないけど、ここが踏ん張り時かな。
「そして!」
「そしてェい!」
「このまま突き抜け賊を追う!」
「止められるものなら止めてみよ、この肉弾戦車の進撃をォ!!」
しかも陣形を組んだまま前進ときたもんだ。
まるで壁が迫って来るみたいだよ。
欠伸が出るくらい鈍いけど、これが一番確実な方法だろうね。
こうなったら仕方ない、アレをやるしかないかぁ。
「このまま挽肉にしてやろぉう!!」
「いいや、ここを言うならサラダであろうかぁ!!」
「そもそも樹人は喰えなかろう!」
「しかしそれでも我等が喰ろうてやろう! その魂ごとォ!」
もう奴等は私の目と鼻の先。
腕を伸ばせば届くくらいにまで近づいてきた。
それでも奴等は止まりそうにない。
本気で私を轢き潰すつもりだね。
そうかいそうかい、なら乗ってやろうじゃないのさ!
この時、私の足に緑の雷が迸る。
クロ様の魔力が混じり合い、スパークした事によって。
再びあの瞬脚を見舞う為にと。
さぁ受けな!
これはさっきの比じゃないよ!
『【緑雷・砕禍】ッ!!』
充填された魔力が物理を越えて加速させてくれる。
それが世の理を越えたこの雷光蹴突さッ!!
「ぬはははッ!! 馬鹿の一つ覚えかァ!!」
しかしそんな私の渾身の蹴りを、あろう事か筋肉どもは受け止めていた。
正面の奴がたった一人、その巨大な両掌で。
「このマッスルフォーメィションはありとあらゆるパワーを受け流すゥ!」
「例え闘氣功や魔力であろうとも!」
「なればその様な細足の蹴りなど!」
「もはや恐るるに足らぁん!!」
しかもこの両掌は先の肩バリケードと同じ役目を果たすんだろう。
おかげで今、私の蹴りは完璧と塞き止められる事に。
そしてそうなれば、やはり来るのは先程と同じ反撃だ。
「握り潰してやろうッ!! そのプディングが如き肉体をォ!!」
間も無く腕が伸びてくる。
それも四方八方から一挙にして。
きっとこの手の内の一つにでも掴まれりゃ、一瞬にして千切り潰されるだろうねぇ。
ま、私を捉えられる事が出来るならだけど。
こう来るのはわかっていたのさ。
絶対的な防御への自信と、類稀なる筋力と。
それらを惜しげもなくひけらかす彼等なら、絶対にこうやって仕掛けてくるってね。
その瞬間のみ、絶対防御に穴が開くって事も知らずに。
故にこの時、再び緑雷光が瞬いた。
今度は両腕へ、それも奴等が迫るよりもずっと速く鋭く。
察させる間さえ与えないままに。
今の蹴りは只の呼び水に過ぎない。
本命はこの追撃なのさ!
さぁこれが真のとっておきだ。
冥土の土産に持っていきなッ!!
『【緑雷・貫根】ッ!!』
この一撃は刹那を穿つ。
針のように鋭く、それでいて瞬く程の一瞬で。
それだけの速さで貫手を打つのさ。
ただこの拳、本当はかーなーりー使い辛いんだ。
物凄く有効範囲が狭くて避けられ易いから。
だけど、決まればどんな相手達だって一瞬で同時に貫けるのさ。
なんたって閃光の如く速いからね。
なら、九人が同時に襲い掛かって来ても関係無い。
全員纏めて心臓を貫けばいいのだから。
「なッ、カッ!?」
「バ、バカ、な……!?」
「な、なんたる事……」
「ごぉふおッ……!!」
その狙いは完璧。
間も無く筋肉達が揃って床へと崩れていく。
自慢の大胸筋から血飛沫を上げながらに。
いくら屈強の鬼人族でも急所をやられちゃおしまいだしねぇ。
「ナ、ナイスマッスルだった……ぐふッ」
どうやら一人残らず倒す事が出来たみたいだ。
ま、通用するかどうか怪しかったし博打みたいなもんだったけど。
もし見切られて筋肉を張られていたらこうはならなかった。
防御を解かずに突っ込んで来たら防げなかったさ。
この一撃は鋭いけど、とても脆いからね。
でもこの賭けに私は勝った。
命を奪ったのは悪いと思うけど、お互い様だし許して欲しいかな。
さぁて、これで後ろは守ったよアークィン。
これからまたどんな奴が来るかはわからないけども。
もう少し耐えてみせるからさぁ、さっさと悪党をふん捕まえちゃいな。
にしても、ああ肩が痛い。
この技の欠点は体に凄い負担が掛かる事なんだよね。
だからあんまり使いたくなかったんだ。
こりゃ後でビーフステーキでも奢ってもらわにゃ割に合わないねぇ。




