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第54話 手遅れ世界に救済を

 競船界最高の試合【スカイレジェンド杯】での爆発事故。

 あの爆発は驚くべき事に運営の意図通りだったのだという。


 この事実を前に、俺達は驚愕を隠せなかった。

 聞き耳を立てていたノオンもが思わず包丁の手を止めてしまう程に。


 きっとあの試合は一番と二番の奴が勝つ様に仕向けられていたのだろう。

 だけどそこでココウが出しゃばり、予定を崩してしまって。

 そこで運営は危険と判断し、彼を排除したのだ。


 となれば恐らく、今までの爆破事故も同様に。


「あの爆発は操縦士をなるべく殺さない様に出来ているみたいだった。そうやって劇的な生還を果たさせて市民から共感を得る為に、だろうね。それで僕も生き残れたって訳さ。ま、もう飛ぶ気力も吹き飛んでしまったけれど」


 こんな事実があって良いのだろうか。

 政府が運営しているからといって、ここまでして人の夢を奪うなどとは。 

 誰しもが【フライハイアー】になりたくて操縦士になったのだろう!?


 それを全て私欲で無為にするなど、あっていい訳が無いッ!!


 いや、こうまで行けばもはや私欲などでは無いな。

 これは公虐だ!

 権力を利用して市民を貶める、公認暴虐なんだ!


 なれば許すまじ、赤空界政府。

 一人や二人ならいざ知らず、国全体を騙すなどとは!


 紫空界ではまだここまで至らなかった。

 未遂で終わったからこそ結果はそれほど酷くなかったさ。


 だがこの国はもう手遅れなんだ。

 つまり、ここはサイレントクーデターを完遂した後の世界なんだよ。

 それもラターシュよりずっと狡猾で欲深い奴が造り上げた様な。


 だからただ病巣を取り除いただけでは何も変わらないかもしれない。

 すぐに後釜とかがポコリと生まれたりで。


「ならココウ、知っているなら教えてくれ。その仕組みを作った張本人の名を」


「いいよ。でももうきっと君達も知っているだろうさ。聞くまでも無いくらいにね」


 けど、患部の切除と再発予防くらいは出来るだろう。

 その後は正気を取り戻した市民に建て直させればいい。

 今まで他人に頼り過ぎて生んだツケくらい、自分達で払ってもらおう。


 例えそれが彼等にとっての不幸であろうともな。

 少なくとも、夢や希望の無い今よりはずっと自然な形に戻るだろうさ。

 

 故に俺達があるべき形に戻す。

 赤空界に自由を取り戻すんだ。


 今の状況を産んだ張本人を、この手で締め上げてな。

 その名こそはやはりコイツか。




「元締めの名はバウカン=デウナジー。この国の大統領と呼ばれた男さ」




 とはいえ、名が挙げられても場はとても静かだった。

 きっと予想するに容易かったからだろう。


 やはりバウカン大統領だったのだ。

 むしろそれ以外に答えが無い。

 街で情報を集めた時、この名だけしか挙がらなかったから。


 それだけ象徴的だからこそ、誰よりも支配欲が強い。

 つまり権力を行使してそう仕向けたって事だからな。


「彼は競船界だけでなく、この国のあらゆる事業を仕切っている。例外なのはここの公共機空船発着場と【ケストルコート】くらいだよ。つまりこの赤空界は実質上、彼の支配下にあるってワケ。だから嫌になって脱出しようと思ったんだ」


 そこまでして権力と金が欲しいか。 

 全く、どうして今の時代はこうもトップ層がおかしい奴ばかりなんだ。

 このままじゃ俺達の国堕とし回数が増えていくだけだぞ。


 いや、いいか。

 いっそ増やしまくってやるよ。

 例え国を堕とそうとも、それであるべき形に整うならば。

 それが結果的に汚名となろうとも一向に構わん。


 国家そのものが悪性腫なら、何度でも握り潰してやる。

 もちろん、転移しないよう完全に切除した後でな。


「――話は大体わかった。そこでココウに頼みがあるんだ」


「え? 何かな」


「俺達は赤空界政府を潰すよ。いや、潰さなければならない。だからその為の手伝いをしてもらえないだろうか?」


「なっ!? 君達、正気かい!?」


 幸い、仲間達もやる気満々だ。

 やはりこういう事だけはやたらと気が合う。

 ノオンも船底部屋から鍋を振り回して気合いを見せているしな。


「ああ。俺達は恐らくそうする為に運命から呼ばれたんだろうさ。ならその運命に従ってやるべき事をやる。それだけの実力はあるつもりだ。それでつい最近は青空界と紫空界も救ってみせたしな」


「なんだって!? じゃあ君達があの五英雄――本当に一体何者なんだ!?」


「言っただろ? 食べ歩きが趣味な、通りすがりの正義の味方さ」


 それに今回は俺以上に気合いを見せている奴が一人いる。


 そりゃそうだよな、今まで散々振り回されてきたんだから。

 あんな事実に気付かされりゃ怒らない訳が無い。




「いいよ、やったろうじゃないのさ。このいたいけなマオ様をずっと騙してたとあっちゃ、何が何でも報復してやんないと気が済まないねぇ……!」




 それは賭け師としての意地か。

 それとも、そういう存在だと思わされていた事への復讐か。


 何にせよこのままで収まる訳が無いよな。

 安心しろ、俺も同感だ。

 いたいけかどうかは別として。


 なら、この怒りで奴等に一泡吹かせてやるとしようか!

 



 こうして俺達はこの日の内に作戦を練った。

 赤空界の元締めバウカン大統領をブチのめす為の一大計画を。

 もちろんココウも潔く手伝いを引き受けてくれた上で。


 彼の未練の正体はきっと【フライハイアー】なのだろう。

 正しい形でその称号を得たいと心の奥底でまだ願っているからこそ。


 ならその夢を叶える手伝いも惜しまない。

 どうせならココウには名実ともに真の勇者となってもらいたいからな。


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