第131話 陽珠領域の先へ
きっと俺は、ニペルの事が好きだったのだろう。
仲間や友人としてではなく、異性として。
積極的にアプローチしてくれた事が内心では嬉しかったから。
それで合体する事を遠慮したんだ。
本当の気持ちを悟られたくなくて、恥ずかしくて堪らなくて。
けど今になって後悔している。
いっそ想いを知られた方がずっと気が楽になれたんじゃないかって。
アイツの事だからきっと適当に誤魔化してうやむやししそうだしな。
しかし、その彼女はもう帰って来ない。
俺達を生かす為にその命をも盾にして。
これが彼女なりの想いの示し方だったんだろう。
どうしてそこまでして俺達を庇ってくれたかはわからない。
もしかしたら俺と同じ気持ちだったのかもしれない。
彼女がいなくなった今、その真意は。
なら俺はそう想ってくれていたのだと思う事にしよう。
そう考えた方がずっと彼女の行動に報いられるだろうから。
だからその想いを胸に、俺達は生きる。
例えこの先にどんな障害が立ち塞がろうとも。
笑顔で犠牲となったニペルの死を無駄にしない為に。
そうして帝都から逃げ延びて現在。
俺達の視界には機空船発着場が見えていた。
ただ、ここでもうゴッドフェニシオンも限界だったのだろう。
たちまち俺達を跳ね飛ばして砂地へと墜落する。
その身をバラバラに砕かせながら。
それで俺達は残骸に感謝を表し、空かさずその場を立ち去った。
生き残る為にも、立ち止まってはいられないから。
それから後、空へと舞い上がるまでが全て流動的だった。
俺がクアリオを背負ったまま機空船発着所を強襲。
ノオンが先陣を切り、抵抗を振り払って銀麗号へと到達。
そこでフィーがクアリオを回復して即座に空へ。
こうして皆が協力し合ったお陰で今、発着場を後にする事が出来た。
しかし無茶した影響も大きい。
テッシャはマオとフィーを運んだ所為で体力が尽きて。
フィーも魔力を使い果たし、気絶してしまった。
ノオンも発着所突破で無理が祟り、声を返す余裕も無い。
かくいう俺もマオもほぼほぼ限界、今は魔力補給用ポーションをがぶ飲み中だ。
というのも、これからが一勝負となるからな。
「で、これからどーするよ?」
「このままオーバーマウンテンまで頼む。こうなったら強引にでも陽珠へと行くんだ」
「おっまえホント無茶ばかり考えるよなぁ……了解っ!」
恐らく、俺達に逃げ場はもう無いだろう。
他国へ逃げ隠れしてもダメだ。
もし時間を置けば、事実を歪曲されて重罪人の仲間入りさ。
緑空界での事もあるから言い逃れは聞かないハズ。
だとしたら俺達に残された道はただ一つ。
誰もが容易に立ち寄れない場所へと赴くしかないんだ。
そう、世界の中心――陽珠へと。
それで俺達は早速、追っ手を振り払ってオーバーマウンテンへ。
更には警備機空船を俺とマオで撃ち落とし、門も輝操術で排除する。
そうして強引にゲートを通過すれば、遂に神域へと到達だ。
風壁を隔てた先、俺達にとっての未知の領域へと。
「……案外、静かなもんだね」
「そうだなー。まさか普通の空より穏やかだとは思っても見なかったぜ」
ただその中はと言えばとても穏やかなものだった。
ゲートを越えた所で、途端に機体の揺れが無くなって。
それどころか風切音さえ全く聴こえないんだ。
これが世界を守る陽珠の領域か、と感慨さえ抱く程に。
そんな環境だからかクアリオにも余裕が出来ていた。
恐らく抵抗もあまり無いから、操舵幹に力を籠める必要も無いのだろう。
それに追っ手はもう来ないハズだ。
ゲートの先は神聖な場所で、警備兵でも通る事は叶わないからこそ。
「後はこのまま真っ直ぐ陽珠へ向かえばいいよな?」
「ああ、多分な。まさかここで門前払いなんてする訳も無いだろうさ」
しかし、たった一つだけ懸念は拭えない。
あのクソジジィがこのまま大人しく引き下がるとは思えないからな。
俺達が思っても見ない対策を弄しているかもしれない。
それだけは気を付けなければ。
そう思いつつ、安堵のままにシートへともたれていたのだが。
「なッ!? オイオイオイ、マジかよォォォ!?」
「「「えッ!?」」」
そんな安堵も間も無く、クアリオの動揺によって掻き消されて。
それで俺達もがつい振り返ってみれば、視界に驚くべき光景が映り込む事に。
なんと巨大な機空船が白風を跳ね上げながら現れたのだ。
それも雲を突き抜け、風壁をもものともせずに。
その体躯は全面が黄金の輝きを放っていて。
更には船首にヴァウラール帝国の紋章が飾られているという。
つまり帝国所有の陽珠訪敬用機空船という訳だ。
だとすれば差し金はあのパパムとジェオスだろう。
恐らくこの短期間で帝国を掌握、俺達に追っ手を差し向けたんだ。
なら、あの中には二人も乗っているだろうよ。
俺達を倒したという実績を欲しているハズだからな。
直接手を下して英雄となる為に。
にしても、なんて物を持ち出してきやがった……!
聞くにこの大型機空船は戦艦でもあるらしい。
つまり迎撃戦力を保有しているという事だ。
それも小型機空船どころかスカイドラーケンでさえ倒せる程の砲撃力をな。
だとすれば、銀麗号なんて奴等にとっては蠅みたいなものだ。
もし一撃でもまともに喰らえば、一瞬で木っ端微塵だろう。
それどころか煽りを貰っただけでも歪んでバラバラになりかねん。
全く、あのクソジジィめ。
どうしても俺達を逃がすつもりは無いらしい。
その執念、本当にうっとおしい事この上ない……ッ!!