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第2話 ハプニングは突然に

 過去を振り切り、揚々と旅立った訳だけど。

 今、俺は野盗に囲まれて立っていた。


 ただ街道に沿って歩いていただけなのだが。

 一体どうしてこうなったのやら。


「へへ、大人しく出す物出した方が身のためだぜ?」

「おぉっとぉ、その身も差し出してもらう事になるがなぁ」


 察するに、こいつらは人さらいの類か。


 きっと幼少期の俺もこんな感じで誘拐されたのだろうな。

 お陰で両親の記憶も無し、良い思い出が一切無いときた。

 なら同様、従った所でロクな目に遭わないに違いない。


 それに父はこう言っていた。

蛮者無般(ラオ・ウルーテ)、賊には一切情け無用。食うに困ってとは言うが、そも思考が奪う事に傾倒する者ならば生きて徳も産むも無し〟と。


 心より同意する。

 元よりこんな奴等など居なくなっても誰も困るまい。


 であれば、こいつらに大人しく従う道理は無いという訳だ。


「悪いが俺は急いでいる。お前達に構っている暇は無いんだ」


「なぁにぃ!?」


「それでも邪魔をすると言うなら、押し通させてもらう……!」


「こいつ、やる気か!?」


 敵の数は十――いや、十二か。

 林の奥にクロスボウを構えた射手が二人見えるな。

 木上より角度を取っている辺り、抜け目は無いという事か。


 おまけに傍の奴等も装備が充実している。

 剣はまるで新品同様で手入れが行き届いていて。

 リーダーと思われる男に至っては板金鎧まで纏っているという。

 今どきの野盗はそれだけ儲かるのだろうか?


 これだけの人数、装備だ。

 どう見ても旅人を捕まえる為じゃない。


 ならばさしずめ、()規模の集落を襲撃する為、か。


 となるとますます野放しにする訳にはいかないな。

 この先に進ませてしまえばあの村がどうなるかわからない。

 父の墓を守ってもらう為にも、ここは一肌脱がなければ。


 故に俺は一呼吸を深く行い、両拳を鳴らして低く構える。

 徹底抗戦だ。


 そんな戦意にようやく気付いたのか、野盗共が並びを整えていく。

 人数を生かして全周囲を囲う様にして。


「なら腕や足の一本は覚悟してもらおうかぁ!!」

「やっちまえッ!!」


 しかしどうやら身なりは伊達じゃないらしい。

 奴等もそれなりに戦い慣れている様だ。

 だからか、今の号令で三人が同時に飛び出していた。


 それも正面左右より二人、背後から一人。

 多対一で戦う際、最も効率良いとされる戦術だ。

 おまけに射手まで狙いを付けている。

 相手が並みの戦士ならこれを凌ぐのは至難の業だろう。


 だがその様な小手先など俺には通用しないがな。


 三人が同時に剣で斬り掛かってきたが問題は無い。

 まず一人目へ近寄り、攻撃を躱すついでに菱拳で側頭骨を粉砕。

 背後から二人が剣を奮うも、隙間を縫う様に飛び抜けては二人目へ足払いを。

 三人目の追撃が来るも跳ねて躱し、そのまま回し蹴りで首をへし折ってやった。


 更には短矢が飛んでくる――が、それを二指で捉えて。

 その射速のまま足元へ振り切り、矢尻で二人目の首を裂いてトドメを差す。


 これで三人同時に始末。なんて事は無い。

 父より一対多の戦術は死ぬほど仕込まれたからな。


「こいつ、強い!?」

「くッ!! 総員、主盾の陣形を取れェ!!」


 ――おいおい、こいつら本当に野盗か?

 陣形まで取るなど、随分と教養があるじゃないか。


 主盾の陣とは防御の型。

 盾を構えて固まり、近接攻撃を凌ぐ戦法だ。

 俺が格闘術の使い手と知っての判断なのだろう。


 ただ、その相手が俺となれば――無意味だな。

 

 そんな陣形を執っている間に、俺はもう空へと跳ねていた。

 青ざめた総顔を一望出来るくらいに高く。


「悪いが一網打尽にさせて貰うッ!! 【烈火波鞭(バーヴィーップ)】ッ!!」

「なあッ!?」

「ま、魔ほ――」 


 この時、俺の手から炎が迸る。

 大地を、木々を、そして肉をも瞬時に焼き尽くす灼熱の鞭が。

 それがたちまち野盗共に打ち当たり、一瞬にして消し炭と化させた。


 悪いな、俺は魔法も使えるんだ。


 こうして着地を果たして振り向く。

 すると目前には()()()躱した奴が二人。

 意外と反応速度が速いな、正直驚いたよ。


「ば、馬鹿な、格闘術に魔法だと!? これではまるであの【武聖】ウーイールーではないかあッ!?」


「当然だ。あの方は俺の師であり、その戦い方を全て仕込んでくれたのだから」


「「え"ッ!?」」


 しかし逃がすつもりは無い。

 こうして正体をバラしたのも、誰一人として生かす気が無いからだ。

 悪いが俺は聖人でもなければ慈悲深くも無いのでな。


 それに、こいつらの様な悪党は俺が最も嫌う存在なのだから。


 故に閃光が走った。

 一人の野盗の首を刎ねる程の鋭さで。


 俺が腰に備えていた剣を瞬時に奮った事によって。


「【武聖】ウーイールーは武芸百般、あらゆる武術・魔法の戦闘技術を極めたという。それもたった一代で」


「うう……!?」


「更にどこにも付かず、誰とも組まず、孤高の一人を貫いた。その力を悪用されんと想いて――貴様の様な悪党を人知れず始末する為にな……!」


「ひいッ!?」


「そしてその誇り高き志は、俺にも引き継がれた!」


 そんな剣を再び仕舞い、残った一人に歩み寄る。

 後ずさろうとも、それを追い詰めるかの様にして。


 そうだ、後悔するがいい。

 畏れ、慄き、怯えて震えるがいい。

 お前のやった、やろうとした事はそれだけ罪深いのだから。


 故に、その騎士の如き大層な鎧を纏う資格すら無しッ!!


「然らば、その行いに後悔して逝けッ!!」

「う、うわあああッ!?」


 その猛りが脳裏に過った時、俺はもう奴の懐にいた。

 右拳に闘氣功を纏わせ、渾身の力を籠めながら。


 なればこの一撃、もはや鉄をも貫こう。




「【鋼穿烈掌(ウルアーティ)】ィィィーーーッッ!!!!!」




 膝を、腰を、肩肘を捻り絞り、力を最大限に溜め込む。

 そうして極限に高められし掌底は、全てを越えて肉のみ穿つ。


 その拳技の前には、如何な防具とて意味を成しはしない。

 

 故に、拳を打たれた奴の腹部が爆ぜた。

 鎧背面の隙間からおびただしい血飛沫を吹き出しながら。

 余りの衝撃に、全圧が後方へと押し出された事によって。


「――残り、二人か」


 しかしそんな肉塊となった者に気をやる程、俺はロマンチストじゃない。

 意識はもう林の先に向いている。


 慌てて木を降りていた射手二人へと。


 仲間を置いて逃げるか。

 まぁ逃がすつもりなどさらさら無いがな。

 仮に仲間を呼ばれれば後が面倒なだけだ。


 だから今、俺は二人へと両手二指を伸ばしていた。

 見なくてもわかるくらいに雑気だらけだから狙うのは簡単だ。


「「【光閃射(ディアロー)】」」


 空かさず交響詠唱(ハーモラルキャスト)で光弾を二つ同時に撃ち出す。


 放たれた光弾はそれぞれ真っ直ぐ二つの目標(ターゲット)

 その狙い通りに、射線上の幹さえ貫き突き抜けた。


 ――そして気配、消失。


 狙撃も俺の範疇なんでな。

 悪いが容赦無く心臓を射貫かせてもらったよ。


 という訳で返り討ち完了。

 父に鍛えられた力はしっかり通用する様だ。

 なにせ世俗に出た事が無いからちょっと不安だったんだよな。


 ……とはいえ少しやり過ぎたか。

 

 気付けば周りは血と焦げの臭いで立ち込めていて。

 街道もグチャグチャ、道だったとは思えないくらいの有様に。

 改めて見ると、暴れ過ぎた感は否めない。


 もしかしたら村での洗礼で少し昂っていたのかな。


 だとすれば奴等は丁度いいストレス発散先だったのかもしれない。

 今の俺に出会ってしまった不幸をあの世で嘆いてくれ。


 さて――では早速、貰う物を貰うとするか。


 父はこうも言っていたからな。

叛者無平(ヤラ・クデーヴォ)。奪う者は賊と言ったが、相手がその賊なら話は別だ。仕留めた後に奪っても一向に構わん。叶うならば元の持ち主に返してやれ〟と。


 どうせこの後、街へ行く。

 なら回収物を憲兵辺りに届ければ、持ち主か遺族の下へ送られるだろう。

 その為ならば運ぶのに多少重くとも苦ではないさ。


 もちろん、行き先不透明な貨幣は拝借させてもらうがな。


 最初は幸先悪いとは思ったものだけれど。

 今考えると、こいつらと遭遇したのは幸運な事だったのかもしれない。


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