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第129話 古代の真実

 遂に業魔を討ち滅ぼした。

 核となっていたアルケティの摘出に成功した事で。

 

 未だ黒い筋を下げたままの身体を大地へ降ろす。

 そうして横たわらせると、俺達の身体もまた輝きに包まれて。


 するとたちまち元の姿へ。

 アルケティの周囲へと降臨し、荒地へと足膝を突く。


 激しい戦いだったからな、皆揃って疲労困憊な様だ。

 俺も含め、立つ事も叶わないくらいに消耗しきっている。

 滅多に表情を変えないクロ様でさえ舌を出して呼吸しているしな。


 けど達成感もまた満ち溢れるくらいにあったよ。

 だからか、息切れぎれだけど揃って笑顔を浮かべていた。


 それと幸い、俺達に合体前との変化は見られない。

 どうやら輝操術による各自の復元はしっかりと成功したらしい。

 全員黙ってはいるが、頷きでそう返してくれている。

 ならもう心配はいらないだろう。


 となると後は、アルケティをどうするか、だ。


「……少し、私の話を聞いてくれるかい?」


 しかしそう悩んでいた所で、そのアルケティの方が先に口を開いた。


 当人もまた苦しそうではあるが、微笑みを絶やそうとはしない。

 きっと大業を成し遂げられた事に満足しているからだろうな。


「あぁ、聞かせてくれ」

「ありがとう……」


 だから俺達も地べたに座り、頷きで返す。

 僅かに空の明かりが乏しくなる中で。


 さっきまで戦争していたのが嘘みたいに、辺りはすっかり静かだ。

 でもこれなら細々とした声でも聴き取れるだろうさ。


「私の姉はとても優秀な科学者だったんだ。業魔――神之依器(かむのよりさら)【ウシャーラタ】を完成させ、人単体で〝空の底〟に耐える事が可能と出来たくらいに」

「完成? だがあの暴れようは……」

「そうさ。完成はしていたが、実用試験の時に未調整品とすり替えられたんだ。成功を妬んだ同僚によってね。その結果、被験者となった姉は業魔へと誤進化し、世界を滅ぼしかけるまでに至ったのさ」

「そんな、君のお姉様があの伝説の業魔だったなんて……!」


 そうして語られた話は想像以上に重くて、辛くて。

 かつての苦悩が滲み出たかの様に、都度うめき声が漏れる。

 だから微笑んでいるのに、何故かとても苦しそうに見えてならない。


「その所為で完成データは研究者や研究所もろとも消し飛び、解除する方法も失われた。それで後は君達の知る通りの歴史へと進む事になったんだ」

「でもそれじゃ、君がなっていたのは一体なんなんだい?」

「あれも……業魔さ。ただし真の姿だ。意思を失わない完全体だよ。それというのも、私はテスト前に本物の試料を姉から預かっていてね。何かあった時の為にって」


 恐らく、ずっと悩み苦しんで来たんだろう。

 姉から預かった力をいつ使うべきかと。


 あの薬を当時に使っていればこうにはならなかったかもしれない。

 俺達がやったみたいに姉を摘出して救い出せれば。

 それが出来るのは自分だけだとわかっていただろうに。


「でも気付けば世界は八つ裂きにされていて、世界中が彼女を怨んでいて。もうどうしようもなかったんだ。仮に助けられたとしても、姉さんはもう絶対に許されないってわかってしまったから」

「辛い所だよな、オイラも姉ちゃんをそうやって失ったからわかる気がする」


 それでも使えなかったんだろう。

 自分もああなってしまうかもしれない、止められないかもしれないと恐れて。

 そうして気付けば全てが手遅れになってしまって。


 だからきっと悔しかったに違いない。

 姉の事故も、自分の不甲斐なさも。


「そんな事もあって、私は……『いつか必ず姉の過ちを正したい』と願って生きて来た。そしてやっとその機会が巡って来たと思ったんだ。アークィン、君の存在が私には眩し過ぎたから……」

「アルケティ……」

「その為に君達を巻き込んで申し訳ないと思っている。だから精一杯に詫びよう……私自身の死を以ってね」

「そ、そんなっ!」


 それで死さえも恐れていなかったのかもしれない。

 こうして業魔の正体を敢えて明かし、姉の罪を拭うつもりだったから。

 その果てに長い苦しみから解放される事を望んだから。


 ならばいっそと、多くの罪をも背負って世界の果てに消えようとしていた。


 悲しいな。

 どうしてここまで思いつめなければならないのか。

 なまじ長生き出来てしまうから、苦しみも味わい続けなければならないなんて。


 これならまだ自殺出来る神々の方がずっと人間的じゃないか。


「どちらにしろ私はもう助からない。強引に業魔化を解除すれば負担は本体に掛かるからね。このまま朽ちて消えていく運命なんだ。あの腐った肉の依り代と同様に」

「「「ええっ!?」」」

「でも後悔はしていないよ。この戦いで混血を憎む事は筋違いだと伝える事が出来た。姉さんの贖罪はこれで為されたから……」


 アルケティ自身に罪は無い。

 いや、むしろ誰よりも貢献してきたに違いない。


 優しいからこそ責任を感じ、姉の罪をどうにかしたいと思っていて。

 更には旅だったという仲間を案じて世界を安定させようとした。

 それ以外にも歴史の影に隠れて多くの事を成してきたハズだ。


 そんな善人が罪を背負って死ぬだと!?

 到底認められる訳が無いだろう!


「だから私は――」

「いいやアルケティ、お前は絶対に死なせない。お前はこれから何の罪も背負わず、自由に生きるべきなんだ。そうして今を楽しんで堪能して、満足してから死ぬべきなんだよ……!」

「アークィン……」


 俺はまだアルケティの事を良く知らない。

 だから聞きたい事も多いし、色々と伝えたい事だってある。

 友となりうる奴だからこそ理解し合いたいんだよ。


 だってコイツほどに優しい奴なんてなかなかいないだろ?

 本当ならこう演技だって疑ってしまう様な事を素で言う奴なんだから。

 自分の事しか考えない奴が多いこの世界じゃなかなか巡り合えないだろうよ。


 そんな奴だから絶対に死なせたくないんだ。

 善人らしく、ちゃんと人として死んでほしいから。


「輝操術ならその死のルールでさえ取り除く事が出来る。少なくとも今の俺ならそれくらいは可能だ」

「そんな事まで出来るのかい、君は……」

「少し動かないでいてくれ。すぐその理を引き剥がす。輝操(アークル)転現(ライズ)……!」


 だから重い腕を持ち上げ、震えながらも十字(ジクス)を刻む。

 そうして生まれた優しい輝きをアルケティへと充て、力を巡らせた。


 すると輝きがたちまち全身へと駆け巡って。

 未だ脈動していた黒い筋を「パシン、パシン」と次々に消し飛ばしていく。

 接合していた部分を変化前と同じの綺麗な褐色肌へと戻しながら。


「凄い……。そうか、そういう事か……もしかしたら君は私達にとっての待望の奇跡なのかもしれない」


 それで気付けば全ての肉片が失われ、元の姿へと戻る。

 もちろん衣服も無いからな、空かさず俺のマントを掛けて体を隠したよ。


 これでアルケティは業魔の呪縛から完全に解き放たれたんだ。

 身も心も、古代より続いた罪からさえも。

 ついでに言えば、堅苦しい帝という立場からもな。


「どうせもう帝国には戻れないだろう? なら俺達と一緒に来い、アルケティ。なんたってお前はもう自由なんだ。なら何をしたって構わないんだからさ」

「……そうだね、そうさせてもらおうかな。皆とても優しそうな顔をしているから、とても楽しみで仕方が無いよ。ははは」


 お陰で今、アルケティは心底から笑う事が出来ていた。

 声は枯れ枯れだけど、それでも精一杯に、無邪気に。

 立場からも解放されたからこそ一切気取る事も無く。


 ただただ想いのままに笑いを上げる事が出来ていたんだ。




 胸に、槍がドズンと突き刺さるその時までは。




「ッ!? カハッ!?」

「「「なッ!!?」」」


 余りにも突然の事だった。

 俺達が気付けないくらいに一瞬の事だったから。

 それだけの速さで空から槍が降って来たんだ。


 それでいて狙いもまた正確で。


「ア……クィン……」

「アルケティィィーーーッ!!」


 見事に急所が貫かれていた。

 あっという間に絶命してしまう程に。

 それに、ただでさえ弱り切っていたから……!


 何故だ!

 何故こんな事になった!?


 一体誰がこんな事をしたんだッ!?


「ククク、一時はどうなるかと思うたが……丸く収まったお陰で計画通りに進める事が出来た様じゃの」

「「「ッ!?」」」


 周囲に人の姿は無かったハズだ。

 けど突然、こんな声だけが聴こえて来て。

 気付いて周囲を見回した時、間も無く声の主()が姿を現した。


 なんと、あのパパム爺が立っていたんだ。


 それも奴だけじゃない。

 傍には敵だったハズのジェオスまでが立っていて。

 更には周囲一帯を包む様に反乱軍・帝国軍の兵士達までが姿を晒す。

 恐らく光音遮絶(パーセクト)を使って姿を隠していたのだろう。


「お陰で全てが上手く行く。本当にありがとうよ、国堕とし殿ォ……!」

「パパム、キサマかぁ……!」


 しかも皆が揃って、醜悪な笑みを浮かべていた。

 まるで俺達を道化と嘲笑うかのように。




 どうやら俺達はまんまと嵌められたらしい。

 せっかくアルケティと再会し、救えたと思ったのに。

 まさかその全てを無駄にされるなんて。


 クソッ、一体どうしてこんな事になっちまったんだよ……ッ!!


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