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第123話 業魔 対 霊銀機

 業魔となったアルケティの力はもはや全てを超越していた。

 まさしく伝説の如く大地を裂いてしまう程に。

 そんな圧倒的な力を前に、誰しもが立ち尽くす他無く。


 俺やフィーもまた顎を震わせ、ただただ見上げるしか無かった。

 その強大かつ畏怖の権化とも言える相手を前にして。


『皆無事かいッ!?』

『こっちは大丈夫だよ!』

『あ、あんなのぶち込まれたら絶対に耐えらんねぇ!』

『本陣は平気ですわ……!』


 幸い、仲間達は()()無事だった様だ。

 射線上から敢えて外したのか、外れたのかはわからないが。


 ただ、このままではどのみち時間の問題だろう。

 再びあの光が放たれた場合、次に生き残れるとは限らない。

 それこそ殺意を向けられれば逃げる事さえ叶わないだろうな。


『しかしまさか、この目で再び業魔を、目の当たりにするとは……』

『あ、あの姿、三千年前とお、おなーじ』


 しかもその恐ろしい姿を、フィーとニペルは以前にも目の当たりにしている。

 恐らくは彼女達のオリジナル体の記憶として。

 だからか誰よりも強い動揺が言葉から伝わって来ていた。


 きっと当時も同様の力を見せつけられたに違いない。

 大地が六つに裂かれ、焼かれるという世界を。

 神々が自害へと及ぶまでに凄惨な状況を。


 でもそれはもう俺も似た様なものだ。

 力の片鱗を見せつけられた今、抗う意思さえ奪われてしまって。

 仲間達からの声もたちまち途切れてしまっている。


 当然だ。

 あんなの、人に止められる訳が無い。

 かの六聖剣だって一本だけしかないし、当時の騎士だっていないんだ。

 例え輝操術だってあんな規模の相手に通用するかどうか……。

 場にいる兵士達だって反乱軍だってもう立ち尽くして諦めきっている。


 もう、どうしようもないんだ。

 あんな化け物相手に、一体どうすればいいっていうんだよ……ッ!!


 俺達がどうするっていう次元の話じゃ――




『諦めるな、勇者達よッ!!』

「「「ッ!?」」」




 そう皆が諦めそうになった時の事。

 突如として場にこんな雄々しい声が響き渡る。

 それも業魔の吐息にも負けんばかりに猛々しく。


 その声の主はなんと、あのゴッドクアリオンだった。

 彼だけが怖れる事無く前進し、巨体を揺らしていたのだ。


『例え相手が世界を脅かす悪魔であろうとも。我々は生きている限り、全力で抗わなければならない。何故ならば! 我々が諦めた時、世界全てが危機に晒されることになるからだッ!!』

 

 それは単に、彼が魔導勇者だから。

 恐れる事を否定し、抗う事だけの為に生まれた存在だから。

 故に例え人が怯え竦み、恐怖で心を絡めとられようとも戦う事を選ぶ。


 それが宿命であり、使命だと信じているからこそ。


『だから私も諦めんッ!! 私の信じる勇者達がこの地にいる限りッ!!』

「クアリオン……」

『ならば業魔とやら、このゴッドクアリオンが相手だあッ!!』


 その強固な意志が今、巨体を駆けさせた。

 手に握る黄金の剣を瞬かせながら。


「そうだ、クアリオンなら……あの超パワーなら業魔だってどうにか出来るかもしれない……ッ!!」


 そんな雄姿が俺達に希望を与えてくれた。

 業魔を倒すという一縷の望みが。


 もう誰もが託すしか無かったのだろう。

 兵士達は皆、自分達が如何に平凡であるかを知っているから。

 敵が勇気だけではどうにも出来ない相手だという事も。


 だからか、立ち上がっていたのは俺達くらいなもので。


 それでもクアリオンは止まらない。諦めない。

 例え業魔が気付き、向かって来ようとも。


 その両手に掴んだ剣を掲げ、必殺の一撃を見舞う為にも。


『ゴッドクアリオンッ!! ファイナルヴェクタァァァ、スラァァァッシュッ!!!!!』


 故にこの時、光の剣が天を衝く。

 雲を裂き、突風を掻き乱して嵐を巻き起こしながら。


 そうして生まれた超出力の断裂剣が今、業魔へと振り下ろされた。


『ゴッガァァァーーーーーーッッ!!!』

『おおおーーーーーーッッ!!!』


 対する業魔は一切止まる事も無く。

 あろう事か光の剣へと向け、頭を突き出し突撃していく。


 そして今、至高の必殺剣が業魔の頭頂部へと打ち当たる。


『――なッ!?』

「そ、そんな馬鹿なッ!?」


 だが、斬れない!

 なんと必殺剣が頭部に塞き止められ、それ以上振り下ろしきれなかったのだ。


 それどころかぶつかり合った同時に互いに押し合う形となっていて。

 徐々にクアリオンが押され、否応にもズルズルと後退していく。


 当然だ、体格差が圧倒的過ぎるから。

 ゴッドクアリオンと業魔の体格差は明らかに十倍以上。

 その質量と出力で強引に押し切られてしまっている。


 加えてあの強靭な肉体。

 なにせ業魔は〝空の底〟に耐えうる程の堅牢さを誇っているだろうから。


 それこそ神鉄でなければ貫く事など不可能と言えるだろう。


 しかしクアリオンは全身が霊銀製。

 神鉄と比べれば強度が遥かに劣ってしまう。

 だからこそ、あの必殺剣の力が加わってもなお貫く事が出来ないんだ……!


『うお、おおッ!?』

『その程度の力で我を止められると思うたか!? 片腹痛いわ鉄屑がァァァーーー!』


 それだけの堅牢さを誇るからこそ。

 業魔の装甲はもはや、あの聖剣にも匹敵する程の破壊力を誇る。

 故に、この結果は必然だったのかもしれない。


 剣が砕け、クアリオンが弾き飛ばされるという結果に至るのは。


 しかもそれどころか、業魔はその一瞬でクアリオンを噛み掴んでいて。

 その圧倒的な咬合力によって腰部を潰し、砕いていく。

 あの強固なはずの装甲をまるで紙の様に軽々と。


『ぐあああーーーーーーッッ!!!』


 それまでの強度差があるんだ、クアリオンと業魔の間には……ッ!

 これじゃあ本当に玩具遊びじゃあないかッ!!


 これじゃあ、勇気なんて何の意味も――


『それは違うぞ、同志よ』

『ッ!?』


 するとその時、クアリオンの穏やかな声が俺達の心に響いた。


 恐らく俺の心の叫びが不意に通信波へと乗ってしまったからだろう。

 クアリオンにも【輝操(アークル)報繋(カムーク)】が備わっているから。


『勇気とは不可能を可能にする特別な心だ。例え劣ろうとも、叶わないと思う相手であろうとも、可能性を信じて邁進出来る。そしてそこで初めて、人は力を産むのだ。誰にも負けない、挫けない力を』

『クアリオン、お前……それを伝える為に……』

『なれば同志達よ、勇気を、その、手に。明日、を、この世、界の未来を、掴み取る為、にも――』


 徐々にその声が乏しくなっていく。

 ノイズが生まれ、言葉さえ途切れていて。

 それでもクアリオンは伝える事をも止めなかった。


 己を揺り動かすその心意気を駆け伝える為に。




『そう願う、強き、心こそが――勇気なのだからッ!!』




 例えその末に、身が真っ二つに千切られようとも。

 例え身動きが出来ない程に砕かれようとも。


 クアリオンは最期の最期まで、勇者だったのだ。


「クアリオン、お前は……ッ!」

「アークィン……」

「……勇気、か。俺はそれをずっと恐怖に耐える為の一感情としか思っていなかったよ。でもそれは違ったんだな。勇ましい事とは違うって。最後まで希望を忘れない、そんな想いを貫く事こそが〝勇気〟だったんだ」


 その姿を見て、今更ながらに思い出す。

 子どもの頃、父に〝ガムシャラとなる事が勇ではない〟なんて怒られた時を。

 あの時は本当に向こう見ずだったからわからなかったけれど。

 今更になってやっと真意に気付けたよ。


 だからありがとうクアリオン。

 俺はお前に教えられた勇気で、何とかしてみようと思う。

 例えそれが無茶な事であろうとも、勇気を忘れない為にも。


 それがきっと、アルケティも望んでいる事だろうから。


「フィー、強化魔法を頼む」

「どうするーの?」

「一旦、皆と合流する。ひとまず話はそれからだ」

「わかーた!」


 フィーの目にももう力が戻っている。

 彼女もまたクアリオンに奮い立たされたのだろう。

 あいつの犠牲は無駄じゃなかったって事だ。


 なら他の皆も同じハズだ。

 なんたって俺達は銀麗騎志団、一蓮托生の怖いもの知らずだからな!


『皆、今からクアリオンの残骸の所へと集まってくれ! これから業魔を――アルケティを倒すッ!!』


 なお業魔は今、クアリオンへの興味を失くして周囲の兵士達を襲い始めている。


 辛い所だが、逆に今がチャンスだ。

 ならばと合流を伝え、全速力で駆け抜ける。


 なんとしてでも業魔を止める為にも。

 この世界の危機を乗り越える為にも。


 ただし、成すのは輝操術でも父の教えでもない。




 今こそ銀麗騎志団全員の力が必要不可欠なんだ。

 それこそがこの圧倒的劣勢を覆す唯一の()()なのだから。


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