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第49話 マオの自信の結果は

 駄目でした。




 最初はさ、良かったんだよ。

 一番と二番のデッドヒート独走状態で。

 その二つに賭けていたからマオも大興奮だったんだ。


 俺達もその熱い激走を前に唸りを上げていてたよ。

 なにせあの丸い船達が凄まじい速さでコースを走り回っていたんだからな。


 けど、後半に雲行きががらりと変わったんだ。

 思いがけもしないダークホースが躍り出てきやがったのさ。


 なんとあの一八番が追い込みをかけて来たんだ。


 凄まじい追い上げだった。

 まるで一番争いを取って喰らわんとばかりに。

 あの丸い機体を自由に操り、機体群を華麗に潜り抜けて。


 それでまさかの一八番がトップでゴールイン。

 その予想外の番狂わせに会場が騒然としていたものさ。

 お陰でハズレ賭け券が会場一杯に宙を舞っていたよ。


 そしてそんな中でマオも真っ白になっていた。


 どうやらこの結果は誰しもが予想していなかったらしい。

 それだけ一八番は目立たないし実力も無いとされていたから。

 そもそもどうしてこの試合に出られたかもわからないそうだ。


 ――と、隣に座っていたおっさんドワーフから教えて貰えた。

 いや、お前誰だよ。一切訊いていないんだが?


 まぁ肝心のマオは今、冬の倒木の様に枯れてるからな。

 まず会話自体が成り立たないだろう。

 にしても、どうしたら一瞬でここまで干からびられるんだ?


 まぁこうなる事はなんとなく予想していたけれど。

 賭けなんて所詮こんなもんなんだって。

 やはり父の言った事は正しかったのだな。


「ザンネーン、やっぱり上手く行かないねー」


「でもちょと楽しかーた」


「にゃー(息抜きとしては充分だったね!)」


 仲間達もどうやらすぐに割り切れた様だ。

 期待半分って所は同じだったんだな。

 冷静なのが俺だけじゃなくて安心したよ。


「でもテッシャも外れー」


「あちしもハズーレー」


「にゃー(ボクは一番一択だったからね、当然ダメさ! ハッハー!)」


 とはいえ俺達も期待を持って乗ったのは確かだ。

 だからマオを責めるつもりなんて無いさ。


 ま、今夜の食費に宛てが無い訳でもないしな。

 ほんの少し外道だが手段はある。


「で、アークィンは誰に賭けたのー?」


「ん、俺か? いや、正直言うとわからん。とりあえず目に付いた者を選んで買ってみただけだからな」


「どれどれー……あ"ッ」


「えっ?」


 でもそう思っていた矢先だった。

 テッシャが興味本位で俺の賭け券を見た途端、こんな声を漏らしたんだ。

 それも今までに聞いた事が無い呻きみたいな声を。


「ア、アークィン、これ……当たってる!」


「「「えええッ!?」」」


 それでこうも続けば驚くだろうよ。

 俺だけじゃなくマオまでもが。

 まさかの展開に誰もが信じられなくて。


「アークィン、もしかして大穴を狙ったのかい!?」


「え!? いや狙った訳じゃないぞ!? 〝この数値はやたら高いな。ほほう、きっとそれだけの意気込みがあるという事なんだな、よしこれで行こう〟って思っただけで!」


 そう、俺は賭けルールなんて全くわからない。

 教えて貰っても理解に及ばなかったからな。

 オッズとか配当率とか言われてもさっぱりでさ。

 だから書かれていた数字が三桁くらいだった一八番を買っただけなんだ。

 ただ単に気概がある者への敬意を籠めて。


 でもまさかそれが当たっていたなんて夢にも思わなかったぞ。


「アアアークィン! いいいますぐ換金しよう! は、はやく! 第二レース始まる前にィィィ!!」


「え、ええ!? これ、一体いくらくらいになるんだ!?」


「大体四四ケバブくらいだよ!」


「なん、だと……!?」


 しかもなんだ四四(フォーティフォー)ケバブって!

 確かにわかり易い単位だけどォ!


 というか、はした金がその金額に化けるのかよ!?

 恐ろしいな賭博!!


 それで俺達はすぐさま場内換金所へと向かった。

 ほぼほぼガラ空きだったからすぐ受け付けて貰えたよ。

 で、返って来た金を前にして皆が唸りを上げる事に。


「やったー! これで明日もご飯が食べれるっるーん!」


「スィーツも、たべれーるー!」


 その金額、しめて七万ウィル。

 まさにケバブ四〇は手固い金額である。

 むしろパンと特製ソースを付けてサンドイッチにしてもいいくらいだ。


 い、いかん、想像しただけでよだれが。


 しかしもう妄想だけでは済まさんぞ。

 この金さえあれば俺達はすぐにでもケバブサンドを喰えるのだから!

 なんなら今すぐ会場外にある屋台へ走っても一向に構わん。

 

 故に父よ、一つ言わせてくれ。

 どうやら賭博でなら俺は貴方を越えたらしい。

 決して誇らしいとは言えないが、なんだか嬉しい気分です。


「――さぁ、ここからが問題さ。この金を更に増やしたいと思わないかい?」


 でもその気分に水を差す奴が一人。

 マオがニタり顔を浮かべながら俺達に微笑んでいたんだ。


 きっと雪辱を晴らしたいのだろう。

 先程の失敗を取り戻したいのだろう。


 だ が!


 ダメに決まっている!

 こうして数日分の食費が手に入ったならもう用は無いハズだ!

 増やすったってそれが外れたら元も子も無いだろう!


 決してマオを救済したくない訳じゃないんだ。

 これ以上手を出せば危険だと俺の本能が告げているッ!


 この先に進めば俺達は、帰ってこれないかもしれないと!


「で、そこで提案だ。私はアークィンの強運に賭けたい」


「――なッ!?」


「こういう運っていうのは言わば波形パラメータなんだ。数値化は出来ないけれど必ず存在していて、その波に乗った時こそデータ以上のポテンシャルを引き出してくれる。そしてアークィンはその波の頂点に立っているのさ! その意味がわかるかい?」


 けれど間も無く、マオのこんな言葉が俺の心を揺さぶった。

 理屈はわかり難いけれど、何となく理解出来てしまったから。

 その上で、自分の立ち位置を把握出来てしまったからさ。


 欲求が生まれてしまったんだよ。

 更にこの先に進みたい、挑戦したいっていう欲求が。


 当然だ。俺は挑戦の末に、いつか武の頂点に立ちたいとさえ思っている。

 例えラターシュが憂いた晩年の成就となろうとも。

 父が目指して達成し得たのと同様、旅を終えた後に必ずと。


 そんな俺がしり込みなんてする訳も無い。

 意欲だけは誰よりも強いと信じているからこそ。

 人生は挑戦だと徹底して教え込まれたからこそ。


 それに恐れなど、父に鍛えられてとっくに克服したしな!


「その運をここで終わらせるか、それとも活かすか。それはアークィン次第なのさ」


「……ならばその話、乗ったぞ。こうなったからには四四ケバブなどでは済まさん。目指すは一万ケバブだッ!!」


「「「おおーっ!」」」


 ただ、俺が無知である事に変わりは無い。

 今回はたまたま運良く当たりを引いただけだ。

 だから次も当てずっぽうで上手く行くとはとても思えない。


 ならば知識を分けて貰えばいい。

 その上で俺が買えば、運が自然と味方してくれるハズ!


「マオ、知識を貸してくれ。お前の知識と俺の運、二つを合わせてこの目標を達しよう。俺達になら出来る!」


「ふふっ、滾るねぇ。いいよ、やってやろうじゃないのさ。この私が金持ちへの道を切り拓くお膳立てをしてさしあげようっ!」


 マオの先見力は決して嘘では無かった。

 一八番が来なければ予想通りの結果だったから。


 ならまた予想外さえ起きなければ、俺達に敗北は有り得ない。


 故に俺達は手を取り合う。

 この困難を乗り越え、安定した旅費の獲得を誓って。


 待っているがいいケバブ屋よ。

 もうすぐお前を屋台ごと買い占めてやるからなッ!!


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