第127話 銀麗巨神
俺達は遂に一体化し、輝く巨人へと進化した。
それも業魔に負けない程の大きさの。
それでも俺達の意識はまだ個々に存在している。
思考がただ共有されているだけで、話し合う事も可能だ。
しかしその意志はしっかりと一つに纏まっているよ。
業魔を倒して世界を守るとな。
『クホォォォ……やはり、来たか、アークィン=ディル=ユーグネス……!』
そんな俺達に奴も気付く。
なにせ黄金の砂漠を瞬かせるくらいに眩しかったからな。
だからと尾で機空船を叩き落としつつ、こちらへと顔を向けていて。
『違うな、今の俺達はアークィンじゃあない!』
『なにィ……?』
『名乗るならば【銀麗巨神】とでも呼ばせてもらおうか!』
そんな奴に、俺達は恐れずこう応えた。
これ以上に相応しい名前は無いと思ったから。
この姿はいわば俺達の象徴なんだ。
今日この日まで共に生きて来た同志達、その名を体現したからこそ。
『もうこれ以上世界を破壊させはしない。例えどんなに悪意に満ちていても、懸命に生きる人々がいる限りはなッ!!』
そんな姿へと進化した今だからこそ自信を持って言える。
俺達は、今こそ救世主になるのだと。
だって、それが望みだったんだろう? なぁアルケティ……!
『この我を前にして、よく言う! 全てを破壊し尽くす業魔と知って尚!』
『伝説を越えてこそ次がある! 古の獣よ、お前の存在はもう歴史に埋もれて消え去るべきなんだッ!!』
互いに思う事は多いだろう。
この世界に絶望したのはアルケティだけじゃないから。
何度も悪意や敵意を目の当たりにして、心を荒ませたのは皆も同じだから。
だからこそ止める。
だからこそ進むんだ。
世界はまだ、それほど腐ってはいないのだと訴える為にも。
その意志の下に、俺達はとうとう一歩を踏み出した。
アルケティもまた同様に歩み寄る中で。
そうして次第にその歩幅も広がり、共に駆け始めていく。
大地を揺らし、鳴り響かせる程に力強く踏みしめながら。
『アァァーークィィィーーーンッッッ!!!』
『アルケティィィーーーッッッ!!!』
故にたちまち肉迫し、拳を構えて牙を剥いて。
互いに意志の赴くまま、戦意をぶつけようと己の武器を奮う。
先に仕掛けて来たのは業魔の方。
その鋭い牙を、首を真っ直ぐ突き出して襲って来た。
しかし俺達はそんな首を空かさず掴み、大地へと叩き付ける。
それも二度、三度と力の限りに激震させながら。
ジャンボフォームのマオの力を存分に発揮させてもらってな。
更には体をも引き込み、地面に擦らせる様に振り回して。
その勢いのまま、業魔を空へと高々に放り投げた。
だがこの時、業魔は姿勢構わず何かを飛ばしてくる。
体毛の針だ。
赤黒いオーラを纏う体毛を銃弾の如く飛ばしてきたのだ。
そんな針の雨に晒され、俺達の身体が無数と刻まれる事に。
大したダメージではないが、晒され続ければ後が怖い。
だからと今度はこちらからも反撃だ。
周囲を舞う砂を固め、無数の岩棘へと変えて撃ち放つ。
テッシャの大地魔法を応用した力でな。
この反撃が壁となり、体毛針が弾かれ無為となる。
それどころか大気を突き抜け、業魔の肌を叩いていて。
攻撃そのものは通用しないが弾く分には充分。
お陰で業魔が空中で姿勢を崩し、大地へと叩き付けられていた。
その隙を狙って距離を一気に詰める。
フィーの能力によって強化された瞬足によって。
進化した今、俺達に限界はもはや存在しないのだから。
そして勢いのまま、業魔の頭部へとハンマーパンチだ。
拳と大地のサンドイッチ、この一撃は伊達じゃない。
故にたちまち大地が歪み、周囲の砂を弾く程に打ちあがる。
無数の岩塊までをも跳ね上げて。
しかしこのまま一気に叩き潰させてもらう!
イニシアチブを取らせる訳にはいかないんでな!
そんな想いが拳に更なる力を与えて押し込まさせた。
まるで拳に推進器が付いているかの如く。
クアリオの能力が働いたお陰なのだろう。
その威力が業魔の顔を歪ませる。
軋みを上げ、大地へと深々に突き刺さらせて。
しかしその途端、俺達の首に衝撃が走った。
業魔の尾が絡み取っていたのだ。
しかも俺達の身体を浮かせる程に力強く。
更には先程のお返しと言わんばかりに振り回し、頭部を大地へ叩き付けて。
その反動のままに放り投げ、大地へと転がさせた。
それでも追い込まないのはきっと、奴が怖れているからだろう。
俺達がまだ何かを隠していると考えているから。
――その通りだ。
俺達にはまだ切り札がある。
よってこうして即座に手離したのは正解だったのかもしれんな。
『俺達は世界を救う。それはアルケティ、お前も例外じゃないッ!!』
ならば今こそ奮おう、その切り札を。
世界とアルケティ、そのどちらをも救う為にも。
それを成せなければ、救世主なんて到底名乗れないからな。