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第110話 レジスタンス

 テッシャが意を決して王位を継ぐと決めた。

 その末に銀麗騎志団と別れる事になるかもしれないと悟った上で。

 だからか、そう覚悟した時の彼女はもうどこか凛々しく感じたものだ。


 そこで俺達は一旦、話の場を移す事にした。

 エロ爺もとい、元グゥマ光王国宰相パパムの計らいによって。


 そうして一刻を掛けて移動したのが【接続都市シャウシュミ】。

 この大陸を支配する【ヴァウラール帝国】首都へと経由する一都市だ。

 なんでも、ここにパパムの住処があるのだそうで。


 ただし、待っていたのは決して普通の家などでは無かったが。


 俺達が誘われたのはなんとレジスタンスの拠点。

 帝国に真っ向から相対する組織の本部だったんだ。

 

 パパムは最初からここに連れて来るつもりだったのだろう。

 俺達、銀麗騎志団に反乱の御旗をかざしてもらう為にと。

 それも赤空界、緑空界を解放した英雄としてな。


 つまり、実績から得たネームバリューを利用しようという魂胆なのだ。


「しばしこの部屋でおくつろぎくだされ。姫しゃまのお召し替えをして参りますゆえ」


 その道筋にまんまと乗せられたからだろうか。

 パパム爺の笑顔がやたらと輝いている様に見える。

 そして俺達を大きな一室に誘うや否や、飛び跳ねながらテッシャを連れて行った。


 どこまで調子の良い奴なんだ、あのジジィは。


「なんだか巧く口車に乗せられた感じで釈然としないねぇ」

「うん。テッシャが〝ロクな目に遭わない〟って言ったのも納得出来る気がするよ」


 一方の俺達はと言えば、満場一致で納得していない。

 例え世界を救う為とはいえ、いささか事を急ぎ過ぎたのではないかと。


 というのも、未だレジスタンスの大義が見えないからだ。


 ここに至るまでに、パパムから何度も反乱の重要性を説かれた。

 「帝国を討たずして祖国の復興無し」なんて口酸っぱくな。

 その情熱だけは激しく感じるくらいに。


 けど、だから理に適っているかといえばそれは違う。

 何故なら、その祖国とやらは別に帝国の所為で滅んだ訳ではないのだから。


 マオ曰く、【グゥマ光王国】は時と共に自然消滅したのだという。

 他の亜人国ともども線香花火の如く。

 急激に盛り返した弱小国【ヴァウラール帝国】の存在感に押されてな。


 特に小競り合いさえする事も無く、人心が離れた結果だったそうだ。

 つまり時代に淘汰されたという訳だな。


 なのに帝国への恨みつらみを向けるのは理不尽とさえ言える。

 皆もそう結論付けたからこそ納得出来ないんだ。


 それに、実はもう一つ理由がある。


 シャウシュミに訪れた時、自然と俺達は気付かされたんだ。

 この国が抱える特異な二面性にな。


 まず、やたらと熱心な帝国信奉者が多い。

 一部の市民が集まり、帝国の国旗に祈りを捧げるくらいにな。

 それも身体全体で拝み倒すまで一心にと。


 これは国によほどの信頼性が無ければ成し得ない光景だ。

 洗脳されているならまだしも。

 でもそういった風どころか、皆生き生きとしていたものさ。

 恐らく、それだけの安心感を国から得ているのだろう。


 ただその一方で、レジスタンスという組織を〝黙認〟している。


 あのジジィの高説は街に入った時も止まらなかったものだ。

 まるで誰に聞かれても構わんと言った風でな。


 けど憲兵がそれを聞いても決して取り締まろうとしない。

 拝んでいた市民が耳にしようとも通報したりはしないんだ。

 もちろん聴こえていないって訳でもないのにさ。


 お陰で今、俺達は悩みに悩んで頭を抱えている。

 帝国を信奉しながら反乱を許す、このちぐはぐな関係性に疑問しか沸かなくて。


 帝国とレジスタンス、一体どちらが正しいのか――ってな。


「皆様、お待たせしもうした」


 そんな悩みが解決しないまま、再びパパムが姿を現す。

 それも得意げに胸を張る様にして。


 なら続くのはやはりあのテッシャかな、なんて思ってたんだけどな。




 だけど現れたのは、想像もしなかった絶世の美女だったんだ。




 煌めきを放つ長い黄髪が腰にまで柔らかに流れ、歩く度にふわりと跳ねて。

 化粧に彩られた茶褐色の微笑みは悩みさえ溶かし尽くす程に優しい。

 身には金で彩られて輝く衣装を纏い、裾をそっと揺らして歩を進ませる。


 その姿だけで尊大な威厳と包容力を感じさせながら。


「皆ひれ伏しなさい。我はテッシャ、次代の王となる者ぞ」

「冗談は姿だけにしておこうか」

「いらぁい! ほっぺつねらないれぇ!!」


 でも中身はやっぱりテッシャだった。

 ぱっと見はそれっぽかったけど俺達の目は誤魔化せないぞ。


「テッシャ様は形から入るタイプなのですじゃ」

「知ってた。機空船内で散々ミイラになってたから知ってた」


 まぁ調子に乗るともわかっていたからな。

 しかしいささかやり過ぎと思ったので、今まで以上に頬を伸ばしてみる。

 プニップニだぁなんて思えないくらいに強引と。


「しかしまさかアークィン殿が頬つねりする程の親密な仲だったとは。となればテッシャ様の嫁はもう決まったようなモノですな」

「婿じゃなくて嫁ってどういう事なの」

「我々のしきたりでは、性別に拘らず嫁がれる方が嫁と呼ばれるのでございますじゃ。どう考えてもテッシャ様の方が位が上ですからの」


 だが俺は決してテッシャに嫁ぐつもりなんてないぞ。

 俺にとっての頬つねりとは現実回帰の手段でしかないのだからな。

 ――にしてもやっぱりこの娘の頬はとても柔らかい。


「ではこうしてテッシャ様の威厳もお披露目出来た事ですし、早速本題に入らせて頂きましょうかの」

「その威厳は皆無だったけどな」


 で、そんなソフティな頬から指をバッチィーンと離した所で再び座に着く。

 テッシャが泣き喚こうが気にしないままに。


「もう察されているとは思いまするが、皆様には是非とも帝国との決戦に参加して頂きたく。テッシャ様を象徴とすれば必ずや再び天下を獲れることでしょう」

「そう結論付けるのは早計だろう。なにせ俺達は協力すると確約した訳ではないのだからな」

「むむむ……」


 しかしこの際テッシャは置いておく事にしよう。

 彼女はあくまでも自らのスタンスを示しただけに過ぎないのだから。

 俺達が反乱に協力すると決めたなら王位を継ぐと言っただけに過ぎないのだ。


「俺達はまだアンタらレジスタンスの大義が見えない。何故帝国とやり合おうとしているのかがな。それがわからない限り力を貸す訳にはいかん」

「そうさ。ボク達は一方的な力を見せつける為に戦っている訳ではないのだから!」


 事実として、俺達の力はこの世界においてかなり突出している。

 そんな力を無暗に奮えば多くの人が不幸となるだろう。

 結果的に国を堕とせるくらいの戦力があるだけにな。


 だからこそ、その強大な力を私利私欲の為に使う訳にはいかないんだ。

 銀麗騎志団の掲げる正義はそこまで薄っぺらくはないのだから。


「……わかりもうした。であればお教えしましょう。なぜ帝国を打破せねばならぬのか、その理由を」


 しかしだからと言って考え無しに無碍とする訳にもいかない。


 であれば聞くとしよう。

 そんな俺達に助力を請うその真意を。


 俺達が暴力という正義を奮うに足るか否か見極める為にも。


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