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第125話 奮え勇気を

 業魔を止める事は論理的に可能。

 しかしその代償として人ではなくなるかもしれない。

 そのリスクを前に俺は力の行使を決めあぐねている。

 

 なのにその決断を仲間たち自身に任せようとした。

 それがどれだけ卑怯な事かはわかっているつもりだ。


「ここで例え拒否しても、それは仕方が無い事だと思っている。業魔は本来、人の手では到底倒せない怪物だ。そんな奴に滅ぼされる事が運命だと言えばそれまでなのだから」

 

 けど、それでも訊かなければならなかった。

 否応にも力を使ってしまえばそれこそ暴君と変わらないから。


 俺はそんな暴君となる為に力を鍛えてきた訳じゃない。

 純粋な人の願いを叶える希望として育て上げて来たつもりだ。


 そしてそんな力を受けるに足る資格が仲間達にはあると信じている。

 それだけの信頼を勝ち得ている奴等なんだから。

 むしろ彼女達以外に選択肢は無いと言った方が正しいか。


 だったらそんな仲間達に決定権を託したい。

 例えその末に世界が滅ぶ事になろうとも。

 そう願ってやまなかったんだ


 そして彼女達の選択に非難が舞うならば、俺が受け止めよう。

 それが業魔を倒す手段を唯一行使出来る者としての責任だと思うから。


「だから今、皆に問いたい。この力を受けるか否か――」

「……ふふ、あっははは!」

「ノ、ノオン?」


 でもそんな真剣な思惑を突如、ノオンの笑いが掻き消した。

 それもまるで俺を嘲笑うかの様に指まで差してきて。


 一体何を笑っているんだ!?

 俺はお前達に酷な選択肢を迫っているっていうのに!


 だからこう思わざるを得なかった。

 それだけ追い詰められていたのもあったからだろうな。


 けどこれは冷静に考えれば、当然の反応だったのかもしれない。


「いやね、君に会ったばかりの時を思い出したのさ! あの時のシチュエーションと全く逆の事を言われたと思ってね!」

「え……」

「だから敢えて君にこう応える事にしよう!」


 突如、ノオンが前髪を掃いながらその手を優雅に掲げて。

 フフッと笑いながらいじらしい笑みを俺へと見せつける。


 掲げていた手指をゆっくりと俺の額へと充てながら。


「ボクは例え君が何をしようと業魔と戦う! なら君は蚊帳の外で指を咥えて見ているがいいさ! ボクが必死に戦っている所をね! ハッハー!」

「ううッ!?」


 きっとあの時、ノオンには俺がこう気取った様に見えていたのだろう。

 己に力があるから一人ででも戦い、無敵の壁を破って見せると。

 そうやって強気に見せて弱気になっていた自分を立ち上がらせたのだと。

 

 今の状況はまさにあの時の再来だ。

 弱気になった者と、意志を貫こうとする者。

 その立場が逆転したというだけの。


「君が弱気になる理由もわかる。けど、ボクはそんなリスクなんて恐れてはいないよ。そして例えその末に人ではなくなったのだとしても、ボクはきっと君を恨んだりはしない」

「ノオン……」

「クシシッ、むしろ賭けは望む所さぁ。そうやってリスクを乗り越えようと挑むから人生は楽しいんだよ。なのにここで滅んじゃ楽しむも何もあったもんじゃない」

「マオ……」


 そして仲間達の意志はあの時と変わらない。

 誰一人、俺を否定する事なく俯いてくれている。

 あの時の状況を知らないクアリオやニペルでさえも。


「あちしはもうひらきなおーたーよ。業魔やっちゃるー」

「腐ってても黄空界はテッシャの故郷だし、やられっぱなしは嫌だーっ!」

「オ、オイラだってやってやるよ! ここで下がっちゃ姉ちゃんに怒られらぁ!」

「ウッフフ、いいですねぇこういうの。ワタクシも燃えちゃいます~♪」


 確かに恐怖はあるんだろう。

 だけど彼女達にはそれを乗り越える勇気がもうあったんだ。


 それはクアリオンに教えてもらったからじゃない。

 元からそういう勇気を持って育ってきたから、今ここにいるのだと。


 だから皆は神に選ばれたんだ。

 強引に突破した俺とは違って、何事をも退ける気概を持っているから。


 そうか……勇気を持っていなかったのはきっと俺だけだったんだな。


「……なら最終確認だ。皆、俺の作戦に乗ってくれるか?」

「「「オッケェーイ↑!!!」」」

「――よしッ!!」

 

 けどきっと、その勇気は伝搬するのだろう。


 時にはクアリオンから教えてもらって。

 時には今までの戦いから学んで。

 そして仲間達からこうして分け与えて貰う事によって。


 だから俺は今、顎を上げて皆を見る事が出来た。

 自信に満ち溢れた笑顔を、戦意に猛る力強いサムズアップを。


「でも悪い、ニペルだけは外してくれ。これから激しい戦いとなるだろうから、周囲の人を出来るだけ退避させて欲しいんだ」

「あらぁ、ワタクシも気持ち良く一つになりたかったのに~♪」

「ま、まぁ、お前がいると雑念が湧きそうでな……。今回だけは我儘を聞いてくれると助かる」

「仕方ありませんわね~♪ その代わり、ワタクシがいなかったからと敗けるのだけはよしてくださいねぇ」

「あぁ、必ず勝つさ……!」


 そこで唯一の懸念点もこうして取り去って。

 ニペルが空から応援する中、意識を集中させる。


 ――さぁ試してみるとしようか。

 今までに前例の無い、輝操術の新たな領域を。


 仲間達の力を合わせ、あの邪獣の脅威をも取り払う為にも。


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