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第16話 その輝き、如何なモノにも止められない

 俺の秘術【輝操術】が側近達の腕を昇華()えた。

 死の激痛をもたらすアヒルの脚へと。


 そうして間も無く、全員が泡を吹いて動きを止める事に。

 相変わらずエグい力だ。

 俺自身もこれは怖くてなかなか使えないんだよな。


 制御するまで何が起こるかわからないから。


 けど、小さい頃から父と共に制御の仕方を手探りで学んだ。

 術式も閃きで生み出し、理論を構築して頭に叩き込んだ。


 お陰で今は全てではないが基本的な事は操れる。

 もっとも、全てを把握なんてとても出来るとは思えないけれど。


 なにせ、この力はまさに『なんでも出来る力』だからな。


 文字通り何でも出来る。

 俺の想像力次第で好きにな。

 ただまだ俺自身の頭が固いからこんな事しか出来ないだけに過ぎない。


 しかしいつかこの力を極めたい。

 秘められた謎を調べ、解明してみたい。

 そしてこの力が何故俺に備わったのか、そのルーツを確かめたい。


 その為に俺は旅立つ事にしたんだ。

 それが父の願いでもあったから。


 その邪魔をするなら、誰も容赦はしない。

 力そのものを使ってでも排除してやろう。


 それはお前もだ、賊の親玉よ……!


「アークル、だとぉ……!? そんなもの、只の変幻術ではないかッ!! この奇術師風情がッ!!」


「何とでも言うがいいさ。どうせ俺以外にこの力の意味を理解出来る奴はいない」


「ちぃ!!」


 でもどうやら奴はまだやる気らしい。

 満を持して剣を抜き、俺に戦意を見せつける。


 重厚な剣だと思ったが、その造りもかなりのものだな。

 普通の剣とは違う凄みを感じる。


 これは油断してはいけなさそうだ。


「……だがぁ!!」


「ッ!?」


「その力も所詮、光に触れなければ問題無いという事であろう?」


 やはりな、見抜かれてる。

 少し喋り過ぎたか、俺も迂闊だったな。


 確かに、【輝操転現】は光に触れないと発動しない。

 その距離(リーチ)はおおよそ〇.五ヤーム(メートル)ほど。

 剣よりもずっと短く、それでいて自在に動かせる訳じゃない。


 収束すれば拳にも宿せるが、当てるには高度な集中力が必要となる。


 けれど条件は奴だって同じだ。

 あの重厚な剣を当てるには近づかなければならない。

 なら懐に飛び込む事も不可能では無いだろう。


「そして今! 貴様は〝私も近づかなければならないから同じ〟とでも思っていただろぅ?」


「えっ……!?」


「そうじゃあないんだなぁ~! 甘いんだよなぁ~!!」


 ――違う、のか?

 どういう事だ?


 奴には剣以外の武器は見えない。

 飛び道具も持っている風には見えないし、魔法を使えるとも思えない。


 だとすれば――剣に何か秘密があるのか!?


「……我が名は【中央皇国マルディオン】第二近衛騎士団団長、ツァイネル=バ=ヴォンファティ! そして我が剣は陛下の為に!」


「何を言って――」


「みよこの輝きを! 最上位騎士にのみ与えられるこの剣こそ、かの伝説を生みし六聖剣が一つゥ!!」


「なにいッ!?」


 なんて事だ、当たりか!

 しかも六聖剣の内の一本だと!?

 あの【業魔】を討ち倒した伝説の武器!

 

 その一振りをこのツァイネルという男が持っていた!


「貴様のなまくら刀とは訳が違うぞ、なぜならコイツはァ~!!」


「まずいッ!!」


 そしてその一振りが空を裂いた時、それは起きた。




 背後の壁が、切れたのだ。

 俺が横へ飛び躱した直後、縦に深々と。




「くッ!? これが聖剣の威力か!?」


「そうだともォ!! 隠し種を持っていたのは貴様だけでは無いのだよッ!!」


 何が起きたのかはわからない。

 ただ凄まじい力が放たれたのだけはわかる。

 風が、突風が直後に吹き荒れたから。


 すなわち物理的な何かが起きている!


 しかしその正体がわからない今、迂闊には近づけない。

 それをわかっているのか、ツァイネルも調子に乗るばかりで。


「ふははは! そらそら、逃げぬと真っ二つぞォ!!」


 斬撃が振られる度に壁に裂け目が刻まれる。

 俺が逃げ駆け回る後を追う様にして。


 幸い斬撃からのラグがあるから躱す事は出来る。

 でもこれを避け続ければ消耗は免れないぞ。


 とはいえ、お陰でこの攻撃の正体は何となく掴めた。


 斬撃の衝撃波だ。

 奴は聖剣で斬撃を飛ばしているんだ。


 しかも離れれば離れる程、その規模は大きくなる。

 だから斬撃は小さいが、斬痕は天井に届きそうな程に大きいんだ。


 けれど、この戦い方は騎士のそれとは思えない。

 恐らく騎士道だとかそういうのはお構いなしなんだ。


 つまり奴にそういった誇りは――無い!


「辛いかァ!? 苦しいかァ!? なら近づいて来いよ! そのアークルとかいう奇術を使えるものならなぁ!!」

 

 いや、そんな事なんて最初からわかっていたんだ。

 街の人をさらって、物の様に扱っていた時点で。

 名前を名乗った時は「あぁコイツはやっぱり騎士なのかな」なんて思ったけど。


 ならもう騎士道精神に則る必要も無いよな。


 俺も曲りなりに戦士だから、一対一となった時は少し心が躍ったんだが。

 聖剣とやりあうとなった時、恐れと同時に喜びもが沸き上がったんだが。


「出来ないならァ!! 大人しく剣の錆となれェい!!」


 興覚めだよ。

 お前はもう何の価値も無い。


 なら大人しく、消えてくれ。


「【輝操(アークル)復解(ドゥーン)】!」

「ッ!?」


 俺の呼び声に応え、腰の剣が輝いた。

 するとたちまち剣そのものが光の塊へと代わり、俺の周囲を回り始めて。


 そうして分かれ、五つの輝きへと変化する。


「悪いが、俺は常々幾つかこうして【輝操術】を忍ばせているんだ。だから、こういう事だって出来る」


 その輝きは遂には右腕に集まり、指先にて五芒紋様を描き始めた。

 それもツァイネルへと向けられたままに。


「【輝操(アークル)閃駆(シャウティ)】!」


 なれば後は放たれるのみ。

 俺の意思のままに。


 五つの輝きがそれぞれの弧を描いて、ツァイネルへと向けて空を穿とう。


「うおおおーーーッ!?」


 剣で防ごうとしても無駄だ。

 その力はお前に向けた時点で、全てを通り抜けて突き刺さる。


 それが例え聖剣であろうと一切関係無い!


 やはり俺の思った通りだった。

 聖剣も所詮は現存カテゴリ内の物だから。

 その全てを無視する【輝操術】を前には鉄の棒となんら変わらない。


 故に五つの光がツァイネルの体の中へ。


「おおお――お?」


 とはいえ、ツァイネル自体にダメージは無い。

 光が入り込んだだけで、傷一つ付かず。


 これには当人も困惑を隠せないらしい。


「な、なんだ。大した事無いではないか」


「そりゃな。お前に撃ち込んだのは只の()だから」


「……種?」


 まぁそれは俺の知る所でもある。

 今のは攻撃でも何でもないのだから。


 ただ奴に【輝操術】で変えていた物を光にして打ち込んだに過ぎない。


 光は物質じゃないからな。

 肉体も通り抜けるし、なんなら留める事だって意思次第で自由に出来る。


「ネタばらしすると、さっきのお前がボロクソに言ってた剣な、あれはただの樹だよ」


「えっ……?」


「俺が【輝操術】でそこらの樹を剣に昇華えただけだ。で、それが今お前の中にある。それがどういう意味か、わかるか?」


「ま、まさかぁ……ッ!?」


 なら後は元に戻せばいい。

 もちろんそれも【輝操術】の一環だから、普通には戻らないけどな。


 なにせ今、光はツァイネルの身体全体に広がっているんだから。


「や、やめッ――」

「【輝操(アークル)転現(ライズ)】……!」


 となればもう後は想像にも容易いよな。

 出来上がった【輝操術】には制御術式も必要無いから。


 後はもう一瞬で、それは出来上がる。




 この時、ツァイネルはもう人ではなかった。

 遺跡の中心を貫き聳える一本の樹となっていたのだから。




「あ、かケ……」


 ただし頭だけはしっかり残している。

 証拠は残したいし、苦しみはしっかり与えたいし。

 まるごと樹になったら苦痛も味わえないから。


 でも、当然の報いだ。

 今までに何百、下手したら何千という人間が犠牲になったのだから。


 それらの人達の苦しみと比べたらまだまだ軽い方だろうさ。


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