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第30話 お前は何もかも間違っている

 ノオンは自分一人で戦うつもりなんだ。

 例え勝ち目が一片たりと無くとも。


 だがそれは只の強がりに過ぎない。

 本当なら父親を救い出したいのだろう。

 愛する祖国を元の姿に戻したいのだろう。


 もしそれを叶える力があるのならば。


「お前の考えている事はお見通しだ。出会って数日だが、お前の思考は大体読めているし、何よりわかり易いんだよ。顔に出ているんだ。俺達に迷惑を掛けたくないんだってな」


「……」


「そんなお前をほっとけると思うか? 無理だな、俺には出来ん。恐らく他の皆もな。これでもここの全員がお前の理念に賛同しているんだよ! 【銀麗騎志団】の歪み無い精神に! それがわからないお前じゃないだろうがッ!!」


 それに迷っているに違いない。

 兄が二人、自分の敵になるという事が信じられなくて。


 どうしようもなくて、今にも泣き出したいくらいに追い詰められたから。




「じゃあ一体どうしろって言うのさッ!! ボクに、皆に死ねって言わせたいのかッ!? そんな事、出来る訳が無いじゃないかあッ!!!」




 そんな想いが遂に噴き出して、怒号となって部屋中へと響く。

 涙や唾までを撒き散らす程に激しく、肩に乗せられた腕をも振り払いながら。


「うああああーーーーーーッッ!!!!!」


 それでとうとう俺の胸へと握り拳を打ち当てていて。

 何度も何度も、言い得ない苦しみを乗せて衝く。

 ただただ、泣き叫ぶままに。


 もう誰も止めなかった。

 いや、止めようとは思わなかったんだ。

 そんなノオンの気持ちも痛い程よくわかったから。


 俺だって、父が死んだ時はとてつもなく苦しかったからな。


 だけどな、違うんだよ。

 ノオン、そうやって泣くのはまだ――早いんだよ。

 

 そんな想いがふと、ノオンの腕を掴まえさせていた。

 それも両腕とも、がっしりと動かなくなる程に強く。


「お前は、俺達がそうやすやす死ぬと思うか?」

「――ッ!?」


 今ので吐き出すだけ吐き出しただろう。

 俺の胸が物理的にも精神的にも痛くなるくらいにな。

 だけどここまでやったなら、今度は俺からも言わせてもらう。


 お前は何もかも間違っているのだと。


「お前は今言ったな? 個々で好きにしろと。なら俺は好きにするぞ。俺一人で城に乗り込み、ヴェルストどもをブチのめす」


「なッ!?」


「ついでに皇帝も、ノオンの父親も俺が救い出す。お前は好き勝手に生きて蚊帳の外から見ていればいいさ!」


 そうだ、お前は全て間違っていた。

 最初から諦めた事も、俺達を巻き込まない様にした事も。

 父親が死ぬと思い込んだ事も、国が変わってしまうのを許した事も。


 そうしない為の〝騎志団〟だろうが!!


「そんな事出来る訳が――」


「出来るッ!! 俺にはその手段があるッ!!」


「嘘だッ!!」


「いいや嘘ではない!! 何故なら俺は、武聖ウーイールーの息子だからだッ!!」


「「「え、ええッ!!?」」」


 その騎志団とやらに入ったからには従ってやるぞ。

 掲げられた理念は俺にとっても好都合だからな。


 ならば俺の全てを奮ってやる。

 例えどんな事をしようとも完遂してやる。


 こうしてあの壁の先に悪意があるとわかったならば、絶対になッ!!


「だが、そんな俺でも一人では無理がある。だからノオン、お前も手伝え。誰も殺させない為に。ヴェルストどもの悪事を叩き潰す為に。そしてお前の兄達の凶行を止める為にもな」


「アークィン……」


「それにほら見ろ、皆を」


「えっ?」


 それに、この想いを持つのはどうやら俺だけじゃなかったらしい。


 こう言われてノオンが振り返れば、そこには仲間達の笑みが。

 皆揃って、やる気を見せんばかりに力こぶしを見せながら。


 全員やる気なんだ。

 もちろん死ぬつもりなんて無い。

 生きて事を済ませる為に、全力を尽くすつもりなんだよ。


「み、皆、いいのかい……?」


「「「もっちろんさ!」」」


「これでお前の考えが間違っているってわかっただろ? 諦めるには早いって」


「うん、うん……っ! ボクは、確かに間違っていたよ……ずっと、勘違いしていたんだね。独りよがりで、無理しようとしていたんだ、って」


「ああ、そうだ。なんたってまだ誰も死んでないんだからな」


 猶予はまだ二日分ある。

 ならその間に全力を尽くして突破する手段を構築すればいい。

 考えて、導くだけなら充分過ぎる時間さ。


 だったら、少しでも生き急ごう。

 多く時間を有効利用して、最高のコンディションで挑もう。


 そうすれば必ず事は成せる。

 あんな壁など、俺の【輝操術(アークル)】さえあればなんて事は無いからな。


「ならボクに力を貸してくれ。父上と、皇帝を助けたい! そして兄様達に真意を問いたい! その上でこの陰謀を阻止したいんだッ!!」


「「「オッケェーイ↑!」」」


「父曰く。〝早晩多子(グナ・メノティオ)。生き急ぐのだ。そして残すモノが多き者ほど産むも易しと知れ〟。この格言の真意に則って、今より二日間でやるべき事をやるぞ。悲しむ暇なんて与えないからな!」


「はは、正体がわかった今だからこそ、君が言うと凄く様だって思うよ」


 そうだ。

 俺達には常人には無い力があるはずだ。

 たった数人で近衛騎士の軍団を返り討ちに出来る力がな。


 ならこの二日間で教えて貰うとしよう。

 皆の力と、出来る事の全てを。

 俺もまた同様にして。




 こうして俺達はこの後すぐに計画を練り、持ちうる能力の共有をも行った。

 ヴェルスト達の〝内静かなる反旗(サイレントクーデター)〟を必ず阻止する為にも。


 そして来たる三日目。

 俺達による〝騒々たる叛逆(ノイジーリベリオン)〟はここより始まりを告げるのだった。


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