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第114話 混血融和計画、そして――

 奴隷工場にて生み出された子供達が希望。

 たったそれだけを聞かされても恐らく理解には及ばないだろう。


 にも拘らず、アルケティは微笑みのままに惜しげもなく答えたんだ。


 ならその理由とは、真意とは一体何なのか。

 これだけは何としても尋ねなければならない。


 なぜ地獄の様な境遇を与えてまで混血を増やしたのか。

 俺やノオンの様な存在を生みだしたのか、と。


「君も混血なら重々承知しているだろう? この世界が純血主義という思想に囚われているという事を」

「あぁ。俺達もここまでその思想にどれだけ苦しめられてきた事か。例え混血でも個性はあるし、感情は変わらないハズなのにな」

「その通り。〝混血だから〟などという考えだけで差別するのはとても短絡的な事なんだ。けど人は業魔という存在を目の当たりにし、混血という存在を誤解したまま世代を進めてしまった。深く考える事を放棄して」


 しかしその発端はと言えば、とても()()()()だった。

 混血が抱いているであろう感情を汲み取ったかの様な。


 こう言えたのは恐らく、古代人ゆえの知識があるからなのだろう。

 業魔の起こした悲劇と、そこに絡んだ人の思惑と。

 そして神の与えた慈悲が仇となり、混血という被害者が生まれたと。


 つまりアルケティはその生き証人なのだ。

 長い歴史をその眼で見続け、真実を抱え込んで来たという。


 では何故その秘密を明かさない?

 全人類が事実を知れば認識を改めるのではないだろうか。


 ――なんて思えるものなのだが。

 残念ながら世界はそんなに単純ではないんだ。

 

「こうなるともう真実なんてどうでもよくなってしまうのさ。人は感情と労苦、怨恨と利己に浸り、仮想敵を生んで欲望へと回帰させる。その末に真実さえ塗り潰し、虚実を正とする事に悦び悶える事になる。単に、己を満足させる為にと」

「今さら真実を語った所で誰も耳を貸さないって事だな」

「そう。むしろ対感情が悪化する事さえあるだろう。自分達の罪を憂う余りに、そういった話は嘘だと吹聴し、なかった事にしようとして。場合によってはかの緑空界の様な虐殺事が起きるかもしれない。……いや、あれはむしろその兆候だったのかもね」


 それだけ単純だったらどれほど良かった事か。


 でも世界には何千何万という人がいて、皆が異なる思考を持つ。

 それも皆が確固たる意志を持って。


 例えその一人を説得出来た所で、残りが納得出来なければ意味がない。

 おまけに考え方が異なるから、少し思想が違えただけで拒否される事もある。

 その複雑さはもはや古代人や神が制御出来る規模を越えているんだ。


 そんな中に〝通説〟と真逆の事実を放り込んでも、すぐ消え失せる事だろう。


 それは〝混血が悪〟という思想が余りにも一般的過ぎるから。

 子どもでさえわかりやすい〝敵の創り方〟としてな。


「だから私はまず混血をより一般的になる様にと増やす事にしたのさ。例え非合法でも構わない。とにかくその数を増やし、認知させ、人となんら変わらない事を証明させる。彼等が例え犯罪に走ろうとも、数さえ増えればいずれは融和していくから」

「待て、それでは逆に悪感情を膨らませるだけになるだろう! いずれ必要以上に忌避されて迫害され、真の虐殺が増える事になるッ!!」

「あぁそうさ。今までもそうだった様に、ただ混血を増やすだけでは何の解決にも及ばない。だからこそ君達の様な存在が必要だったんだ」

「ッ!?」


 しかしアルケティはその思想そのものを消そうとしている。

 それも決して覆すのではなく、溶かして自然消滅させる事で。


 混血が悪ではない――そう思わせる存在を立てる事によって。


「そう、英雄だよ。人心は英雄という象徴に弱いからね。彼等の心を揺り動かすには世界を変える程の力を持つ混血児が必要不可欠だったんだ。だから私はその種を撒き続けた。例えば、ステージ2である事を隠して英才教育を施した宰相の子とか」


 これは詰まる所、ノオンの事だ。

 彼女が今も生きているのはつまり、アルケティが英雄に仕立てたかったから。

 それで皇帝とも意思を合わせ、敢えて見逃したという事なのだろう。


「他にも賢者の一人に面倒を頼み、知識を育ませたりもしたよ」


 だとすればこれはマオだな。

 恐らく彼女の師匠もアルケティと何らかの接点があったんだ。

 それで英雄の一人とする為に地位も知識も託して育て上げようとした。


「エルフとドワーフの相の子が生まれた時、私は歓喜したよ。これこそが兆しなのだとね。だから支援は惜しまなかった。その親二人がいなくなったのは残念でならなかったけれど」


 今度はクアリオとミラリアか。

 確かに、二人の境遇は奇跡と言えるからな。

 それでも不幸に至ったのは単に、ブブルク達を制御しきれなかったからだろう。


「あと私の同胞の一人も協力してくれた。〝面白そうだから私も一枚噛ませろ〟なんて言っては自らの身体を差し出し、元グゥマ国王の世継ぎを産んだんだ。数日後には元気に出産報告までしてくれたよ」


 とするとこれはテッシャである可能性も大きい。

 こちらに限っては対象が多過ぎて確証はないけども。

 ただ少なくとも、敵味方に関係無く混血を増やそうという姿勢に変わりはない。


「後はそんな英雄候補達が育ち、世界の認識を改めてくれる事を信じて待ち続けた。いつか全人類平等の世界が来ると願って」


 これだけの事を数十年前からずっと試し続けて来たのだろう。

 それも何千年も試行錯誤しながら、最善の方法を探して。


 けどこれでもまだ完璧とは言い難い。

 人は時にその英雄にだって牙を剥く事があるのだから。


「それでも人は戦うぞ。例え英雄であろうと己のアイデンティティを守る為なら恐らく、命さえ賭してな」


 それは利権という甘い汁がこの世にあり続ける限り。

 戦いという手段が人々の心に染み付いている限り。


 ――人はきっと変わろうとはしないだろう。

 少しづつ変わる事は出来ても、そのバランスが崩れる事はない。

 それこそ、事を複雑にした三千年という歴史にも足る年月を掛けなければ。


 人は必ず、過去を振り返る生き物だから。


「そうだね、君の言う通りだ。きっと戦う事を知った人はいずれ混血達に争いを挑むだろう。そして弱い混血達はまた数を減らし、ふりだしへと戻るだろうね」 

「それがわかっているなら何故――」

「ならその根源を消せばいい」

「――えッ!?」


 だがもし過去に振り向かせなければどうだろうか。

 皆が未来だけを見て手を取り合う、そんな者だけになったならば。


 しかもそんな夢物語にも足る事が出来るのならば。

 

「だから私は選別する事にしたんだ。争う者、平和を望む者を切り分け、未来を創造するに足る存在をより多く残す為に。まずはこの黄空界でね」

「どういう事だッ!?」


 そしてその計画はもう既に着実と進んでいる。

 レジスタンス達が知らない間に秤で測られる事で。


 己の心の在り方という重しを以って。




「戦いを望む者はこの世に不要だという事さ。それが例え臣民であろうとも」




 そしてその秤の鎖には既に刃が掛けられていたんだ。

 あろう事か「不要」のレッテルを貼られた者達の盆鎖へと向けて。


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