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第104話 本能、解放……!

 まさか俺とニペルの蜜月をフィーに目撃されるとは思わなかった。

 この寝床屋には誰もいなかったんじゃないのか!?


 ――と思っていたがどうやら違ったらしい。

 そりゃそうだよな、フィーが今更街を見て回る訳も無いし。

 大量の洗濯物を抱えている辺り、きっとニペルの後始末中だったんだろうさ。


 でもだからといってこのタイミングは無いんじゃない?

 お陰で俺もニペルも意気消沈真っ最中だよ。


 なんでかまではわからんが。


「フ、フィー……?」

「はッ!!」

「「えッ!?」」


 けれど何かフィーの様子もおかしい。

 なんだかいつも以上に反応(レスポンス)が遅いんだ。

 まるで顔に「読み込み中」って言葉が出ているかの様にな。


 すると今度は何を思ったのか、落としていた洗濯物を拾い始めていて。

 そのままいそいそと持ち上げてはピコピコと歩き去っていった。


「何も見てーなーい。何も知らーなーい」


 どうやら知らぬ存ぜぬを貫くつもりらしい。

 洗濯物一つ拾い忘れているがいいのか?


 それでフィーの気配が消え去って。

 後に残されたのは俺とニペルの気まずい雰囲気だけに。

 そのニペルももう腰上に起き上がっていて、恥ずかしそうに頬を掻いている。


 ただ、その仕草が妙に可愛いらしい。

 まるで羽根で口元を覆って照れ隠ししている様に見えて。


 なんだろう、こんな気持ちは初めてだ。


「なぁニペル。よくわからんが、とりあえずここまでにしておかないか?」


 とはいえ落ち着いたからこそ冷静にもなれる。

 先程までが嘘みたいに手足も動くしな。


 だからと、そっとニペルの細い腹側部に手を伸ばす。

 持ち上げて降ろそうと思って。


 ――だったのだけれども。


「お待ちくださぁい……!」

「へっ?」


 この時、そんな俺の手をニペルの翼が挟み込んで。

 しかも妙に力が強くて全く抜けない、だと……!?


 うおおおッ!?

 なんだこの力はッ!?


「ウッフフフッ! フィーの()()を無駄にしちゃいけませんよぉ! だってぇ、敢えて見て見ぬフリしたじゃないですかぁ! って事はぁ……!」

「いぃ!?」

「つまり公認の仲って事ですよねえッ!? つまりワタクシ達、獣の如く激しく荒々しくゥ、このまま最後までイっちゃっていいって事ですよねぇぇぇ~~~!!?」


 それだけじゃない。

 なんなんだこのハイテンションは!?

 ニペルの奴、いきなり叫び始めやがったぞッ!?


 しかも大興奮で鼻息まで荒い!

 おまけによだれまで垂らしてなんなのこの娘ォ!!


 先程の雰囲気とまるで別人じゃねぇかァァァ!!!


「今まではフィー達への後ろめたさもあってこっそりヤろうと思ってたんですケドォ! でも公認ならもう隠れる必要ないよねッ!? ねえッ!?」

「な、何をォォオッ!?」

「何って決まってるじゃないですかァァァ!! キャッホォォオウッ!!!」


 どこにイくつもりなんだお前は!?

 もう目がイってるじゃねぇか!!

 大興奮にも限度があるでしょ君ィ!!?


 しかしこうなったらもう止まらない。

 途端にニペルが俺のアンダーウェアを脱がそうとしてきた。

 その翼でどうやってベルト外したの!? 凄く器用だな!?


 だが今ならわかる!

 この先はイけない――いやいけない!

 コイツを脱いだら別の何かをも脱ぐ事になりそうだからッ!!


 だからと自由になった手で裾を掴み、必死に抵抗してみせる。

 それでも力を抜けば即座に持っていかれかねないが。


 無駄に力強くない!?

 どうなってんのその翼!?


「抵抗しないでよォ!! 一緒に気持ちよくなろォよォ!! ンンーッ!!」

「ら、らめぇ!! もうやめれぇ!!」


 なので俺も超必死だ。

 ついつい変な声が出ちゃうくらいに。

 どう抵抗していいかわからなくなったものでつい。


 お陰で腰を擦り付けて来るのも、今や技の一つとしか思えない。

 俺からアンダーウェアを奪う為の策略の一つなのだと。


 故に今、俺とニペルの間では戦争が巻き起こっていた。

 互いにアンダーウェアを奪い合うという俺史上類を見ない激戦へと。

 それも遂には裂け目が帯び、どんどんと広がり始める程の。


 いかーん!

 このままでは防衛網が突破されてしまーうッ!!


 一方のニペルはと言えば、もう野獣の如し。

 必死に体を揺らして引っ張って、更には裂け目に翼先を突っ込んで来た。


 強引に引き裂くつもりかよ!?

 やめろォ! 俺の一張羅をこれ以上破壊するなァ!!


 けどダメだ、もう止まりそうにない。

 おまけにこの体勢だと力も入らないし抵抗もままならない。

 明らかに我が軍が劣勢じゃないかッ!!


 耐えろ俺! 凌ぐんだ俺!

 さっきまでの状況ならともかく今は折れたらダメだぞォォォ!!


 じゃないと俺の息子が折られかねないィィィッ!!!


「はッ!?」


 しかしこの時、突如としてニペルの動きが止まった。

 何かに気付き、驚いたかの様にして。


 ただ、その異変の理由には俺も気付いていたよ。

 なんたって今、ニペルの腰に小さな手があてがわれていたのだから。


 そう、第三者の手が。




 フィーという救世主の、救いの手がな。




 その手がなんとニペルの身体を持ち上げていて。

 しかもあの小さな体とは思えない力で勢い良くと。


「え"ッ!? フィー!? ちょ、ま、やめ――」

「ふんにゃらあああーーーーーーッッッ!!!!!」


 更にはニペルの頭が弧を描く。

 それだけの勢いで振り上げていたが故に。


 そして間も無く、彼女の脳天が床へと打ち付けられたという。


「ピギャオッ!?」


 とても素晴らしい見事なバックドロップだ。

 描いた放物線にも迷いが無く美しかった。

 こんな特技があったんだな、フィー。


 ――ってそうじゃなぁ~~~い!


 空かさず、見事にキメられたニペルへと駆け寄る。

 なにせ金属の床に打ち付けられたんだからな、心配しない訳が無い。

 一応は肌を重ねるまで進展した仲なんだし。


「だいじょぶーニペルはこの程度じゃ死ななーいー」

「そ、そうか、なら安心だ」


 まぁでもフィーがこう言うのならきっと平気なんだろう。

 脳天から血を流して白目を剥いているが大丈夫に違いない。

 あと体が随分と柔らかいんだな、変によじれているけど。

 翼もあらぬ方向に曲がっているが、きっとこれが普通なのかもしれない。


 今考えれば相当強い娘だったし、こんな事は日常茶飯事なのだろうさ。 


 で、そんなピクリとも動かなくなったニペルをベッドに寝かしつつ。

 事を収めてくれたフィーに気まずいながらも感謝を述べておく。


「ニペルはお盛んだかーら、時々こうなっちゃうー。アークィンも気を付けてーね」

「あ、ああ、以後気を付けるとしよう……」


 今回は本当に助かった。

 あのまま先に進んでいたら本当にどうなっていたのやら。


 お陰で今、父の言葉を思い出したよ。

 そういえばこういう事にも戒めがあったな、と。


 父曰く。

欲意失活(ネブン・ポーア)。欲に負ける事無かれ。如何な欲とて囚われればいつか己の目的さえ見失おう。特に肉欲。その快に魅せられ染まった時、人は堕落し尽くすのだ〟


 危うく最も危険な欲に身を任せてしまう所だった。

 とはいえ、父はこうも言っていたがな。

 〝まぁ溺れなければよいのだ。多少嗜む分には構わん〟とね。

 何をどう嗜むかまでは知らないが。


 ただ、今の俺では抗えない――そんな気がして止まなかった。

 つまり、きっと時期尚早なのだろうさ。

 まだまだ未熟者だしな。


 だからすまないニペル。

 君からの感謝は気持ちだけ受け取っておこう。


 それだけでも俺は充分嬉しいから。


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