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第102話 世界を救う覚悟はありますか?

 虹空界の滅びを防ぐには陽珠の下へと赴くしかない。

 しかも人がガチガチに固め上げた理を乗り越えて。


 全く、なんて使命を押し付けるんだ。この神って奴は。


「そこで問いたい。君達にはそれでも世界を救いたいと願う心はありますか? 死の可能性を乗り越え、破滅を防ぐ手段を探す旅に出る覚悟はありますか?」


 こういう理不尽さを押し付けて来る所はまさしく神って感じだ。

 人の都合なんて一切顧みないんだからな。


 ――けど、神話に出て来る神と比べればずっと良心的だろうさ。


 なんたってたった一人でずっと悩んで来たのだろうから。

 救いの可能性を求め、多くの者達を自ら送り出しながら。


「アークィン、君はどう思うかい?」

「……それを俺へ一番に問うのは間違っている、と思っているよ」

「はは、ごめん。さすがに動揺しちゃって無意識に頼っちゃったみたいだ」


 そして提示された使命もまた責任感に塗れている。

 神にも出来ない事をやってくれ、なんて言われているのと同義だからな。

 これにはノオン達でも不安を抱かずにはいられないだろう。


 だが、俺にとっては愚問に過ぎん。


 父曰く。

翌救間跋(ザウ・クォカレー)。見える救いは全て成せ。一つたりとも取り零すな。その意志を忘れし時、救いとは只の偽善となろう。故に前へと突き進み続けよアークィン。いつまでも志を貫くのだ〟


 俺には人を救うのも世界を救うのも何ら変わらん。

 何より大事と思える事ならば尚更やるべきだろう。


 それが例え、愚かな世界を救う事になろうとも。


「皆、どうかな?」

「ま、世界が滅んじゃやりたい事やっても無意味だしねぇ。どうせこれだけポテンシャルの高い人が集まったなら挑戦してもいいんじゃないかい?」

「テッシャがんばるー!」

「オオオイラだってやる時ゃやってやるぜー! そ、その為に両親から魔導具を預かったみたいなもんだしなッ!」


 ま、これはノオン達にとっても同様か。

 彼女達の意志も強いから恐らく曲げはしないだろうさ。

 なんたって筋金も筋金、神鉄並みの丈夫さだからな。


「答えは出たようだね。さぁ聞かせておくれよ、君達の答えを」

「語るまでも無い。俺達は世界を救うさ。お前の言う通り陽珠の下へと向かってな」

「わかった。なら君達に最期の希望を託すとするよ」


 だからこそ答えはあっさりと当たり前の如く。

 仲間達一同で胸を張り、揃って頷いて。


 そんな俺達に、神は緩やかに微笑んでいた。

 まるで今にも感涙で頬を濡らしてしまいそうな程に。


「今の話は陽珠の君も聴いている。だから余計な事は話さずに済むだろう」

「なっ……ならここで全てを話してもいいんじゃないか?」

「そういう訳にもいかないさ。実際に行かなければ意味が無いのだから」


 それでも譲歩を引き出すには至らなかったけれども。

 陽珠へ向かう事がそれだけ大事なのだろうか。


 まぁそれでも充分だ。

 必要な事は概ね聞く事が出来たから。


 これから俺達が何を成すべきか、その道標を示してくれたならば。


「今日はこの街でゆっくりしていくといい。何だったら施設を見物したり、使ってくれても構わないよ。きっと物珍しい物も一杯あるだろうからね」

「ではワタクシめが皆様を案内いたします」

「よろしく頼むよ。僕は少し【陽珠の君】と話をするからまた引き籠るね」


 きっと神の仕事はこれだけじゃない。

 こうして【陽珠の君】と話を交わす事もまた。

 なら邪魔する訳にもいかないよな。


 そんな訳で俺達は神との話を終え、屋敷を後にした。


 本当はまだ少し知りたい事もある。

 でもそれは単に知的好奇心を満たしたいだけに過ぎなくて。

 本筋とは違うから煩わせるのも癪だと思ったんだ。


 それに、その答えはフィーとニペルも知っているかもしれないから。


「二人に一つ訊きたい。彼はずっと〝僕達〟という表現を使っていた。っていう事は、もしかして他に神はいるのか?」


 こう尋ねたのは街中を戻り歩いていた時の事。

 寝床らしき建物が見えた所でふと思い立って。


 というのも、ずっと気になっていたんだ。

 この街の様相が明らかに『人の為に造られていない』って。

 人の文明らしい様相だけど快適さは皆無だからな。

 布品などが一切設置されていないから。


 だからこう推測したのさ。

 〝神は他にもまだいるかもしれない〟のだと。


 そしてどうやらその推測は当たりだったらしい。


「えぇ。遥か昔は主様の同胞が何十人もいらっしゃっいました。あの方々は共に力を合わせて世界を構築し、今の礎たる世界【内地球(エヴローワ)】を創ったのです」

「昔は陽珠もー主様が使ってーたー」

「え、使って()? じゃあ【陽珠の君】は誰なんだ? 神じゃないのか?」

「あの方は普通の人間です。遥か昔に主様を追い出し奪ったそうですよ」

「んなバカな……!?」


 ただし、話が想像以上に膨らんで来た訳だけどな。


 俺はてっきり【陽珠の君】が神の一人と思っていたんだが。

 二人で連携して世界を救う為に動いている、なんてね。


 けどどうやら事情は思った以上に複雑だったらしい。

 あの常時穏やか顔なニペルが唇を尖らせてしまうくらいに。


「普通の人間って。じゃあそいつも陽珠の中で複製されているとかそういう話なのか?」

「いいえ。古代人は歳を取らず、寿命で死ぬ事は無いそうですよ」

「「「古代人……!?」」」

「技術を究極まで高めたお陰で生きながらえる術を得たのだそうです。その他、多くの技術を遺した事は皆様も知っているでしょう? 主様は褒め称えておりましたけれど、ワタクシはとても不服です。出来うる事ならこの魅惑溢れる美しい姿のままで在りたいですから」


 そのニペルの言い分はこの際スルーするとして。


 神の技術も驚いたものだが、古代人も相当だな。

 まさかそんな遥か昔に寿命を超越する生物になっていたとは。

 おまけに神を追い出せるくらいの高位的存在に。


 それなのに神はよくまぁ【陽珠の君】などと気軽に話せるものだ。

 本来は敵同士って事だろうに。


「主様達も寿命ないーけど、人と同じで死ぬー。心も病んだりすーるー」

「むしろあの方々は人よりずっと繊細で脆く、簡単に心を折ってしまう様な存在だったそうです。故にかの事件の時、悲劇は起きたのです」

「業魔黙示録の時か……!」


 ただ、そういうしがらみさえもう遥か昔に消し飛んだのだろう。

 【業魔】という存在が生まれ、世界を破壊し尽くした事によって。


 幾数多の犠牲の末に。


「そう。あの悲劇の後、世界を憂いた神々はあろう事か……自殺したのです」

「「「ッ!?」」」


 きっとそうやって世界が壊れる姿を見ていられなかったのかもしれない。

 愛を籠めて創り上げて来た物が無念に崩れていく様を。


 その末に耐えきれなくなり、自死に至った。

 それも先の神を残して他全員が。


 どうしてそうなるまで思い詰められたかはわからんがな。

 壊れたのならもう一度創り直せば良いだろうに。


 ま、そんな形で諦めたから今の俺達がいる。

 そうも思えば感謝こそすれど、責める謂れは無いだろうさ。

 残念だった、とだけは思うけどな。


 しかし、それでもフィー達にとって思い入れのある場所には違いない。

 だから彼女達は「家に踏み入れるな」と訴えたんだ。

 例え消えても、神々が生きた証はここに遺り続けているから。


 只それを忘れたくなくて。


「でもご安心ください。この寝床屋は来訪者の為の建屋ですから。ご自由にお使いくださいませ」

 

 そんな想いを隠すかの様に、ニペルがフフリと笑う。


 この女、こういう所が無駄に気丈過ぎるだろう。

 少しは感情的になってもいいだろうに。

 それを受け止めるくらいなら皆、誰だって出来るさ。


 まったくもって不器用な奴だと思う。

 旅し始めたばかりのどこぞ誰かとホントそっくりだ。

 無駄に親近感が湧いてしまうくらいにな。


 故に鼻で笑い、頷きで返す。

 するとニペルも何を思ったのかウィンクを返してきて。


 まぁ只の挨拶だろう。

 変に身振りへの拘りがある様だしな。

 こうもわざとらしいと呆れる以外にないけども。




 それで俺達は一旦、自由行動を取る事となった。

 居住空間に立ち入らない事を条件に街の散策を許されたから。


 それでノオン達は早速と街へ繰り出していたよ。

 やはり神の遺物となると好奇心を大きくそそられたらしい。

 特にクアリオは夢中で飛び出していったなぁ。


 でも俺は一人寝床にて寝そべっている。

 なんだか妙に落ち着かなくてね。

 神との話で色々と思う事もあったから。


 それで気付けばウトウトとしていて。

 そのまま眠気に誘われ、瞼を閉じた。


 心地良さに抱かれ、身に溜まった力を溶き流すかの様に。




「ウッフフ、でも寝かしませんよぉ?」




 けどこの時、俺の腹に突如として衝撃が走って。

 それで慌てて目を見開いたのだが。


 すると途端、驚きの光景が視界へと映り込む事に。


 なんとニペルが俺に跨っていたんだ。

 しかも身に着けたのが下着だけというあられもない姿で!


 故にこの時、俺はただただ固まるしか無かった。

 ていうかこ、こんな事態、一体誰が予想出来るっていうんだよ……!?


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