第100話 友として猛る
まさかフィーとニペルがこの神とやらの作った生命体だったとは。
となるとさしずめ神の遣いって所だな。
冗談と思っていた事がこうも現実になるとは思ってもみなかったよ。
「神と人の血を混ぜて生まれたのがオリジナルのフィーとニペルだ。今の二人はその末裔――というより〝コピー品〟だね。この街の一部に精製装置があって、時が来たら産出される様になっているよ。記憶もコピー時のを受け継いでいる」
「なん、だと……!?」
ただ、その扱いに関しては一切納得出来んな。
不遇とも言える境遇を平然と他人事の様に言ってのける辺りが。
――故に堪らなく不快だ。
それも怒りを抑えきれなくなりそうなくらいに。
二人をこうも物としか例えられない言い草が気に食わん……!
「それで時が来たら新たなフィーを送り込み、適合者を探す。そしてニペルと共にこの地へ案内させ、僕の下へ連れて来させるんだ。これから成したい事の為に」
「何故二人なんだ……!」
「普通の人には僕が見えない。適合者は滅多にいない。それに僕はここを離れられない。だから代行が必要だったんだ。そこで人集めをフィーに任せる事にしたのさ。彼女ならとても弱くて便利だからね、適合者に信用させるには持って来いの子だったよ」
「キサマァ……ッ!!」
しかし、もう我慢の限界だ……ッ!
故に俺は今、身体に闘氣功を纏っていた。
これまでに無いほど身を震わせながら。
余りに激昂していたからこそ歯をも軋ませて。
「フィーとニペルをそれ以上侮辱してみろ……例え神だろうが消してやるッ!! 死ぬと言うなら死以上の苦痛を味合わせてから殺してやるぞッッッ!!!」
「ア、アークィン、お、おちついーてー!」
許せる訳が無いッ!!
フィーはここまでに何度も死力を尽くして俺達を助けてくれたんだ。
そんな彼女が弱いなどと、口が裂けても言える訳が無いだろうッ!!
ニペルは逢って日が浅いからよくわからん存在だが。
だけどこうして意思はあるし、根が良い奴なのは知っている!
ただ口下手で自己表現力の弱い、俺と同じ様な存在なんだってな!
その二人を物扱いだと!?
これは例え神だろうが許すまじき侮辱、越権行為である。
全知全能で無いのならば尚更にッ!!
なら俺の仲間は誰一人として、貴様如き無知者になど咎めさせはせんッ!!!
どうした神め、先に無く驚いた顔をして。
想定外の反応に声も出せんか?
逆らわれないとでも思っていたのかァ!?
「……そうか、君はそれだけ二人の事を想っていてくれたんだね」
「当たり前だッ!! 二人は掛け替えの無い友なのだからッ!!」
「友、か……申し訳なかった。まさか君達がここまで二人に愛着を抱いていたなんて思いもしなくて。なにせ今まで、二人を人扱いした者達は居なかったものだったから、それが普通だと思っていたんだ」
「何……!?」
――いや、違ったんだ。
おかしかったのは俺達側だったんだよ。
厳密に言えば原生体側、その倫理観が歪んでいたから。
そうだよな、二人は混血の様相だものな。
だから虐げられたり、存外に扱われたりしてきたのだろう。
もしかしたら人とさえ扱われていなかったかもしれない。
そんな姿を見せ続けられたからコイツも勘違いしてしまって。
そう気付いたからか、昂りがいつの間にか消えていた。
それに申し訳なさそうに頭も下げていたものだから。
神でも至らないとこうして真摯に謝罪するもんなんだな。
「……そんな事情があったなら仕方ない。こちらも謝ろう。殺気立って悪かった」
「いや、構わないよ。むしろ僕はとても嬉しい。二人をここまで想ってくれていたのが何よりも。二人とも良かったね。最期の最期でとても良き人に出会えて」
「よかーたー! みんなやさしーい人ー! ふんす!」
「フフッ、まさかワタクシまでそう大事に扱われるとは思ってもみませんでしたが」
それ程までに純然たる存在、それが神か。
今ならコイツを信じてもいい、そんな気がする。
そう思わせる穏やかな笑顔をフィーとニペルに向けていたから。
それに二人が抱き合って喜ぶ所と言ったら、微笑ましいくらいだからな。
「所で気になったのだけれど、〝最期〟とは一体どういう意味なんだい?」
「私もそこが引っ掛かった。何か不穏な理由があるんじゃないかって」
「そうだね、そこも話しておかないといけないか」
けど、もしかしたらこの喜び様は彼等が実情を知る存在だからで。
もし事情が事情でなければここまででは無かったかもしれない。
只の一個体が受けた小さな幸せに過ぎないのだと。
ただ、こんな些細な事でも幸せに思えるくらい――世界は儚かったから。
「もうすぐこの虹空界は滅ぶんだ。少なくとも、あと三年くらいでね」
決して人でもなく、秩序などでもなく。
世界そのものが歪み、壊れかけていた。
そんな実情を聞かされた時、俺達はまた絶句するしかなかったんだ。
守ろうとした世界がもう限界だったって事に気付いてしまったからこそ。