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第46話 マオの秘策

 皆揃って広場のベンチへ座り込む。

 事の重大さがようやくわかって途方に暮れながら。


 どうやら下調べ無しに赤空界へ来たのは失敗だったらしい。

 まさか依頼を受ける事さえままならないとは……。


 更には所持金がもうあと一日分の食費程しかない。

 おまけに機空船はあと五日間くらい動けない。

 だから何とかしてこの地で生計を立てなければ。


 さもなければ、俺達は正義の名の下に飢え死にする事となる。


「こりゃあまずいねぇ。最悪でも私だけは生きられるけども」


「ならしばらくマオの食費は考えないものとしよう」


「断るッ!! 私だってケバブ食べたぁい!」


 しかもこの中で一番食べるのが何故かこのマオ。

 光合成できるのになんでここまで肉食にこだわるんだ。

 お前の片親は食虫植物系の樹人だったのか?


 そのマオがこの調子だと一日さえ持つかどうか。


 だけど当人だけはなんだか元気なんだよな。

 その元気を少しくらい俺達に分けて欲しいものだよ。

 いっそ【生気譲送魔法(センデル)】とかで物理的にギュンギュンと。


「んふふ~、こうなったら最後の手段しか無いねぇ~。やはり()()に頼るしかないってぇもんさ」


 でもどうやら元気なのは理由無しの事ではなかったらしい。

 すると何を思ったのかニタリ面をこっちに向けていて。


「ッ!? マオ、もしかして何か秘策があるのか!?」


「あるよぉ~最ッ高の救済手段がねぇ」

 

 こんな俺達の反応に、今度は胸を張って得意げという始末だ。

 一体何なのこの自信。

 まさか本当に魔法掛けるつもりなんじゃないだろうな?


 それとも、もしかして本当に別の稼ぎ方があるっていうのか!?


「クシシ、ここは赤空界マスターであるこのマオ様にどんと任せなさいな! 皆をあっという間にちょっとしたお金持ちにしたげるさぁ!」


 確かに、赤空界は無知な旅人には決して優しくない。

 けれど住んでいたというなら話は違う。


 きっとマオの様にここで暮らさないとわからない稼ぎ方があるんだ。

 だから皆ここで暮らす事が出来ている。

 何も【ケストルコート】の依頼が全てとは限らないから。


 なら一体どんな手段があるって言うんだ!?

 それで今の状況が変えられるなら、悪事以外であれば何だってするぞ。


 そしてその想いは仲間達もまた同じだったらしい。

 皆が皆マオに期待の眼差しを向けていたのだから。


 その眼の奥底にケバブとアイスクリームの幻影を映しながら。


 お門違いだった教習所の事はこの際もうどうでもいい。

 見せてもらおうか、マオの自信の根源とやらを。


 そこまで言うならば、俺達を今すぐ小金持ちにしてみせろッ!!






 その後、俺達は即日の内にまた北へと向かった。

 マオの案内を受けるまま、舗装された安全路を。

 なんでも一時間ほど歩いた所にその自信の源があるというので。


 けど辿り着いた時、俺達はただ唖然とする他無かった。


「さぁ着いたよ! ここで私が皆を裕福にしてさしあげようっ!」


 なんと現れたのは――広大なレース場だったんだ。

 しかも下手な建物より大きな縦看板が幾つも並ぶ程の。


 そしてその看板に刻まれた名こそが【スカイフライヤー国立競船場】。


 つまり、ここが噂の伝統競技を行っている場所って訳だ。

 幾つもの機空船が一番を競って空を駆け抜けるという。


 そんな由緒ある場所だからとても人が多い。

 それこそメイン会場らしき建物の前は人・人・人だらけ。

 実際、ここに向かっていたのも俺達だけじゃなかったしな。


 けどどうやら、誰もがただ見学しに来たという訳では無いらしい。

 皆が皆、何やら小さなチケットを片手に唸りを上げていたから。

 その姿からは並々ならぬ熱意の様なものを感じてならない。


 じゃあその理由はと言えば。


「フッ。このレース場はね、名だたるレーサー達が腕を競うのと共に、その勝敗を賭け事にしている場所なんだ! しかも赤空界政府国営! その規模は世界最大級! 故に一獲千金を狙う猛者達の戦場ともなっているのさぁ!


 そう、ここは言わば公共賭博場。

 それでマオの秘策とはすなわち、その賭博で一発当てる事。

 全財産を費やして倍々にしようと企んでいたのだ。


 ――冗談じゃない! 賭け事に運命を託せって言うのか!?


 つまりそれは最悪の場合、スッカラカンになるって事じゃあないか!

 当てられなかったら俺達は今日の食費すら失う事になるんだぞ!?


「待てマオ、賭けなんて承認出来ない! 俺は賭け事だけはダメだと父より強く戒められたんだ!」


 父曰く。

安賭遇堕(グー・ホンズ)。賭け事には絶対に手を染めるな。あれは魔物だ。全てを失う事になりかねない恐ろしい物ゆえ一切手出しする事まかりならん。いいか絶対にだぞ!〟

 ここまで念入りに忠告されてしまえば慎重にもなる。


 かくいう父もきっと昔、つい手を出してしまったに違いない。

 しかしその結果、恐ろしい目に遭ってしまったのだろう。

 なにせこれを語る時、あの父が手を震わせていたんだからな!


 ならば俺はその過ちを繰り返す訳にはいかん。

 ここは断固として拒否させてもらわねばならない。

 例えミミズを口にする事になろうとも!


 ――って待てェお前等ァ!


 そう固く決心したのに今、俺の体は競船場に向かっている!

 いや、強引に向かわされているんだ!!

 背後からノオン達に掴まれ押される事によってェェェ!!!


「にゃー」


 そんな緩く答えてもダメですッ!

 翻訳しなくてももうわかるよその言葉の意味!

 どうせ「この際だし硬い事を言ってはいけないよ、ハッハー!」とかだろう!


「甘味なの。甘味がフィーを呼んでいるーの! 食ぁべまくるのぉぉぉ!」


 なんなのフィー!? 何でそんな必死なの!?

 目を血走らせた顔を股の間から覗かせないで!?

 なら報奨金寄付しちゃう前にそのパワー出して欲しかったよ!


「みたい! テッシャは船の競争みたぁい! ゴーゴゴー!」


 うおあああ!! 俺の足元だけを泥化させてやがるッ!?

 こんな時だけ本気出すんじゃなぁい!!

 なんだ、もしかしてミミズ拒否したのを根に持ってたりするのか!?


「ハハハ、アークィンも本当は興味があるんじゃないかい? じゃあ皆で行くしかないねぇ。安心しなってぇ私がぜぇんぶ取り戻してあげるからさ!」


 で、当のマオはと言えばスキップしながら一足先で跳ねている。

 一体何なんだこの余裕は。

 絶対に当てられる秘策でも持ち合わせているのか!?


「フフ、きっと今こう思っているね? 〝マオには賭けを当てられる算段でもあるのか〟と」


 し、しかも心内がバ、バレているッ!?


 クッ……そうだ、マオはこういう事にやたらと鋭いんだ。

 俺が分かり易いっていうのもあるんだろうけども。


 それでも普通は俺みたいに思うはずだ。

 賭けに絶対は無いのだと!

 当てられる自信はあっても確証など有り得ないと!


「しかし違うのだよアークィ~ン! この私を誰だと思っているんだい?」


「え、歩くキャットタワー?」


「フゥー辛辣ゥ!」


 しかしその常識さえも覆す確証が――マオにある?

 まさかそれが秘策ってヤツなのか!


 正直信じられない。

 だが一方で、期待したいと考えてしまった俺もここにいる。


「ふふっ、まぁここは大人しく私にまっかせなさぁい!」


 ……なら、今一度信じてみるか? あの自信に満ちた笑顔を。


 いや、仲間として信じなければなるまい。

 友・仲間とは信頼を寄せてこそ初めて成り立つのだと教わったからこそ。

 だからここは一つ秘策とやらに乗っかってみるとしよう。




 こうして俺達は全財産を託す事にした。

 いつの間にかサングラスを掛けて自信満々なマオへと。


 頼むぞ、明日のケバブは君の手腕に掛かっているんだからな! 


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