終話 そして世界は。
俺が陽珠へと辿り着いたのはきっと宿命だったのだろう。
新たな世界を構築し、連結世界を保たせる為に。
そうしなければいずれ、全ての連なる世界もが滅ぶ事になるから。
その為に俺は、輝操術と共に生まれたのだと。
そう悟った時、途端に腑が落ちた気がした。
否定する気も、調子に乗ろうという気も起こる事無く。
ただ「ああ、そうだったのか」と受け入れ、心が落ち着いていて。
そのお陰で自然と、この後なにをすべきかも考える事が出来たよ。
「オイオイ、すげーなアークィン。お前神だったのかよ!?」
「どうやらそうらしい。ただ、この世界においてヒトである事に変わりは無いけどな」
「こういう所で謙遜するのがアークィンらしいねー!」
「謙遜っていうよりー事実なのかーもー」
恐らくこの事実はフィーも知らされていないのだろう。
神や知恵ある古代人など、自ら答えを導き出せる者しか知らないんだ。
けど人の形や成り立ちで見ない皆だから、今なおこうして自然体で。
そんな彼女達に、俺はまた感謝を思わずにはいられない。
「にしても、ボク達もナーリヤって呼んで良かったのかい?」
「あぁもちろんだとも。わらわはあくまでこの陽珠を一時的に守っていたに過ぎないのじゃ。新世界の種子が訪れるまで、と神より預かってのう。その役目が終わった今、何を気取る必要があろうか」
「とか言いつつ、ずっと男を誘う様な仕草をしていたじゃないかぁ」
「ははっ、違いない! 男に飢えていたというのもあるが、すまんのぅ性分でなぁ」
それはナーリヤに対しても。
彼女もまた使命から解き放たれ、ようやく〝陽珠の君〟である必要がなくなった。
だからと途端にフレンドリーに接せられるのは、皆だからこそなのだろうさ。
普通の奴ならそれでも畏まりそうだからな。
きっとそんな彼女達に出会えたから、俺はここへと辿り着けたんだ。
皆がいたから、諦めずに進む事が出来たのだと。
そういう意味では間違いなく、皆は英雄で、救世主なのだろう。
そして送り届けられた俺は新たな世界を構築しよう。
皆が救った世界をこれからも続かせる為に。
もう二度と今の様な絶望へと陥れない様に。
それが俺の次の使命なのならば。
「……どうやら己の使命に向き合えた様じゃな」
「あぁ、すべて理解する事が出来た。言われて初めて気付けるなんて、随分と不親切な仕組みだとは思うがな」
「そうか。ならこれから起きうる事もまた気付いておろう?」
「無論だ。その上で俺は決めたよ。新しい世界を創るってさ」
その意志に気付き、ナーリヤが俺に頷く。
きっと彼女もまたこれから何が起きるか察しているのだろう。
世界を創る事、その末の代償を。
「アークィン、なぜそこまでの決意が必要なんだい? 新たな世界を創るのはわかるけれど、お得意の輝操術でピカッとやるだけなのでは?」
「そういう訳にもいかないんだ。新世界を創る為には理を拓かなければいけないから。この世界を越えて、概念も越えて。だとすれば今のままではいられないんだ」
「えっ……」
すると、そう説明していた俺とノオンの間をナーリヤの腕が遮る。
それもノオンへと向けて首を横へと振りながら。
「世界の神とは本来、人の概念を越えた存在。すなわち普通の者には見えぬ存在なのじゃ。それもこの虹空界と別世界の者となれば尚の事な」
「そ、それって……!?」
「すなわち新世界を創造した時、アークィンはその世界の神となり、誰にも認識されない超常の存在となるであろう。それも記憶さえ超えて。これはどの様な事があっても免れない事じゃ」
「そ、そんな……ッ!!」
そうして語られたのは紛れもない事実だ。
俺自身もまたそうなる事を直感していたから。
新世界を創造したら最期、もうノオン達とは会えなくなるだろうと。
でも俺はもう決めたし、後悔はしない。
だって、心からそうしたいって思っているから。
ニペルの様な存在をこれからも生まなくていい様に。
アルケティの抱いた悲しみを後世に残さない為に。
そしてここまでに出会った多くの善人達の、これからの為にも。
「待ってくれ! だったら今すぐ始める必要も無いだろうッ!?」
「そうさ! それになんでまた一人で決めようとするんだいッ!!」
「それじゃテッシャとの約束はどうなっちゃうんだよーっ!!」
「あちしまだアークィン達と一緒にいたーい!」
「まだ俺だって借りを返しきれてねーよッ!!」
「皆……すまない」
この三ヶ月間、短い様でとても長く感じられたよ。
今でもはっきりと思い出せるくらいに濃厚だったから。
青空界で呼び止められて、呆れるくらいに振り回されてさ。
紫空界ではディアル達と歴壁を突破して、皇帝も救って。
赤空界ではココウと出会い、空を舞う感動に心震えたものだ。
緑空界だと辛かったな、ミラリア達の死を防げなかったから。
白空界においてはニペルと出会って、自然の厳しさも知って。
黄空界に来てアルケティからその志を受け取った。
悪い事も多かったが、実りになる事も沢山あったんだ。
それら全てが今日の為だと思うのなら納得出来るくらいに。
その思い出全てが決意の源だから。
「それでも俺は行くよ。自分勝手だってわかってはいるけど、これだけは止められないんだ。じゃなければ、皆の未来を奪う事になってしまうから」
「アークィン……」
「でもさ、これは別れだけど、消滅じゃあない。皆は俺の事を忘れてしまうけれど、確かに俺も皆も居続けるからさ。だからこれだけは言わせてくれよ」
だから俺は、新しい場所でもずっと居続けるよ。
例え皆が忘れても、忘れなかった頃の想いを抱いたままに。
それが俺の出来る唯一の感謝の気持ちだから。
「今まで一緒に冒険してくれてありがとう。こうして成し遂げられたのは皆のお陰だ」
そう伝え、足を一歩二歩と引かせる。
身を挺して遮るナーリヤに頷き、皆に微笑みを返しながら。
ノオン達がそれでも止めようと駆け寄るも、もう無駄だった。
見えない壁が遮り、その行く手を阻んだから。
ナーリヤが俺の気持ちを汲んで張ってくれたのだろう。
「「「アークィーーーンッ!!!」」」
「これで良かったのか? 皆と戯れる時間くらいはあろうに」
「いいんだ。この時を逃したらきっと躊躇するから。これくらいに強引なくらいが優柔不断な俺には丁度いいんだ」
「フフッ、優柔不断は神の特権よ。選択肢を人に決めさせねばならんからのぉ」
「……フッ、心得ておくよ」
これで心置きなく旅立てる。
皆には少し悪い事をしたかもしれないけれど。
それでもきっと心ではわかってくれていると信じている。
今こうして流してくれている涙もまた本物だってわかるから。
「それじゃあ皆、元気でな」
その強い想いが確かめられただけで――俺はもう、満足だ。
だからその想いのままに力を奮うとしよう。
この儚き虹色世界を蝕む不幸の理へ、Xを刻む為に。
「輝操・転現――」