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第107話 お騒がせニペル

 一時間ほどの旅路を越え、俺達は【金飾都市ザウーグ】へと辿り着いた。


 ここはその名の通り、各地の彫金職人達が多く集う場所だ。

 各地から幾多の製品を持ち込み、昼夜に渡って売買を行う為に。

 なので自然と路上市場が進化し、今の街へと発展したそうな。


 ただそのお陰で競争も激しく、商売はもはや昼夜を問わない。

 故にその中で潜んだ掘り出し物を求め、常々多くの人々が歩き回っている。

 それがこの【ザウーグ】という街なのだ。


「予想以上の繁盛具合だな。金製品ってそんな売れるもんなのか」

「必要不可欠なんて言われるくらいの素材だしねぇ。量はあって使い切れないくらい需要が多いのさぁ。かくいう私も賢者見習い時代はよく師匠に言われたもんだよ。〝金を得る為のツテを作るのは魔法を考えるより難しい〟って」

「外にあれだけ素材があるのに不思議なもんだよ。そこまでして独占したいもんなのかねー。オイラにゃ金のありがたみなんて回路製作くらいしかわかんねぇや」


 にしても人が本当に多い。

 進むのを躊躇うくらいに。

 赤空界でスカイフライヤーを見た時も凄かったが。


 加えてここは埃っぽいし、なんだか臭うからちょっとキツい。

 少なくとも居心地がいいとは口が裂けても言えないな。


「やり過ぎる人がいるから困るみたいだよー。ずっと昔、一部地域を界外の富豪に買収されてね、砂を根こそぎ取られた事があったんだってー。それで当時の王様が怒って奪い返して、富豪も殺しちゃったんだってさー」

「ずいぶんとー物騒なはなーし」


 というのも、こんな逸話に相応しいとも言える殺伐とした雰囲気があるんだ。

 店員が皆、殺気立った目をしているという感じで。

 誰しも砂除けのフードを被ってるから表情も読み難いしな。


 なので気になる商品が目に映っても、足を止めたいとは思わない。

 なんたって店主が睨みつけて来るもんだから怖いのなんので。


「そういった逸話が昔から多い国だからね、ルールや法律は凄く厳しいって聞くよ! 皆の目つきが悪いのはきっと、ボクらが悪い事をしないか疑っているからだろうさ! ハッハー!」

「お前、それよくこの場で堂々と言えるな」


 ほら、こんな事言うから更に注目されてるじゃないか。

 ただでさえ混血グループで目立ってるんだから。

 このままだと視線で焼き尽くされそうなんだが?


 やめろノオン、そこでポージングして逆に目立とうとするんじゃない!

 お前の羞恥度メーター、既に振り切れているぞッ!!


「暑過ぎーて、金細工が飴に見えーてきーた……。甘味ほすぃ~」

「不味いね、フィーが早速禁断症状を起こし始めてる。どこか休める所探さないと」

「ただでさえ水分も乏しいしな。となるニペルも不味いんじゃ――あれ、ニペルの奴、どこに行ったんだ……?」

「「「えっ!?」」」


 ――などとふざけている場合など無かったんだ。

 なにせ俺達はその束の間に有り得ないミスを犯してしまっていたんだからな。


 ニペルという存在から目を離すという過ちを。


 彼女は白空界以外の世界を全く知らないという。

 おまけにあの我が強い性格ときた。

 故に好奇心だけでフラッとどこかへ行ってしまいかねない。


 そうなれば最悪、もう二度と会えなくなる可能性だってあり得る。


 搾取奴隷が横行する世の中だからな。

 特に、彼女の様に姿が整っているなら恰好の餌食となりかねん。


 故に今、俺達は即座に周囲を見回していた。

 早くニペルを見つけ出さねば大変な事になるのだと。


 けど見つからない……!

 あの鮮やかな彩りの羽根はどこでも目立ちそうなのに!

 アイツ、一体どこへ行ってしまったんだ!?


 まさかッ!? 既にもう……!?


 やり場の無い不安が脳裏を過る。

 きっと全員が同様にして。

 それだけ、皆が顔を歪ませていたから。


「どこだニペルッ!? 返事をしろおッ!!」


 いや違う。皆は悪くない。

 俺が一番見てなきゃいけなかったんだ!

 アイツが暴走する事をフィーの次によく知っているからッ!!


 なのに、なのにそれが出来なかった……ッ!!

 クッソォォォーーーッ!!!


「ニペルゥゥゥーーーーーーッッッ!!!!!」


 そんな想いが堪らず俺を叫ばせていた。

 一帯に響き渡るほど強く、高く。




「ラッラ~♪ そんな怒鳴らなくてもぉ~聴こえてまぁすゥ~~~♪」




 けどこの時、俺達の耳に届いたのはこんな緩やかな歌声で。

 それも見当違いの方から聴こえたものだから、唖然とするしかなかったんだ。


 そう、ニペルは空を飛んでいたんだよ。


 そりゃそうだよな。彼女は飛べるから。

 おまけにこうも息苦しかったら逃げ出したくもなるよ。

 だったらああやって空を飛ばないハズがなかったってね。


 ――だが、それは攫われるよりもずっと不味いぞッ!!


 そう気付いたからこそ、俺は即座に飛び上がっていた。

 それも瞬時にニペルの下へと辿り着く程に強く速く。


 更には彼女を捕まえ、即座に輝操術を展開する。

 空気と温度を隔絶する輝操(アークル)囲隔(クルセット)を。


 するとその途端、俺達の周囲で爆発が巻き起こる事に。

 周囲から炎の矢が放たれていたのだ。


 しかし囲隔(クルセット)は属性魔法に絶対的な防御性能を誇る。

 故にこの程度の魔法など意に介するまでも無い。


 お陰で二人揃って大地へ。

 ノオン達の前へと無事に着地を果たした。


「ララ?」

「ララじゃあないッ! 馬鹿かお前はッ!! 街中での飛行行為は今どきご法度なんだぞッ!?」


 にしても危ない所だった。

 あと一歩でも遅ければ今頃ニペルは焼き鳥と化していただろう。

 この街を守る【処刑執行人(フェイタルザッパー)】の手によってな。


 というのも、街中での飛行行為は一部を除き重罪だから。


 これは世界中で取り決められた共通法律である。

 機空船同様、空からのテロ行為を防ぐ為の処置として。

 なのでいざ街中で飛ぼうものならこうして迎撃される事もあり得る。

 例え躱したとしても、間も無く憲兵がやって来るだろうさ。


 ほら見ろ、早速お出ましだぞ。


「おい貴様ッ! 飛行行為は――」

「申し訳ありません! 彼女は白空界出身で人里に来るのは初めてなのです! 後で周知徹底しておくので今回は許していただきたいッ!!」

「むう……そういう事なら仕方あるまい。ただし、この街では屋上で飛び回る事を強く禁じていると覚えておく様に。二年前ほど前に土竜娘がやたらめったら穴を掘った挙句、街中を跳ね回って大騒ぎになってな、以降、取り締まりが厳しくなったんだ。故に今回は良いが次は無いと思えよ」


 ただ、だからと言って絶対に許されない訳でもない。

 今のノオンの様に礼儀正しく理由を伝えれば免除される事もある。

 街で飛び回るなんて、今言われた様なルール無用の奴くらいだし。


 にしても誰なんだ、そんなはた迷惑な事をしでかした奴は。


 何はともあれ、ノオンの機転で助かった。

 ますます周囲からの視線を貰う事になったけどな。

 まぁ、ひとまずはニペルが助かったから良しとしよう。


「あらあら、アークィンさん。いつまでお抱きになられます? 結婚するまで?」

「あ、す、すまん……」


 しかし当人は全く意にも介していない。

 それどころか抱いた俺に対してこんないじらしい言葉までぶつけてきて。

 誰の所為でこんな騒動に発展したのかさえわかっていなさそうだ。


 ――ま、まぁ抱き心地は悪くなかったけれど。

 この羽根に触れられるのはやはり気持ちイイ。


 そんな煩悩を過らせつつもニペルを降ろす。

 ついでに頬を摘まんでグリグリと回しておくとしよう。

 仲間達の気持ちを察した上でな。


「もう二度と街中で飛ぶな。いいな?」

「ふぁいぃ~~~」


 幸い当人に悪気は無いし、少なからず反省もしている。

 だから今回だけはこれくらいで済ませてやるとしよう。


 べ、別にニペルだから甘くしてるって訳じゃないないんだからなっ!


 さてと。

 随分注目されてしまったし、ここは一旦離れたい所だ。

 下手に目立てば俺達の存在がバレてしまいかねない。

 緑空界での犯行はまだ解消していないハズだしな。


 それで足早に立ち去ろうと仲間達に合図を送って。

 皆も察してくれた様で、揃って早速と駆け出した。


 しかしその直後、俺達はその足を止められる事となる。

 突如として小さな影が立ちはだかった事によって。


「ひ、姫しゃま……!」

「「「えっ?」」」


 それは土竜人(モーリル)だった。

 あの深い茶色の短い体毛を有し、細い鼻がツンと伸びたあの。

 それも相応に歳を取ったらしいシワまみれの顔という。


 どうやら今の騒動は思いもよらぬ人物まで呼び寄せてしまった様だぞ。


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