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第116話 よりよい未来の為の決別

 歴史を歪めさせた人の業。

 それを自らの犠牲を以って終わらせる。

 アルケティは俺に対してそうハッキリと宣言したんだ。


 その覚悟を前に、俺はただただ絶句するばかりだった。


 これも一つの救世なのだろう。

 世界の滅びを防ぐ事とは違う、未来を案じての。


 この男ほど未来へと実直に向き合った者はいるだろうか。

 それも帰還するかもわからない仲間の為に、そしてこれからの世界の為にと。


 いや、知る限りではいない。

 可能性があるとすればエルナーシェ姫くらいだろう。

 彼女もまた世界の為にその身を投げ出したというから。


 しかしその人ももういない。

 だとすればこの世界を真に救済出来るのはもうこのアルケティだけだ。


 そう悟ったからだろう。

 俺は今、彼に対して一切の敵意を失っていた。

 

 共感してしまったんだ。

 世界を変えようとする覚悟、その責任感の強さに。

 これが帝と呼ばれる者の存在感なのかと感銘さえ受けて。


 この男は今まで会って来た誰とも違う。

 皇帝でさえもここまでの威厳は無かった。

 バウカンやブブルクなど以ての外、虚像では現しきれない存在感がここにある。


 これならあの少年神が同等と扱うのもわかる気がするよ。

 長生きをすれば人はここまで象徴的になれるものなのだな。


「そうか……お陰でなんとなくだが、貴方の覚悟を見定められた気がする」

「わかってくれてありがとう。私もとても嬉しいよ、君の様な人に理解してもらえた事がね」


 ここまでの意志を見せた者を俺は心より尊敬する。

 例え目的が如何に残酷な所業となろうとも関係は無い。


 己の為ではなく、人の為に事を成す。

 その志の目指す先は同じ、平和な世界なのだから。


 それに、同じ境遇ならきっと俺も同じ事をしたかもしれない。

 全ての悪を一挙に滅ぼす為には犠牲も仕方のない事なのだと。


 俺はエルナーシェ姫とは違うから。

 悪人を滅する為ならば暴力は厭わないとさえ思っている。

 それこそアルケティと同様、最悪の場合は犠牲も払うつもりでな。


 だからこそ俺とアルケティは似た者同士なのかもしれない。


「……そうだね、私達はとても似ていると思う。ただし君の行いは私が考えていた粛清手段よりもずっとセンセーショナルだったけれど。バウカンを追い詰めた事も、ブブルクら強硬派への仕打ちも」

「奴等の行動には一切の義が無かった。だからああなって当然の事さ」


 そう思えたからだろうな。

 気付けばまるで友達と話すかの如く思いの丈をぶつけていた。

 赤空界や緑空界の出来事を思い出し、熱意のままに握り拳まで作って。


 そんな俺にアルケティも「ははは」と笑って手拍子を打っていた。

 〝その気持ちとてもよくわかるよ〟なんて言いたそうな具合に。


「それをすんなりと実行出来る君もまた特別な存在なんだ。十賢者のミルダ殿から聞いたよ、『アークル』という力の事を。詳しくはわからないが、現存するどの術にも属さない創造の力という事じゃないか」

「やはり知っていたか。そう、それが俺だけに与えられた力だ。そしてそれはこの世界においてのカテゴリエラー的な能力だと聞いたよ」


 ならこうして輝操術の事を語るのも吝かでは無い。

 予めミルダ殿からも聞いていたというのなら尚の事。


 それに、古代人ならばきっとあの少年神の事も知っているだろうから。


「そうか……つまり君は()とも会ったんだね」

「あぁ。輝操術で強引に理を引き裂いてな」

「なるほど、それが君の力の本領という訳か」


 だからこうして一つ匂わせるだけでこうして気付いてくれる。

 とても話し易い、信頼していい相手だと思う。


 それこそ友人と呼んでいい程に。


「……なぁアルケティ、俺にも何か協力出来ないだろうか? 輝操術でならきっと役に立つハズだ。何だったら汚れ仕事を引き受けたって構わない」


 そう思いたかったんだ。

 アルケティという存在はそれだけ理想が近かったから。


 ノオン達とはまた違う、ずっと請い願ってきた〝親友〟として。




「いいや、君は私と共に歩んではいけないよ」




 けど、その想いは間も無くアルケティ自身によって払われる事となる。


 それも決して俺の想いを無碍にする為ではない。

 あくまでも己の信念と、()()()()未来を願うが故に。


 その志は既に、信頼したいという願いさえも超えた所にあったのだ。


「君の力はとても強大だ。そして可能性を多く秘めている。ならばその力で成せる未来を掴み取るべきなんだ。そう、エルナーシェ姫やマルディオン皇帝がそうしようとしたのと同様にね」

「だが俺はお前の理想が正しいと思って――」

「違う、そうじゃないんだ。考えても見て欲しい。例え君が私の理想を汲んで協力したとして、君の仲間達が私を否定したらどうする?」


 きっとアルケティにとっても苦渋の決断だったに違いない。

 首を横に振る様子はとても苦しそうだったから。

 歯を噛み締め、俺を無理矢理引き離そうとする様で。


「それは……俺が説得してみせる! アルケティの願う未来は紛れもなく本物なのだと!」

「そうだね、君なら強引にでも仲間を説得してしまいそうだ。でも君の仲間達のその友人、家族達となればどうだろうか?」

「ううっ!?」


 そう、アルケティにとっては全てが苦痛なんだ。

 俺だけでなく、俺の仲間達をも想ってくれているから。

 いや、きっと恐らくはこれから消そうとしている者達に対しても。


 そして、その全てを受け入れる事など不可能だとわかっているからこそ。


「そうやって手当たり次第に拾っていけば、いずれ誰もが切り離せなくなる。それでは私が願う理想の未来にはいつまでたっても辿り着けないんだ。だから私は切り離さなくてはならない。例え君の信頼する仲間達であろうとも!」

「そんな……ッ!!」

「だから君は、私が願う以上の理想を追わなければならないッ!!」

「――ッ!?」


 だからアルケティは俺と会いたかったんだ。

 出会って、話して、在り方を知って。

 その上で皇帝やエルナーシェ姫に続く存在かどうかを確かめたかった。


 単に、誰も殺さずに済む未来へと進みたいからこそ。


「……君にはそんなより良い未来を掴める可能性があるんだ。知識だけの非力な私と違ってね。だからこそ君には私と争って欲しい。どちらの理想が正しいのか、私達がこれからどうするべきなのかを決める為にも」

「アルケティ……」


 その末にアルケティは認めてくれたんだ。

 己の理想、人類選別計画を止めるべき最期の存在として。


「でも争うと言っても殺し合う訳じゃない。互いに勝負の方法を決めればいいんだ。例えば君がこの部屋へと再び辿り着いたら私の負け、とかね」

「そして負けた方は勝った方の理想に従う、って事か」

「そう。それなら私も諦めが付くし、君なら私以上の成果を出す事が出来るだろうと信じている。しかしその眼鏡に叶わなければ、私は君の仲間達を切り離そう」

「なら、負けられないな……」

「それでいいんだ。私になど負けてはいけないよ。エルナーシェ姫がそうしようしていたのと同じ様に」


 故に今、アルケティは俺へと手を差し伸べていた。

 まるで友としての約束を交わそうと言わんばかりに。


 なら俺も応えよう。

 彼が願う真の平和を叶える為に。

 誰も犠牲にしない、彼をも失わせない、笑い合える明日の為に。


 互いに手を取り合い、強く握り締めて。




 こうして俺達は一つの誓いを交わす。

 来たるべき時、互いの信念を賭けて戦うという事を。

 その勝利者が世界を正しく導く事を切に願って。


 その約束の後、俺は帝都を後にした。


 今日の出来事は仲間達にだけ語るつもりだ。

 もちろんアルケティが信用出来る事も含めて。

 そして戦いは決して避けられないという事実も包み隠さずに。


 しかしやるならば全力で立ち向かうとしよう。

 それこそがアルケティの想いに応えられる唯一の手段なのだから。


 血に定められない、全ての人の未来の為にも。


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