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第29話 騎志団解散宣言

 やはり皇国第一皇子ヴェルストが皇位奪取を目論んでいた。

 その為には実の父親を手に掛ける事さえも厭わずに。

 それも〝内静かなる反旗(サイレントクーデター)〟という常軌を逸した手段を講じて。


 恐らく、国民が知らない内に事を済ますつもりなんだろう。

 国民ならヴェルストの悪態はある程度知られているだろうからな。


 そんな男にわざわざ皇位を継がせる理由まではわからないが。


 しかしその計画は余りにも周到。

 狡賢いだけでは説明が付かないくらいにな。


 その計画の概要は予測するに、こうだ。


 まずツァイネル達を青空界へ派遣。しかもやられる事を前提に。

 それでもし青空界が皇国の差し金だと気付いた場合、公に追及が行く。

 すると皇帝が責任を問われ、国民感情も悪化するだろう。


 そこでヴェルストの登場だ。


 実は皇帝が悪事を働いていて、ヴェルストがそれを暴くという風に仕立てる。

 産業組合への締め付けはその一環、皇国の仕業に偽装した罠だったんだ。


 すると国民感情は一気にヴェルスト側へと傾き、倒閣へと向かうだろう。

 それでヴェルストが新皇帝に即位、強権を行使する政策に向かう。

 後は正義の名の下に自分勝手し放題となるワケだ。

 これが基本シナリオの一連の流れ。


 で、サブシナリオはと言えば、まさに俺達が出張る前の状態。

 青空界が攻められている事に気付かない場合だ。


 これなら勝手に青空界が紫空界の傘下に入る。

 いつかツァイネル達が実効支配してしまうからな。

 後は粛々とクーデターを進め、戴冠式も済ませればいい。


 俺達はその直前にシナリオをメインへと戻しただけに過ぎない。

 つまりヴェルスト達にとってはノーダメージなのだ。


 それを考えるとツァイネルには悪い事をしたかもしれない。

 彼は言わば現皇帝側で、騙されていただけに過ぎなかったのだから。

 もちろん青空界の人を貶めた事実もあるので自業自得なのだけど。


「そう言えばこんな話があったかなぁ。皇国では先に皇位を譲ってから【陽珠】に許しを貰いに行くんだってさぁ。だから皇位継承は【訪陽日】の直前に済ますそうだ。その日の訪れるのが三日後さね。まったく、タイミング悪過ぎやしないかい?」


 おまけに日取りも抜け目なしだ。


 【訪陽日】とは一年に一回訪れる、【陽珠】へと向かえる日で。

 その日のみ近づく事を許されるので、世界が合わせなければならない。

 なので他国は予め訪問しておき、時期を見て継承を行うのだそう。


 しかしマオの言う通り、紫空界だけは当日に全て済ませるという。

 つまり三日後の戴冠式は絶対に訪れるのだ。


 ならもう既に準備は出来ているに違いない。

 その為の戒厳令なのだろう。

 誰にも邪魔されない為に、と。


 完璧だな。

 慣習に則って即位するから、事後なら誰にも文句は言えん。

 おまけに【マルドゥーケの歴壁】に隠れているから絶対防備ときた。

 これじゃ並の人間では気付けないし近づけもしない。


 この計画を考えて実行した奴は相当頭がキレる奴だぞ。


「うー、なして王様なりたいのか。あちし、まったく理解ふの~なのよ~」


「テッシャももう何がなんだかわかんなーい!」


 俺の言葉足らずもあるが、事が複雑過ぎというのもある。

 だからこの二人には少しわかり難かったかもしれないな。


 にしてもノオンは黙りっきりだ。

 よほどショックが大きかったんだろう。

 なにせ長男と次男が黒幕の一味だったんだから。

 それに最愛の父親が死ぬかもしれないとなればもう。


「ノオン、平気か?」


「……うん」


 だからもう笑顔すら消えている。

 笑う余裕すら無いんだ。

 それどころか俯いた顔を上げる事さえも出来ずにいて。


 するとそんな時、ふとノオンが立ち上がる。

 未だ炎を焚いたままだったランプに蓋を掛けながら。


「ごめん、皆。どうやらボク達はここまでみたいだ」


「えっ?」


「これじゃ正義を貫き悪を挫く、なんて言えないよね。巨悪を前にして成す術も無いんだからさ。しかも父上がこんな事を言う相手じゃ、ボク達にはもう何も出来る訳がないよ」


「ノオン……」


 そう、ノオンは諦めたんだ。

 今の状況がどうしようもないって気付いて。

 きっと俺と思考が似ているから、同じ結論に辿り着いたのだろう。


 この〝内静かなる反旗(サイレントクーデター)〟はもう誰にも止められない、と。


「だから、【銀麗騎志団】はここで解散だ」

「「「ッ!?」」」


 なまじ故郷だからよく知っているんだろうな。

 城を守る城壁が如何に堅牢かを。

 自分達の力では突破の可能性が一片も無いという事を。


 そしてその戦いにもはや何の意味も無いと理解して。


「各自、自分の好きなように生きて欲しい。ボクもそうするよ。父上にそう言われたからね。精々楽しく生きてやるつもりさ。そうだなぁ、ディアル兄様と一緒に漁師をやるの面白いかもね」


 だけど、これは嘘だ。

 俺にはわかる。ノオンが嘘を付いているという事が。


 諦めているが、諦めてはいない。

 こいつは一人で乗り込むつもりなんだ。

 父親が殺されるならいっそ自分も、と。


 玉砕覚悟で叛逆するつもりなんだろう。


 その戦いに皆を巻き込みたくなくてこんな事を言っている。

 確実に死にに行く様なものだからこそ。


「じゃ、ここでお別れだ。宿代は払っておくから、皆好きに出て行っておくれ。忘れ物は無いように――」

「いい加減にしろノオン!」

「――ッ!?」


 そんな事、許せる訳があるか。

 自分だけでのこのこ死にに行くなど。


 だからこの時、俺はノオンの両肩を掴んでいた。

 自暴自棄となる余りに腑抜けて垂れた肩を。


 なんたって、諦めるのはまだ早いのだから。



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