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エピローグ 新世界へ続く足音は多に軽やかに

 この世界はとても美しい。

 今見える景色も、繋がり合おうとしている人の心も。


 その世界はもう虹色に輝かなくなったけれど。


 というのも世界の理が塗り替わり、形そのものが変わったから。

 内丸かった世界がひっくり返り、地の球の様になった事で。

 更には別世界もが個々の球となり、虚空の空間に無数と浮かんでいて。

 それが気付けば〝星〟という俗称となって空を飾っている。


 これは新世界を創る前の前準備。

 少しでも今の世界を過ごしやすくする為のね。

 いつまでも滅びと背中合わせなんて気が気じゃないだろうからさ。


 そんな世界の再構築を済ませた俺は今、新しい虹空界を歩いている。

 あの三ヶ月の冒険を振り返る様に。

 その道中で人々の様子を眺めながら。


 突然に世界が変わったものだから、当初は皆とても驚いていたものだ。

 途端に地続きへと戻って、環境もだいぶ変わったから。

 ただ、それでもすぐに適応していたから大したものだと感心したよ。

 ほんのちょっぴり常識も改変したからだろうか、違和感も否めないけれど。


 そうやって各地の様子を眺めてきた。

 でも仲間達の所には行かないようにして。

 またうっかり会いでもしたら心残りになってしまいそうだからな。


 で、今は青空界。

 それも商業都市アンカルーストを通り過ぎ、故郷だった村も眺めてきた所で。


 後は父の墓へと訪れるだけで終わりだ。

 それが済み次第、新世界へと渡ろうと思っている。


「おや、こんな所で子どもが遊んでいるとは……」


 それでようやくあの丘へとやって来たのだが。

 村の子どもが三人ほど、父の墓の傍で戯れていて。


「オイオイ、近くは崖だぞ。危ないなぁ」


 そんな子ども達から大きく逸れて歩む。

 彼等には俺の姿が見えないからな、うっかりぶつかって転んだら大変だ。

 俺もまだ一応はこの世界の住人だから、存在だけはしているんでね。


 そうしてキャッキャと走り回る子どもを他所に、両手を組んで墓を拝む。

 かつてここで交わした約束を完遂する為にと。


「父よ、約束通り使命を果たして帰ってきました。貴方はもう俺を認識する事が出来ないでしょうが……」


 俺の存在意義を探すという父からの願い。

 その目的を達した今、墓に誓った通りに戻って来た。

 例え魂などの概念よりも更に上位となろうとも、これだけは成したかったんだ。


 それが俺の唯一の心残りだったから。


「それでもこうして誓いを果たせた事を誇りに思います。お陰で新世界でも上手くやっていける、そんな気がする程に。そう思える俺に育ててくれた父よ、改めて感謝します……!」


 けどそれももうこれで終わりだ。

 新世界に渡る事への覚悟も決めて、今ようやく準備も整った。


「……さて、それじゃあ旅立つとするか!」


 だからと両拳を打ち当て気合を籠める。

 好奇心のままに笑みを浮かべながら。


 幾ら俺が創るとはいえ、どんな世界になるかはわからないからな。

 だからこそ楽しみでもあるんだ。

 一人で寂しいのが玉に瑕だけれども。


 それで思い切って(ジクス)を刻んだのだが。


「まってー!」

「わぁー!」

「うおっと!?」


 途端に走り回る子ども達に邪魔される事に。

 それどころかとんでもない所にまで遭遇だ。


 おぉい……やめたまえよ、そこに乗るのだけは。

 君が今乗って遊んでいるのは最強の男の墓なんだぞ?

 しかもそう自慢げに誇ってるとバチがあたりかねんぞー。


「そういえばねーさっき、旅人さんに仲良くなるおまじない教えてもらった!」

「なになにーどんなのー?」


 挙句、そこで話まで始めちゃってまぁ……。

 子どものやる事だから仕方ないけどな。


 ま、折角だし、少しだけ眺めて――

 

「こうやるんだって! ()()()()()()()ー!」

「ッ!!?」


 ――なッ!?

 輝操転現だと!?

 馬鹿な!! そんなハズは!!


 輝操術は俺だけにしか使えない力だ。

 つまり俺が消えれば輝操術の概念そのものも消えてなくなる。

 なのに何故この言葉が知れ渡っているというんだ!?


 ――ウッ、ま、まさか……ッ!?


「やっと気付いたのかい?」

「ホントだよねぇ、鈍い所は相変わらずだ」

「えっ……!?」


 すると、そう驚いていた俺の背後から突如、声がした。

 それも一人二人ではなく。


「でもそれがアークィンのいいーとこー」

「だからって今更はちょっと遅いかなー」

「さすがにオイラだってここまで鈍くはねぇよぉ?」

「そんな、まさかそんな……!」


 故に振り返らずにはいられなかったんだ。

 本来なら有り得るはずも無い者達の声だったから。


 もう二度と会えないハズだった仲間達だったから。


「なんで皆がここにいるんだッ!? なぜ俺がわかるッ!?」


 だからついこう叫んでいた。

 子ども達が傍にいようとも関係無く。


 ここにいるハズも無いノオン達へと向けて。


「全く、君はそうやって自分の事になると途端に視野が狭くなるんだ。輝操術が理を裂ける力なら、見えなくなる事さえ裂いてしまえばいいのに」

「あ……そうか」


 そして挙句、俺がこうして論破されるハメに。

 そんな目から鱗な話を前に、つい手まで打っていて。


「――ってそうじゃない! どうして皆が俺を認識出来るんだよ!」

「クシシ、それは簡単なことさぁ。私らもアークィンと一緒になったって事なのさ」

「そう! 黄空界で越醒転現(フルアライズ)した時、ボク達は一つになった! その時なんと奇跡が起きたのさ! 君の神の力がコピーされるという奇跡がね!」

「なんだとおッ!? まさか、そんなバカなあッ!?」


 更には続いた言葉に驚愕さえ呼び込む事となる。


 そう、あれは業魔との戦いの時。

 合体して戦った後、しっかりと元通りになったと思っていたのだけれど。

 実は肝心な所が変わっていた事に気付いていなかったんだ。


 皆、俺の――神の因子を受け継いでいたって事に。


「ハッハー! だから実はボク達ももう輝操術が使えるのさ!」

「はいぃ!?」

「フフン、つまりこれで君の専売特許ではなくなったって事だねぇ」

「ちゅ、ちゅぎぃってしていいか……?」

「「「是非とも!」」」


 ……でも正直、安心した俺がここにいる。

 まさかそんな奇跡が起きていたなんて思ってもみなかったけれど。

 それでもこうして皆と会えたから。


「ま、そんな訳だからボク達も共に行こう。君と違ってしっかり別れも告げて来たから安心したまえ」

「一人でなんてもう言わせないよぉ? こうなった以上、一蓮托生なんだからさぁ」

「銀麗騎志団は不滅だよーっ!」

「あぁ、あぁ……!」

 

 たったそれだけで俺に恐れる事はもう何も無い。

 虚勢を張る事なんてもう必要無いんだ。


 だからこそ、真に心から望んでこう言える。


「皆ありがとう。そして俺と共に行こう、新世界へ……!」

「「「オッケェーイ↑!」」」


 その道は決して楽ではないかもしれない。

 もしかしたらまた苦難が訪れるかもしれない。


 けどもう俺達は離れる事なんて無いだろう。

 輝操術という繋がりが出来たからこそ、揃って全てに(ジクス)を刻めるから。


 その先に、輝きよりも眩い可能性が待ち続ける限り。




「「「輝操(アークル)転現(ライズ)!」」」




 だから俺達は進もう。

 この志が導く、輝かしい明日へと。






輝操士は儚き虹色世界に(ジクス)を刻む 完


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