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第32話 騎志団、突貫す

 歴壁からマルディオン城へと続く道は主に三つある。

 東・西・南にある門から真っ直ぐ進む道だ。


 特に正面・南正門からは最も近く、城の入口へも真っ直ぐ続いている。

 だから俺達はこの正門より正面突破を敢行したという訳だ。

 どこでも、兵士に囲まれてうだうだしてたら終わる事に変わりはないしな。


 そこで、俺達のこんな計画を立てた。


 奴等は戴冠式を行う為に、全防備を【マルドゥーケの歴壁】へと集めるだろう。

 城で起きている事は上級兵にさえも知られる訳にはいかないだろうから。

 だから城にもほとんど兵士を置かず、関係者だけで式を執り行うハズ。

 兵を配置するにしても、精々城周囲に留まる程度なのだと。


 だからその状況を逆に利用する事にした。

 俺の【輝操術(アークル)】で一気に突破して突き抜ける事でな。


 奴等は城門突破など予想していないハズだ。

 なのでもし突破されてしまえばその動きはたちまち鈍る事となる。

 その隙を見計らい、一気に城まで突き抜けるんだ。


 それも誰にも追い付けない速度で。

 正面から迫る兵士達を強引に蹴散らしながらな。


「今だ、マオーッ!」


「まっかせなぁ! 行くよ、クロ様ッ!!」


 そこでマオの出番だ。

 彼女にはこの秘策の為のとっておきがあるのだから。

 普段から背負っているクロ様は伊達の存在じゃあなかったんだよ。


 この時、マオが背中のクロ様を正面へと投げ付ける。

 更には同時に詠唱を始めていて。


「〝聴け精霊よ(マーイヤ)大地を巡る命声を(ウルケストラ)! 然らば在りて降りて(イヤーラオーレ)重ね願しは聖譲の氣園(コトコリテ・ルカーラ)! 繋げたもう(セヤテー)万華の化身が如くして(アウク・アン・ジュナ)!〟」


 その両手指が印を次々と刻み、術式を複雑なまでに構築する。

 刻むたびに無数の閃光筋を大地から立ち昇らせながら。

 それもクロ様へと吸い込まれる様にして。


 これこそ精霊術と呼ばれる力の真価だ。

 只の魔法とはまるで違うぞ。

 なにせ人知を超えた自然力を増幅させて実現する超常術なのだから。


 するとこの時、突如としてそれは起きた。




 なんとクロ様が巨大化したのだ。

 それも見上げる程に高く高く。




 その高さはおおよそ一五ヤーム(メートル)

 先の城壁にも匹敵する程の巨大さだ!

 おまけに短足にも拘らず二足走行しているぞ!!


 まるでぬいぐるみが走っているかの様だ。

 丸く短い後脚を高速で動かし、頭や前脚を振り回して駆ける姿はまさに。

 かつ巨大過ぎるからこそ、歩幅はもはや人間のそれを遥かに超越している!


 だからといって衝撃は無い。

 何故なら実体であって実物ではないから。

 霊的エネルギーの密集体だからこそ質量というものが存在しないんだ。

 そのお陰で走っても一切揺れないし、床も絶対に壊れない。


 にしても凄まじく速い! そしてパワフル!

 一瞬にして景色の先へと突き抜ける程に!

 しかも道中の兵士達をも吹き飛ばしながら!


「今だアークィン! フィー!」


「よし! 【気空滑(レベイラー)】!」


「いくよー! 【先駆けの春風(プリンクル)】~!」


 その速度に追い付くには、走っただけじゃとても追いつけない。

 少なくともマオとフィーを背負って走っている以上は。


 ではそれを魔法力で補い、走る以上の速さで抜ければいい。


 だから俺達はこの手段を講じたのだ。

 大地を滑る【気空滑(レベイラー)】。

 突風を起こす【先駆けの春風(プリンクル)】。

 この二つの魔法を同時駆使する事を。


 なれば俺達の足がたちまち大地より浮く。

 そこに空かさず強風が吹き荒れれば――


 俺達は何の苦労する事も無く、疾風の如く道を突き抜けられるんだ。


 幸い、城までの道は真っ直ぐ、そして平坦。

 如何な客が来ようと失礼のない様にと、しっかりと整えられている。


 なら俺達も客人らしく、丁寧に真っ直ぐ行こうじゃないか!

 なんたって今すぐ戴冠式に赴かなければならないんだからな!


 しかしその中でも兵士達は止まらない。

 クロ様の猛進から逃れた者達が今にも迫ってきている。


 だが、お前達はもうそれ以上動く事は出来ないぞ!


「な、なんだ、足が!?」

「地面に埋まってしまっているーッ!?」


 そうだ。開けた道を閉じさせる訳にはいかないからな!

 だったら、足止めは疾風の俺達と同等速度で動ける奴に任せる!


「にゃっはー!! 土の中へおいでよーっ! たっのしいよー!!」


 そう、テッシャだ。

 彼女なら土の中である限り誰よりも速く動ける。

 そういう特性を持った魔導具を両腕に備えているからな。


 あのデカい爪腕甲はただの武器防具じゃなかったんだ。

 その名も【地懐双爪(ちかいそうそう)カエトハァル】。

 土中でも自在に動け、大地魔法の効果を上げる力をも持つ高位魔装である。


 それならこうやって兵士達の足を、泥軟化させた床で固める事も可能!


 そもそも大地魔法は相当にレアで強力な魔法だ。

 大地の精霊と契約を交わした者にしか扱えないからな。

 お陰で対処法も乏しく、物理変質式だから変幻自在で戦術性が高いときた。

 

 それを自由に扱えるテッシャは、地上戦において如何な奴よりもずっと強い。


 ただし土がある所に限るのが難点か。

 この床畳の下が岩盤だったらこうもいかなかった。

 とはいえ、そこは既に調査済みだったけどな。


 おかげで今や、俺達を邪魔する者は居ない。

 このまま一気に城まで突き抜けるぞ!




 こんな感じで計画は功を奏し、差し支えなく進んだ。

 なにせ一気に城まで辿り着く事が出来たからな。


 いざクロ様に追い付けば、絶賛大暴れに遭遇だ。

 城入場門前の兵士達を体全体で振り回して吹き飛ばしている。

 やはりあのパワーと不条理な軟体動作は凄まじいものがあるな。


 しかし残念ながら、この巨大化術には時間制限がある。

 時間にしておよそ三〇分未満。

 おまけに時間経過で力がどんどん減衰していくんだ。

 例えばほんのちょっぴり穴が開いた風船の様にな。


 ついでに言えば、最後まで時間を使い切る事も出来ない。

 使い切ればそれすなわちクロ様とお別れになるから。


 そうしない為にも最低、あと二〇分以内にカタをつけなければ。


「マオ! フィー! テッシャ! ここは任せたぞッ!!」


「オッケェ! とはいってもあんまり長く待たせないでくれよ?」


「がんばる~の!」


「うぇーい! 一杯暴れちゃうよー!」


 それで彼女達に城入場門前を任せ、堀橋を越える。

 更に数人の兵士が迫り来る中でな。


 しかし、この程度の数なら物ともしないぞ。

 なにせ先頭を切る奴は――本当に切れるからな。


「ドゥキエル相伝、七剣殺法・疾の位……【駿・駆・刃(そうくじん)】ッ!!」


 その瞬間、稲妻が突き抜けた。

 まさしく雷駆の如き速さで。


 走り来た兵士達が一瞬にして斬られたのだ。

 ノオンの高速剣術の餌食となって。


 その軌跡はまさに雷、ジグザグの足跡を瞬時に刻む程だ。

 加えてその迷い無き剣筋はもはや大気さえ切り裂こう。


 それもそのはず。

 剣の腕前に関しては、ノオンの方が俺よりずっと強いのだから。


 正直、初めて見せられた時は驚いたよ。

 これが剣を極めるという事か、と。

 騎士にはなれないかもしれないが、この強さは並の騎士じゃ勝てない。


 その志の強さ故に。




 だから彼女は【騎志(ウィルナイツァー)】ノオンなのだ。




「アークィン! せっかくだから入場門も一発頼むよ!」


「ああッ! 【輝操(アークル)転現(ライズ)】!」


 そんな兵士達を叩き伏せ、入場門を強引に削り空ける。

 そうやって突入すれば、たちまち喧騒が彼方の事の様に静まった。


 城内はそれだけとても静かだったのだ。

 途端に誰も彼もがいなくなったから。


 そして男が一人、正面フロアにて息を潜めて堂々と立っていたからこそ。


「ノオン……まさかお前が乗り込んで来るとはな」


「カイオン兄様……!」


 そう、ノオンの兄――ドゥキエル家次男カイオンが立ち塞がっていたのだ。

 まるで俺達を歓迎するかの様に。




 どうやら簡単に通しては貰えなさそうだ。

 あの鋭い目つき、とてもじゃあないが――相当の腕前の様だからな。


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