第130話 奸計
やっと救ったと思ったアルケティがまさか殺されるなんて。
それもやったのは恐らく、味方のハズのジェオスで。
そんな奴は本来敵だったハズのパパム爺と一緒に立っているという。
しかもそれだけじゃない。
反乱軍と帝国兵が何故か一緒にいるんだ。
あろう事か揃いも揃って俺達へと槍を向けてな。
「最期だから教えてやろう。儂らは皆グルじゃったんよ。半数の帝国兵も実はレジスタンスの一員でのぉ、おまけに言うとこのジェオス殿も儂らの仲間なのじゃ」
「クハハ、貴様が我を運んでくれたお陰で命拾いしたぞぉ? 後は療術をこっそりと貰い、こうして復帰よぉ! だが悪いが恩は返せん。我は立場の方がずっと欲しいからなぁ! そう、あの伝説の業魔を討ち倒したという名声が!」
つまり今回の戦いは仕組まれたものだったという訳か。
敢えて敵味方というスタンスを演じて、俺達を好きにさせて。
その上でアルケティを倒させる。
そしてその手柄を横取りにするつもりだったのだと……!
「後はお前達をアルケティの協力者だったとして始末すれば、儂らが全ての手柄を頂きよぉ! しかしまさかあの業魔を討ち倒すという実績まで立てるとは驚きじゃったがのぉ!」
「キサマァ! 祖国の復活の為にそこまでするかァ!!」
「ヌハハ、祖国なんぞどうでもいいんじゃよぉ! 儂らが甘い汁を啜って生きられればそれでのぉ!!」
「こ、こいつゥ……ッ!!」
最初から何もかもが嘘だったんだ。
テッシャを王に仕立てようとしたのも全ては自分の為。
楽して責任も負わずに頂点に立ち、贅沢を貪る為に。
ジェオスもその名声を以って父を越えると断言したのだ。
アルケティを落とし、更には国堕としと呼ばれた俺達を弾劾する事で。
おまけに業魔討滅という偉業も加われば不動の地位を得られるだろうさ。
そう出来る計画だったから二人は結託したんだ。
王国復興の夢も武人の心も偽り、己の欲望を満たす為にと。
――ふざけやがってえ……ッ!!
こいつらは全員、欲に溺れた豚共だ。
地位や名声、金に目が眩んだクズ共だ。
その為になら手段も択ばない正真正銘の外道共なのだ!
なら許せる訳がない。
アルケティを殺した罪も加えれば当然な……!
「その為にもお前さんらを処刑するという訳じゃあ。まぁ勝手に弱ってくれたからこちらとしても楽で助かるがのぉ~! 楽にのし上がって、すまんのぉ~~~!?」
「ぐぅぅ……!」
それこそ奴に制裁の一発をブチ込みたい。
嘲笑で歪みに歪んだあの醜い顔にズドンと。
だが俺達はもう限界だ。
体力も魔力も乏しく、歩く事さえままならない。
おまけに奴等の数は百を越え、逃げ道は無いときた。
残りの輝操闘法を駆使すれば半数は倒せるが、打ち止めとなれば終わる。
その状態では例え戦ってもパパムには届かないだろう。
クソッ、どうしたらいい!
どうしたらこの死地を乗り越えられる!?
「ごめんよテッシャ、ボク達が最初から君の進言を受け入れればこんな事にはならなかったかもしれないのに……!」
「仕方ないよ、アイツ言葉巧みだし。それにやっぱり何も変わってないんだってテッシャも今やっと気付いたから」
ジェオスと兵士達がジリジリとにじり寄って来る。
動けない俺達へと向け、強く警戒しながら。
名誉の為に、もう何一つ油断する気なんてないんだろうな。
「なるほどねぇ、昔からああだったって訳かい。つまりブブルク達と同類って訳だ」
「うん。テッシャもそれでどれだけ困らされたか。それで逃げたんだけどねー……」
「逃げたのわかーる。とってーもやなやーつ!」
そんな兵士達の後方でパパムがなお下卑た嘲笑を上げている。
あれは勝利を確信した笑いだ。
本当に腹立たしい奴め、最後までイラつかせてくるとは。
「あ、謝ったら許してくんねーかなぁ……」
「無理だろうねぇ、仕留める気満々だよ彼等はさぁ!」
こうなったら俺だけで徹底抗戦するしかない。
少しでもこの包囲網を緩め、皆を逃がすチャンスを作るしか。
「やれぇい! 国に仇名す逆賊どもを始末しろぉ!」
「やらせるものか……! 絶対にぃッ!!」
きっとこの想いは皆同じだったのだろう。
だから揃って武器や工具を構えて意志を貫こうとしていて。
そんな中へと兵士達が一斉に走り始めた。
しかしその直後――
『未来への希望をやらせる訳にはいかないッ!!』
突如として俺達の足元が隆起し、土塊として高く打ちあがる。
なんとクアリオンが生きて、俺達を大地ごと叩き上げていたのだ。
「なんじゃとぉーーーッ!?」
「クアリオンッ!? まだ生きていたのかッ!?」
恐らく、輝操術から解放された時、地面の中で復元されたのだろう。
しかしまさかまだ意識があったなんて。
合体の影響で完全に消えたと思っていたのに。
ただ、これが本当に限界だったらしい。
割れた土塊の隙間から、砕けていくクアリオンの姿が見えていて。
俺達はその最後の雄姿を打ち上げられながら眺めるしかなかった。
しかも更にはゴッドフェニシオンがやってきて俺達を掬い上げる。
ボロボロにも拘らず大空へと舞い上がりながら。
クアリオンが身を挺して活路を見出してくれたんだ。
「に、逃がすなぁ! 何としてでも奴等を殺せェッ!!」
だから俺達はつい安堵していた。
これで「助かった」と思えてならなくて。
奴等に追う手段が無い事はわかっていたから。
けどまだ落ち着くには早かったのだろう。
あのジェオスにだけは、俺達へと届く一手があったのだから。
アルケティの急所を一発で貫いたあの投槍術が。
「ぬぅああッ!!」
故に今、ジェオスが槍を引き絞って空へと槍を投げ付ける。
空へと舞う俺達へと向けて一直線に。
その殺意溢れる槍を前にして、俺達は唖然とするしかなかったんだ。
迫り来る脅威をただただ見届ける事しか。
ニペルが身を挺して防いだその時まで。
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
突然視界が塞がれて、彼女の背中が現れて。
それでいて、力無く落ちていく――その姿がただ信じられなかったから。
けれど振り向いた顔にはどうしてか笑みが浮かんでいた。
まるで俺達を守れた事が嬉しくて堪らなかったかの様にさ。
その胸に槍を受けながらも、とても満足そうだったんだ。
ニペルがこの時何を思っていたかはわからない。
次の瞬間にはもう表情が見えなくなるくらいに離れてしまっていたから。
もう伸ばした手が届かないくらいに、叫びが伝わらないくらいに。
ただ、それでも見えるものは見えてしまっていた。
彼女の羽根が毟られ、翼をもがれるその瞬間を。
野獣の如き奴等に蹂躙され、尊厳さえも千切られて。
「ニペルゥゥゥーーーーーーッッッ!!!」
そんな光景を、俺達は観る事しか出来なかった。
例え悲しくても、苦しくても、辛くても。
彼女の生き様をこの目に焼き付ける事しか、出来なかったんだ。
故にこの時、俺はただただ思い悩んでいた。
あんな奴等がいる様なこの世界には本当に救う価値があるのか、と。