第133話 空を舞う鳥の様に
パパム達の乗った巨大機空船は光となって世界から消えた。
ニペルの存在を世界へと伝える心の歌として。
光に当たった時、パパムとジェオスの気配を確かに感じ取れたからな。
だから奴等は間違いなく、欠片もこの世に残っていないだろうさ。
とすれば、後は残る障害を退けて陽珠へと辿り着くだけだ。
「奴等、どうやらこれで終わりじゃないみたいだぜ……!」
「全く、しつこいったらありゃしないねぇ!」
そう、俺達を追う相手はパパム達だけじゃなかったんだ。
他にも二機、同型の巨大機空船が遅れてやってきていて。
一つは緑色の装甲。
つまり緑空界の援軍と言った所か。
奴等にとって俺達はお尋ね者だからな、大義名分は通っているだろうさ。
ただもう一つはといえば、青色の装甲。
そう、青空界の援軍までもが追って来ていたんだ。
恐らくエルナーシェ姫繋がりで黄空界と縁があるからだろうな。
だが筋違いにも程がある。
確かに青空界の王族は堕落していると聞いたが、まさかここまでとは。
姫を失ってもなお大義が見えないときたか。
それでも紫空界や赤空界の機体が見えないのは幸いだな。
どちらも芯はしっかりしてるからな、恐らくパパムの要求を突っぱねたのだろうさ。
その点は志に従って戦って良かったとさえ思えるよ。
しかし、それにしても一機でも大変なのに二機とは。
このままじゃさっきの状況の二の舞だ。
さすがにあれだけの輝操術を連発するのはキツイ。
おまけにどうやら、状況はもっと悪くなったらしい。
「ちくしょう! さっきの砲撃でサブタンクがやられたみてぇだ! このままじゃ燃料が足りずに陽珠まで辿り付けねぇー!」
「「な、なんだってぇ!?」」
徐々に砲撃音が聴こえ始める中、クアリオが最悪の事態を宣言する。
銀麗号が悲鳴を上げ始めたというのだ。
それも当然か。
頑丈が売りの高速船とはいえ、砲撃に耐えうる程じゃない。
それに旧世代のモデルを踏襲しているからこそ実用的じゃないんだ。
おまけに言えば無茶な改造を繰り返したから色んな所で不備が出ている。
故に、このままでは墜落は免れそうもない。
「そんな、ここまで折角やってきたっていうのに……」
「ここで終わるなんて嫌だよーっ!」
どうしようもない事態なのは皆わかっているだろう。
けど、それでも理不尽さを訴えずにはいられなかった。
じゃないと、ここまで頑張って来た事を否定された気がしてならなかったから。
たちまち無力感が漂う。
抗う術が何も見つからなくて。
どうしようもないとわかってしまって。
もう声さえ上げられなくなるくらいに。
――けどな、それは間違っているんだよ。
「……皆、諦めるのはまだ早い。俺達にはまだやれる事があるんだから」
「「「えっ?」」」
「実はな、さっきの輝きとは別にもう一つだけ閃いた事があったんだ。こういう時の事を考えてさ」
俺達は今まで不可能を可能にしてきた。
様々な障害も乗り越え、強引に意志を貫き通して。
それが輝操術のお陰かと言えば誇らしいが、それもちょっと違うのさ。
その力を閃かせたのは他でもない、皆の志なんだから。
だから俺は今、仲間の一人の志を生かそうと思う。
遥か空へと飛び立ちたくて翼を奮った彼女の様に。
「俺の事を信じて欲しい。そしてさっきと同様に力を信じてくれ。そうすれば、必ず力は応えてくれるハズだ!」
「……わかった! いつでもやってくれたまえ!」
「よし行くぞ、輝操転現――」
その願いを輝きに秘め、力を発現させる。
例え砲撃に晒されようとも恐れる事無く。
その所為で機体が弾け、砕けようとも。
俺達は今、自らの翼でその空へと羽ばたこう。
これが【輝操・翼抱】。
その背に大鳥の如き翼を備える力だ。
その翼を以って、俺達は自分達の意志で空を飛んでいた。
誰一人欠ける事無く、直撃寸前で飛び出した事によって。
ただその代わり、俺達の家は目下で爆発四散していて。
そんな無惨な様子を眺める事しか出来なかった。
悲しみと、感謝を胸に秘めて。
ありがとう銀麗号。
お陰で俺達はここまで来れたんだ。
だから、お前の事はもう絶対に忘れないよ。
「行くぞ皆! ここまで繋いでもらった以上、もう辿り着く以外に道は無いッ!!」
「「「オッケェーイ↑!」」」
そんな犠牲が俺達の心をまた強くさせてくれた。
まだ離れている陽珠へも簡単に辿り着ける、そう思わせる程に。
しかし追っ手は俺達に気付いている様だ。
なお速度を上げ、しっかりと上昇してきている。
おまけに砲撃も付け加えてな。
陽珠が近いのにここまでやるかよ。
もはやなりふり構わずか……!
その猛追は激しく、間も無く俺達へと爆風が届き始める。
素早く動く事が出来るから回避は容易だが、いかんせん速度が足りない。
やはり機械的な動力には翼じゃ勝てないんだ。
クッ、これでもダメなのか。
俺達には陽珠へ赴く権利さえ与えられないのか。
そんな想いが腕を伸ばさせる。
近いようで遠い、そんな遥か先の輝きへと向けて。
まるで〝この願いを聞き届けてくれと〟訴えんばかりに。
するとその時、突如として陽珠が強く光り輝いた。
今までよりも強く激しく、視界全てを真っ白へと塗り潰す程に。
それでも俺達にとっては優しい輝きだった。
まるで心の底から暖かくなる様な。
それでいて〝もう安心だ〟と囁かれたかの様に。
そんな輝きが間も無く収まり、再び青い空が取り戻される。
それでふと目下を覗いてみると、驚きの光景が目の前に。
二機の機空船が――共に融解していたんだ。
超高熱で焼け爛れたかの如く。
更には爆砕し、火を噴いていて。
とうとう墜落し、遥か彼方で大爆発を起こすという。
俺達にこれ以上無いまでの上昇気流をもたらして。
「陽珠が、助けてくれた……?」
「わからん。だがその真意はやった当人に訊くのが手っ取り早いだろう」
「そだーね。陽珠いこー!」
お陰で俺達の上昇が捗った。
あっという間に陽珠の傍へと辿り着けるくらいに。
これも采配の一つというのならありがたいものだ。
しかし手放しで喜ぶ訳にもいかない。
なにせ相手はあのエルナーシェ姫を死に貶めた相手だからな。
例え神の如き相手だろうと、俺達は今まで通りに接するだけだ。
全ての真実を明らかにする為にな。
こうして俺達は水晶の足場へと降り立った。
相も変わらず眩い輝きを放つ陽珠の懐へと。
さて、果たして一体どんな奴が待ち受けているのやら。
せめて話のわかる相手なら嬉しいんだがな。