第126話 越醒転現
仲間達に恐れる物は無かった。
この戦いの後、例え自分を見失うかもしれないと知ってもなお。
だから俺はそんな心意気に応えたいと思う。
彼女達ならば過去のトラウマさえ払拭してくれるのだと信じて。
皆が願う、優しい世界を迎える為にも。
「皆、クアリオンの残骸を中心に円を描いて、等間隔に立ってくれ。コイツのボディも流用する!」
その為になら何だって利用してやるさ。
俺達の為に散っていったクアリオンでさえ。
どうせその方がコイツも喜ぶだろうからな!
そう思っていた矢先、突如としてクアリオンの眼に光が灯る。
まるで俺達に訴えるかの様に瞬きを見せながら。
『その通り、だ』
なんとクアリオンはまだ生きていたんだ。
胴体を真っ二つに切り裂かれて余す事なくグシャグシャにされたのに。
それでもなお何かを訴えようとしていて。
「お前……まだ意識が残ってたんだな」
『あぁ、同志の心の声が、聴こえて、居ても立っても、いられなく、なった』
「すまないクアリオン、お前を使う事は勝手に決めさせてもらった」
『構わ、ない。例えこの、身が消え、去ろうとも、役立てて、くれれば本望、だ』
どうやらもう俺の意思は皆に筒抜けだったらしい。
なにせ今、最高に昂っているからな、意思がとめどなく溢れているのだろう。
けど、もう隠すつもりなんて無いさ。
ならいっそ俺の想いを余す事無く聞いて、その上で受け入れてくれ!
その方がずっと力が高まる可能性があるのだから。
そんな想いも届き、仲間達が無言で頷きを見せてくれた。
配置も問題無し。
なら後は俺が力を奮うだけだ。
「では始めるぞッ!! 輝操・転現ッ!!」
両手甲を充て、十字に擦って光を刻む。
そうして残った輝きを前にして、再び十字を描いた。
それも何度も、何度も。
「輝操・転現ッ!! 輝操・転現!! 輝操――」
その度に輝きが膨れ上がり、十字から丸い輝きへと変わっていく。
輝操術が混じり合い、その規模を高めた事によって。
その数、十三。
元々のフリーストック分と、先程使って空いた分と。
そして心が軽くなった事で生まれた、新たな領域分を行使して。
「敢えて言う! この力を恐れるな、受け入れろ! 痛みも苦しみも無いと信じてその身に宿せ! その心が結びつきをより強固にしてくれる!」
更にはその輝きを混ぜた上で九つに分割する。
俺が願う力へと変わる術式を織り込んだ上で。
そんな力が頭上を舞い、皆の手元へと優しく訪れた。
ノオンには閃紫の輝きが。
マオには昂赤の輝きが。
クアリオには跳緑の輝きが。
フィーには艶白の輝きが。
テッシャには嶺黄の輝きが。
クロ様には鋭金の輝きが。
クアリオンには硬銀の輝きが。
そして俺には彼女達の色を滲ませた虹色の輝きが。
その輝きには各々の役割が見えているハズだ。
合体して一つになった時、どういう存在になるかが。
けど、皆がその輝きからどう受け取ったかは俺にもわからない。
だけどきっと皆、やり遂げてくれるだろう。
そうやって信じて乗り越えるのが、勇気だというものだから。
「〝Zwhen wiuel phaltet alletvaridshen wu gner jutze falwhivote hau ignie bingie guh nuan |qual-ionieasheydie〟!!!」
そんな想いを胸に、想い描いていた術式を光へ刻み込む。
より複雑に、より明確に意思を乗せて。
そうする事で出来上がった力が七色に輝き、皆の身体と心を優しく包み込んだ。
まるで心から光と一体化するかの様に。
「今こそ真の輝きを見せてみろッ!! 【輝操・越醒転現】」
そしてこの一言がきっかけとなり、全ての輝きが俺達を溶かし尽くす。
更には輝きを強く打ち放ちながら空に飛び上がり、一つへと。
するとその瞬間、俺達の視界が虹色に染まりきった。
色んな思い出が、光景が飛び込んで来たんだ。
まるで皆の心が流れ込んでくるかの様に。
でも決して抵抗も無く、全てを受け入れたいとさえ思う。
それだけ優しくて、心地良くて、懐かしささえ伴っていたから。
かつての出会いと、葛藤と。
その時抱いた感情と、願いと。
内に秘めた想いも、蟠りさえも。
それら全てを曝け出し、俺達は今一つになる。
全ての思い出を一つに、強き意志を力へと換えて。
そうして輝きが収束し、形を成す。
討たんとする者にも負けない程の、巨大な人影を誇る一者へと。
俺達は象徴とならなければならない。
真の意味で、この無意味な戦いを終わらせる者として。
なら今こそ出来上がった力を行使しよう。
今この場に立つ全ての者の希望となる為に。
『行くぞ皆、ここからが俺達の本番だ!』
『『『オッケェーイ!!』』』
一つになった今、俺達にはもう恐れる事は無かった。
勇気もまた足し算を越え、測り切れない程に強くなったからこそ。
こうなればもはや業魔でさえ倒す事に疑いは無い。
故に今、光る巨腕を振り上げ世界に訴えよう。
業魔を倒す為の力は今ここにあるのだと。
こうして俺達六人は心を一つにして立ち向かおうとしていた。
かつての伝説、六聖剣を携えた騎士と同様にして。
きっと当時の騎士達もまた同じ想いだったに違いない。
いや、もしかしたら彼等は本当は「騎士」ではなかったのかもしれない。
ただ世界を愛し、その想いに殉じた勇者たる志を持っていただけで。
ならばきっと彼等もまた【騎志】だったのだろう。
今の俺達と変わらない、世界を守る為に力を奮った者だったのだと。
だったら俺達も続くとしよう。
今度は聖剣ではなく、輝操術という新たな刃を手にしてな。