表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/147

第132話 世界へ届く心の歌

 陽珠へと向かっていた俺達に巨大機空船が迫る。

 それも巨体に見合わない程の速度で。

 大きいから鈍重という訳にはいかないらしい。


 その速さはと言えば、銀麗号でさえ振り切れない程。

 それどころか徐々に距離を詰めてきている。

 このままでは射程圏内へと入るのも時間の問題だろう。


「クアリオ! ブースターで振りきれないの!?」

「無理だ! 陽珠までの距離がわからねー上に燃料も足りるか怪しい! そこでブースターなんて使っちまったら辿り着く前に落ちちまいかねねぇ!」

「不味いネェ、これじゃ只の動く的じゃあないかい……」


 おまけに銀麗号にはこれ以上の要求が叶わないときた。

 となれば俺達の命運はクアリオの腕次第という訳で。


 ただ、その自信さえも間も無く揺らぐ事となる。

 とうとう砲撃が行われ、周囲に爆発が起き始めたのだ。


 しかも、なまじ大気が安定しているから狙い易い。

 ついでに言えば砲撃手もプロだろうからな、下手な弾は撃たないだろうさ。


 だからか遂には機体が振動するほど近くで爆発が起きていて。

 あのノオンやマオでさえ怯えの声を上げ始める。

 これだけ一方的な展開なら無理も無い。




 だけどこの時、俺は何故か不思議と落ち着いていた。

 まるで血の気が引くかの様に、頭の中がクリアになっていたんだ。




 なんでだろうな。

 あの機空船にパパム達が乗っているとわかったからだろうか。


 ニペルの復讐をするなんて決まりきった事だからさ。

 だから「どうしたらニペルは喜ぶだろうか」って考えて止まらなかった。

 業を煮やすよりも、怨みに猛るよりも。


 そこで俺は一つ思ったんだ。

 きっとニペルはもっと外の世界を知りたかったに違いない。

 多くの人と知り合って、話して、歌って踊って。

 それで楽しく毎日を人らしく生きたかったんじゃないかって。


 だったら、俺がその代わりをしてあげたい。

 せめてもの手向けに、多くの人に彼女の存在を報せたい。


 ニペルという少女が生きていたんだよって証明を、全世界に。


 そう考えた時、もう体と手が動いていた。

 座席から離れ、その背面へと己の身体をロープで括りつけて固定する。

 それも銀麗号の後部へと向く様にして。


 まるで巨大機空船と対面する様に。


「クアリオ、頼みがある。俺が合図したら奴等の軌道軸線上を真っ直ぐ航行してくれないか?」

「なっ!? お前馬鹿かッ!? そんな事したら狙ってくれって言ってる様なもんじゃねーかあッ!!」

「大丈夫だ。その時、もう全てが終わっている」

「――え?」


 そうすると決めた時から、もう何もかもが見えていたんだ。

 これからどうすればいいのか、どうなるのかと。

 そう出来るくらいに想像が溢れて止まらなかった。


 その落ち着き具合だけでクアリオを黙らせるくらいには。


「……わかった。ならしっかり声を出してくれよな。聞き取れなかったなんて言い訳出来ねぇくらいによ」

「ありがとう……!」


 だからか、機空船の回避にも僅かにキレが生まれていた。

 俺の意志を汲んで肝が据わった所為だろうか。


 お陰で集中するのも容易くなったよ。


 故に今、俺は正面へと両腕を掲げる。

 ただ思うがままに、願うがままに。

 今あるキャパシティの全てを、その手へと集める様にして。


 するとたちまち、力が集まっていく感じがした。

 それも術名を呼称するまでも無く。

 仕込んでいた輝操闘法の全てをも取り込んで。


 そうして気付けば全ての力が集まり、一つの光塊へと進化していた。


 船内を埋め尽くさんばかりの大きさだった。

 けれど、それでいて不思議と皆が恐れない様な優しい輝きを放っていて。

 そんな眩さでありながらも背後を見渡せるくらい、妙にクリアなんだ。


 その神々しさに、皆が見惚れてしまうまでに。


「クアリオ、今だッ!」

「え、あ――よしッ!!」


 これでもう準備は整った。

 後はタイミングを見計らい、この力を解き放つだけだ。


 復讐の為でも無く、世界の為でも無く。

 ただ一人の少女の為にと俺はこの力を奮うよ。


 迫る鉄塊を引き換えに、その生きた証を立てる事によって。




輝操(アークル)――越醒転現(フルアライズ)




 その為に今、光塊が解き放たれた。

 銀麗号の背部をも巻き込み、空を貫き只一直線に。


 その軌跡、まさに光の如し。

 力が届くまでには秒程も掛かりはしなかったよ。


 放った直後にはもう、巨大機空船は輝きに包まれていたのだから。


「せめて人の為になれ、パパム、ジェオス、そして己の為に暴力を奮った者達よ。お前達が生きた証など、もう必要は無いのだから」


 そして彼等にもまた手向けを送る。

 もう二度と会う事はないであろう悪意達へと。

 今後、もうあのような存在が生まれない事を祈って。


 そんな祈りの中で遂に光が弾け飛ぶ。

 空一杯へと燐光を撒き散らしながら。


 すると間も無く、俺達の耳に「歌」が届いた。


 この歌はニペルが生前に歌っていたもの。

 彼女の歌そのもではないけれど、俺が聴いた物をそのまま再現したんだ。


 そう、あの巨大機空船は今【ニペルの歌】へと昇華わったのだから。


 しかも音の振動という歌じゃあない。

 精神波にも近い、ビジョンを持った心の歌さ。

 だからこの歌が届いた途端、ニペルの姿が脳裏に浮かぶようになっている。


 当然、俺達の心にもな。

 今も彼女の楽しそうな姿が映っているよ。

 俺が今まで見て来たありのままの姿が。

 思わず声を震わせて涙を流し、鼻を啜ってしまうくらいに。


 そんな心の歌は間も無く世界中に届くだろう。

 あれだけの大きさの輝操術と、あれ程の巨大な質量が昇華わったから。

 お陰で世界中にニペルの存在を伝える事が出来たよ。


 人にも、動物にも、魔物にも、虫や草木にも。

 きっと彼女の思い出は伝わった事だろう。


 今の力は、そういう風に出来るものだから。


「ありがとうニペル。君のお陰で、俺達は先に進む事が出来る」

「そうだね……その想いを、ここで止めちゃあダメだ」


 もしかしたら今の歌には回復の力も備わっていたのかもしれない。

 その所為なのか、気絶していたテッシャやフィーも目を覚ましていて。

 涙を流しつつも、俺達に元気な頷きで返していた。




 まだ全ての障害が無くなった訳ではない。

 けれどニペルの存在を世界へと伝えられたから。

 それにあのパパム達の野望も止められただろうから、それでもう悔いは無いよ。


 だから後は陽珠の君に会うだけだ。

 望み通り、今すぐお前の所に行ってやろう。


 この旅の真意と、世界を救う手段。

 お前の知る全てを引き出す為にもな……!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ