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第122話 超生物出現

 突如としてヴァウラール城が崩壊し、中から巨大な獣が姿を現した。

 それはまるで卵から孵った幼獣の如く。


 しかしその禍々しい様相を前に、誰しもが恐怖を抱かずにはいられない。

 それだけの畏怖たる波動を周囲へと撒き散らしていたが故に。


 そしてそれは俺達も例外では無かった。

 ノオン達もがその姿を目の当たりにしていたから。


『アークィン、あれは一体何なんだいッ!?』

『あんなのが出るなんて聞いてねぇぞおッ!?』


 ただ、輝操術を通して聴こえて来る仲間の声に反応する事さえままならない。

 それだけ俺は必死にフィーとジェオスを抱えて走っていたから。

 更にはパニックとなったテッシャや兵士達をも巻き込んで。


 そんな兵士達へとジェオスを放り投げる。

 こうして身軽となった所でようやく余裕を取り戻す事が出来た。


『あれはアルケティだ! よくわからんが何かを打った途端にああして巨大化したんだッ!!』

『な、なんだって!?』

『あれが人だっていうのかい!? でもあれはまるで――』


 けどこうして余裕と冷静さを取り戻した事で初めて事実が見えて来る。

 マオの推測なんて聞くまでも無く。


 あの巨大な姿。

 あの禍々しさ。

 そして滲んでくる圧倒的な破滅感。


 あれはいけないものだ。

 この世界に存在してはならないものだ。

 あんなものを放置したら、世界は――


「グフォォォ……!」

「ううッ!?」


 そんな焦りに身を投じていた時、場に唸りが上がる。

 堪らず耳を塞ぎたくなってしまう程の振動と共に。


 あの巨大な獣がたった一呼吸をしただけで。


 それで振り返って見れば、もう増殖は終わっていて。

 形が整い始め、ますます禍々しさに拍車を掛けていく。


 その巨体は既に元の城を遥かに凌駕する程になっていた。

 更には脚が六本に分かれ、尾は炎の様に揺らめき伸びている。

 それどころか体毛からは焔の如き赤黒いオーラを放ち続けているという。


 そしてその頭部はまるで邪狼の如し。

 しかし眼を四つも持ち、いずれもが鋭く殺意に塗れていて。

 その突き出した口には短くも鋭利な乱杭歯を無数に並べられていた。


 そうだ、この様相はもはや人ならざる者だ。

 それでいて圧倒的な恐怖を植え付けるまでの絶対者。


 俺達はその存在を、恐ろしさを、今でも知り続けている。




『あれはまるで――伝説の【業魔】じゃないかッ!!』




 そう思わざるを得なかったんだ。

 それだけの畏怖を撒き散らした存在が突如として鎮座したのだから。

 しかもその現れ方もが拍車を掛けて。


 結果、場にいた者全てが注目し、その手を堪らず止める事となる。

 たちまち恐怖し、逃げる者さえ出しながら。


 ただ、逃げても意味は無いのかもしれない。

 もし皆の前に現れたあの存在が伝説上の悪魔なのならば。


 世界を八つ裂きにしたあの業魔ならば、逃げ場など存在しないのだから。


『クフゥゥゥ……我が名はアルケティ、つい先までこの国の帝だった者……』

「「「しゃ、喋った!?」」」


 その様な怪物が今、大気を振動させて声を発した。

 それも思念波を伴う、脳に直接届く低音の声が。

 城から逃げていた俺達の足まで止めさせる程の威圧感を以って。


 そんな注目を受ける中、奴の首がゆるりと周囲を見渡していて。


『だがこの世界の醜さに絶望し、今こそ業魔となった……! 貴様等ヒトが、我の再臨を阻むという愚かな幻想を抱き続けて来たが故に……! そうだ、混血排斥などという浅はかな手段が我を呼んだのだッ!!』


 まるでこの場にいる者全てを一望とするかの様だった。

 今述べた事を誰一人として逃さず伝える為にと。




 そう、推測は決して外れてはいない。

 アルケティは自ら宣った通り、伝説の業魔へと進化したんだ……ッ!!




 つまり、あのシリンジの中に入っていたのは業魔への進化薬。

〝空の底〟に抗う為に古代人が生み出した英知の結晶だったのだろう。


 だとすれば恐らく、理性があるのは今だけだ。

 だからこんな虚実を誇張する様な事を敢えて今放ったのだろう。

 そうやって今この場にいる全ての者に事実だと思い込ませる為に。


 けどそんな真偽などもはや関係無い。

 もしこれで時間を置いて、アルケティが理性を失ったならば。


 その時、世界がまた八つ裂きにされかねない。


 となればそれこそ伝説の再臨だ。

 それどころか今度は本当に世界が滅ぼされるかもしれない。

 三年など待つまでもなく、今すぐに。


 だから止めなくては。

 何としてでも奴を止めなければならない……!


 きっと兵士達の誰しもがそう思ったに違いない。

 この大陸を、国を誰よりも愛する者達だからこそ。

 だからこそこぞって槍や剣を掲げ、踏み出そうとしていて。


『なれば我が絶望を知れ! これが業魔、神をも恐れし力だと! クゥオオオ……ッ!!』

「あ、あれは――まずいッッッ!!!」


 だがそんなちっぽけな意志など所詮、奴の前には一切無力だった。




 この時、業魔の口から光が迸ったのだ。

 戦場を、世界を包まんばかりの閃光と共に。


 全ての音が掻き消されんばかりの轟音を伴って。




 皆、何が起きたのかわからなかっただろう。

 それだけ一瞬で、それでいて圧倒的で。

 その光に巻き込まれた者は誰一人として気付きさえしなかったに違いない。


 己がこの世界から消し飛ばされた事に。


 それだけの光が、一閃が、大陸を縦に斬り裂いていたのだ。 

 たちまち周囲に烈風を吹き荒らし、融解した金砂を撒き散らしながら。

 そうして熱嵐となり、巻き込まなかった者達でさえ苦痛を伴わせて。

 瞬く間にそれさえも吹き飛び、耐えた者達が立ち尽くす。


 景色の遥か先まで断裂された大地の傷痕を前にして。


 そして俺はその傷跡から離れていたからこそ、今の威力を垣間見てしまった。

 今の一撃はもはや、人知を超え過ぎていたのだと。

 何故ならば。




 大地の傷痕、その底にはなんと雲が見えていたのだから。

 そう、紛れもない〝空の底〟が。




 これはつまり、黄空界の半分が切り裂かれたという事に他ならない。

 しかもたった一撃、たった一瞬で。


 この現実が俺達を絶望へと叩き込む。

 こんな物に抗える訳がないと思わせる程に。

 それ程までの圧倒的存在が今、ここに再び顕現したのだ。


 只の人では決して敵わない、真に究極の超生物として。


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