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第19話 兄貴、登・場

 紫空界は他と比べて海の面積が大きい。

 実は総水域に関しては水自慢の青空界よりも広いのだ。


 なので水産物が非常によく獲れる。

 漁業都市という存在が生まれるくらいに。


 ちなみに紫に輝くのはこの海のお陰。

 深く青い水と栄養満点の赤珪土がその色合いを生んでいるから。

 おまけに大地には一杯の栴檀(せんだん)の樹が立ち、紫の花を咲かせる。

 そのお陰で、開花シーズンにはより一層輝きが濃くなるという。

 

 なお、大陸の端から落ちる海水は浮陸底部を伝っては地面に還って。

 弾かれた水滴も一滴残らず【空の底】に弾かれて戻る。

 それで海は未だ枯れる事も無く生き物を育んでいるという訳だ。

 不思議だけど、そういう風になっているんだよ。


 で、俺達は今その海の前にいる。

 幾つもの漁業船が浮かぶ港にな。


「なんだ、さっきの料理じゃ飽き足らず、今度は自分で釣ろうとでも言うのか?」


「失礼な、ボクはプロが釣った魚しか食べないんだ。昔、自分で釣った魚を持ち帰って食べたらお腹を壊した事があってね」


「意外にワイルドだな。せめて(わた)抜きくらい覚えてからチャレンジしろよ」


 ここに来た目的はまだ教えられていない。

 相変わらず、また段取り説明を省略されたままでな。


 もしかして、今までも説明するのが単に面倒だっただけなんじゃないか?

 バレるのが困るとか、只のこじつけなだけで。

 そう思うと何だか過大評価してた気になってきたんだが。


「お、いたいた。兄様ー!」


 するとそんな時、ノオンがこんな叫びと共に手を振っていて。

 その声に気付いたのか、景色の先にいた男が大手を振り返した。


 それで近づいて来たと思えば――


「帰っていたのかノオン、久しぶりだなあっ!」


 これはまたゴッツい御方ですこと。

 まさしく海の男と言わんばかりに。


 青い短髪に無骨な顎と髭はまさしく男の中の男。

 全身筋肉かと思えるほどガッシリとした体はなんと羨ましい事か。

 それでいて流れる汗が更に逞しさを映えさせてくれる。


 そしてノオンとはとてもじゃないが全く似ていない。

 強いて言うなら歯見せスマイルだけはとてもそっくりだ。

 でも筋肉が引き締まったお陰で、こっちは凄く様になっている。


「紹介するよ。この人がボクの兄で、ドゥキエル家の三男の――」


「ディアルだ! よろしくなッ!! ハッハー!」


 うん、ノオンの兄弟だな。

 このテンションは間違いない。


 だからって二人並んでのサムズアップスマイルはよすんだ。

 歯が無駄に眩しいぞ。


「彼等はボクの仲間さ! 個々の紹介は後でするね!」


「オッケェーイ!」


「それでね兄様、いきなりで悪いんだけど相談があるのさ! ちょっと時間を都合してくれないかい?」


「ノオンの頼みとあれば断れまい! 今から親方に相談してくる! おーい、親方ーこっちへ来てくれ!」


「しに行くんじゃないのかよ!」


 思考に関しては何から何までノオンとそっくりだな。

 なんだ一家揃ってこうなのか、そのドゥキエル家っていうのは。

 二人分ともなるとツッコミが追い付かんぞ。

 

「どうしたぁディアル?」


「ノオンが帰って来たんですわ。久々の再会なんでちょっと今日は早上がりしやす」


「おぉ、そいつぁめでてぇ。わかったぁ後は任せときなぁ」


 しかしどうやら、そんな思考を持つのはノオン達だけだったらしい。

 親方と呼ばれた男は至ってまともだ。


 ちなみに、親方さんの様相はまさに親方って感じ。

 スキンヘッドに角張った顎、それとディアル以上のごっつい筋肉で。

 年季をひしひしと感じさせる日焼け肌もなかなかに逞しい。

 人当たりも良さそうなのでとても安心感があるな。


 よかったよ。

 紫空界がハイテンションな奴だらけだったらどうしようかと思っていたからさ。


「よし、サボる口実が出来た! ちょっと帰る準備してくる!」


「それ親方の前で言う事か?」


「ノオンと皆さん、待たせるのも何なのでそこの宿で待っていてくれ! 折角だから利用するといいぞ! そうしたら後で俺が産業組合割引を適用しておこう!」


 まぁ言うて、このディアルという人も悪い人物ではなさそうだ。

 テンションが無駄に高いだけで中身もノオンと同類だからな。


 それに割引はとても助かる。

 なにせもう泊まるのにもギリギリな残金しかないので。

 今日は野宿かな、なんて思ってたし。


 そんな訳で早速、港の前にある宿へと足を運ぶ。


 どうやらここは漁業関係者がよく利用する場所らしい。

 なので玄関間(ロビー)は今も海の男だらけだ。

 見渡す限り筋肉だらけで、とても壮大な景色だよ。


 いざ鼻をスンと鳴らすと、料理の芳しい香りも漂ってきた。

 どうやら彼等の食事場も兼ねているのだろう。

 ならいっそここで飯も食べればよかったな。


 それでひとまずディアルの厚意に甘え、部屋を取る事に。

 そうして手続きを行っていたら早速と当人が現れた。


「部屋を取ったかい? では早速その部屋で話をするとしよう!」


 おや、ディアルの家かどこかで話すんじゃないのか。

 ここだと余計な奴に聴かれてしまいそうなものなのだが。


「安心したまえ、ここは産業組合の領域だからね! 知った顔しか来ないのさ!」


 ――と、考えを読まれたか。

 なるほど、そこまで込みでこの場所を選んだんだな。

 まさか策士な所もそっくりとは。


 というより、そのドゥキエル家っていうのが教養ある一族なのか?

 そもそも由緒ある家じゃないと名乗らないよな。


 となると――まさかな。

 だって兄が漁師だし。


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