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第119話 猛者の壁

 テッシャが囮となった事で道が拓けた。

 後は城内を堂々と突き進み、アルケティの下へと辿り着くだけだ。


 外から直接なんて野暮な事はしないさ。

 今回は曲がりなりにも戦争だからな。

 正面突破で到達する事に意義があるんだ。


 しかしそうもなれば加減など不要。

 城内を縦横無尽に駆け飛び回り、次々に兵士達を薙ぎ払っていく。

 まるで嵐の如く、誰の目にも止まらない程の速度で。


 これもフィーの強化魔法のお陰だ。

 相変わらず彼女の魔法の力は意味がわからないくらいに効果的だな。


 ただデメリットとして、強化中はネコ耳と尻尾が増える訳だけども。

 合わせて耳四つに尻尾二本とビジュアル的に頂けないのが難点か。


 とはいえその成果は絶大で、瞬く間に一階フロアを制圧出来た。


 アルケティが居るのは恐らく三階。

 だから後は二階を制圧するだけで攻略完了となる。

 となれば思っていたより事は早く済むかもしれない。


 そんな期待を抱きつつ、フィーを担いで二階へ突き進む。

 抵抗も無い辺り、拠点防衛戦力は恐らくこれだけなのだろう。

 このまま何事も無くアルケティの下へと辿り着ければいいのだが。


 けど、どうやらそう上手くもいかないらしい。


 なんたって二階へと辿り着いた途端、異様な気配が漂ってきたからな。

 肌を擦り、突き抜けていく様な感覚が。

 いわゆる殺気という奴だ。


 道は一本、階段を抜けた先に大扉が見える。

 気配はその扉の先から漂ってきている様だ。

 恐らく、俺の存在にもう気付いているのだろうさ。


 だからこそ、俺は堂々と扉を開く。

 そこまで存在感を示す相手にコソコソする同義など無いのだから。


 そうして先を露わとした時、広間の中にそいつはいた。

 一人の男が腕を組み、威風堂々と立ち塞がっていたのだ。


 なりからして、種族は恐らく狼人(コボルト)族。 

 それでいて極短毛であり、屈強武骨な人型体格を見せつけている。

 加えて丈の短い衣服と皮鎧を身に着け、強靭さを引き立たせるかのよう。

 更には背中から八つの槍が扇状に伸び立っているという。


 そして俺が現れようとも一切動じる事が無かった。


「お前が、最後の砦か?」

「そうだ。我こそがこのヴァウラール帝国の盾にして矛。その名を【九本槍のジェオス】なりィ……!」


 言葉一つ一つからも戦意が溢れ出て来る。

 それにこの闘気……紛れも無い、コイツは達人クラスだ。

 しかも相応に場数を踏んで来た歴戦の猛者としての。


 その立ち振る舞いからもう既に察せる。

 コイツは間違いなく強い、とな……!


「貴様の事は帝殿より聞いている。様々な大陸にて猛威を奮った新鋭気鋭の戦士であると。そう聞いた時から一度手合わせしたいと思うておったのだァ」

「なるほどな、戦いそのものを求める武人という訳か」

「然ァり。故に我が槍が疼いて止まらぬ。貴様の血を啜りたいとなァ……!」


 おまけに相応の戦闘狂ときたか。

 となれば、どうにも戦いは避けられなさそうだ。


 故にフィーを降ろし、部屋の隅、柱の陰へと隠れるよう仕向ける。

 下手に参戦すれば彼女の命が危ないからこそ。


 この手の相手は戦いの作法に拘るからな。

 余計な事をすれば怖いが、逆に正々堂々と戦えば相手に集中してくれる。

 なのでこうして一対一を演出すれば何の憂いも無くなる訳だ。

 それに俺としてもその方がずっと戦い易い。


 だからと強化魔法を解いて剣を抜く。


「構えに意在り、気骨は相応――貴様、なかなかの手練れと見たァ。その若さにして古参が如き気迫を感じるぞォ……!?」

「あぁ、幼い頃から死ぬほどの鍛錬を積んで来たからな」


 しかし奴は未だ背中の槍を抜こうとはしない。

 それだけの自信があるのか、それともまだ気が乗らないか。


 それとも、これが奴の戦術か。


 とすれば下手にこちらから手を出すのは危険か。

 奴の実力を見極めなければ切り札を切る訳にもいかない。


「アンタこそかなり出来る様じゃないか。けど〝九本槍〟っていうのは一体どうなんだ? 見た感じ、八本にしか見えないんだが?」


 故にこうして揺さぶりをかける。

 相手の出方を確かめ、あわよくば見定める為に。


 けど、どうやら出方を伺う必要など無かったらしい。


「ククッ、そうだとも。我は八本の槍しか使わぬ。だがしかしなァ……九本目はもう目の前に、もうあるんだよォーーーッ!!」

「ううッ!?」

「我こそがァ! 九本目ッ!! 何者をも穿つ最強の槍よォーーーッ!!」


 今のやり取りの間も無く、奴が突っ込んで来たのだ。

 それも高速で一本の槍を抜きながら。


 しかも直後、怒涛の高速突きが見舞われる事に。


「かあああーーーッ!!」

「うおおおーーーッ!?」


 速い!

 なんて突き速度なんだッ!!

 これはまるで父の槍捌きにも足る連突じゃないかッ!?


 決して油断はしていなかった。

 相応の実力を見せて来るだろうとは考えていた。


 だがこれは予想以上だ!

 まさかこれ程の実力者が他にいるなんてッ!?


 それだけの実力を見せたが故に、俺はもう凌ぐので精一杯だった。

 剣を盾にして、予測と経験でいなし、躱し、受け流す。

 背後の壁が削り取られていく中で。


 ただ見切れない訳ではない。

 だからこそ隙を見て槍を打ち、連突の体勢を崩す。

 その上で蹴りを見舞い、ジェオスを先へと叩き出した。


 とはいえその蹴りはしっかりと防がれ、ダメージは無かったが。

 おまけに好機を失ったからか、既に間合いを離していて。


 これは機運を見切る力がとても優れている証拠だ。

 かなりの戦闘経験が無いとこうまでは動けない。

 未熟者なら押していると勘違いし、深く踏み込んでくるだろうからな。


「ほほう、今の連撃を防ぐか。やはり貴様、聞いていた以上に面白い……!」

「俺もアンタに興味が湧いたよ。これだけの実力、やはり只者じゃないってな」


 実際、そう仕向けたのに攻めてこなかった。

 俺が防戦に徹していた事を読んでいたのだろう。

 それにこうして余裕綽々で口を挟む辺り、まだ加減しているに違いない。


 その実力が究極へ至ったと誇るが故に。


「当然よ。我が槍はかの武聖ウーイールーに並ぶと自負しておるッ!!」

「なに……ッ!?」

「かの方の実力を垣間見た上で学び、模倣し、その上で手足として自在に操れる程までに至ったァ!」」


 そう、奴の槍の腕前はまさに我が父と同等だったのだ。

 武の極み、槍術極意の頂点へと立っているのである。


 この世界において武の極みへと達する事は決して難しくない。

 それは肉体の能力向上に一定の上限があるから。

 身体強化手段がありふれている今だからこその現実だ。


 そして後は武器や魔法を奮う為の技術を極めればいい。

 それだけで頂点へと登り詰める事が出来るだろう。


 だから父は全てを極めた。

 その上で余りにも簡単に極められてしまう現実に打ちのめされたのだ。

 自身では新たなる領域へと踏み入れる事が出来ないと知って。


 なのでこのジェオスの様に「極めた」と宣言する事に偽りは無い。

 槍の実力だけならば間違いなく父と同等と言えるのだから。


「さすればこの実力を以って武聖の伝説を掃おうッ!! この我こそが最強に相応しいと名を馳せる事によってェ!! 然らば貴様などォ、只の踏み台にしか過ぎぬゥ!!」


 ――だが!

 我が父そのものを越えるという言葉だけは聞き捨てならんな……!


 武聖ウーイールーは猛き者であり、何より純粋だった。

 このジェオスなどとは比べ物にならない程、武に対して一途だったのだ。


 俺に武を極める最も効率的な手段を叩き込む程にな。


 その父を知る俺からすれば、コイツなど槍しか触れぬ半端者にしか見えん。

 そのような半端者が、全てを極めた父を越えるだと!?


 こんな冗談、俺が許す訳無かろうが……!


「いいだろう。そう宣うのであれば見せてもらうぞ、お前の実力を。俺がこの手で、あの方との差を見極めてやる……ッ!!」

「何ィ……!?」


 奴の実力の底は見えた。

 ならば、ここからは俺が実力を見せつける番だ。


 ただし、披露した先で生きて居られる保証は無いがな。


 悪いがもう加減するつもりは無い。

 ここまで言われたのならば望み通り見せつけてやるとしよう。


 あの我が父もが怖れた輝操術の真の戦い方を。




 輝操術の真髄――【輝操闘法(アークルアーツ)】の力をもってな……ッ!!


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