第96話 フィー達の故郷へ
突如現れた謎の少女ニペル。
彼女はなんでもフィーの幼馴染なのだそうだ。
それも生まれた時からずっと一緒に育って来たという。
そんな人物だとは思わず、互いに敵意を向け合った訳だが。
でもニペルは気にしていなかった様で、事後にはすぐ打ち解けられた。
……といっても、彼女が一方的に馴れ馴れしかっただけだけどな。
それで今夜は二人に唯一のベッドを取られ、俺は渋々運転席で就寝だ。
いつの間にか自在背もたれが備わっていたので助かったよ。
それで翌日、白空界に来てから一四日目。
俺達は今、機空船で空を飛んでいた。
というのも、フィーとニペルから誘いを受けたから。
これから二人の故郷に案内してくれるらしい。
ただ、どうしても空からじゃないと行き辛いそうで。
なので皆が揃った所でこうして出発したという訳だ。
とはいえ、その二人は妙な雰囲気だけどな。
出発してからというものの、なんだか落ち着かない様子。
「どうしたんだソワソワして? 故郷に帰るのが嬉しいんじゃないのか?」
「嬉しーけど、複雑ー」
「主様は尊大なお方ですから、我々も敬意を払わねばなりません。なので喜びもですが畏れもあるのです」
「主様、ねぇ~。そう聞くと何だか妖しさしか感じないよぉ?」
「ルルララ~♪ お逢いになれば~きっと~おわかりになられまぁすよ~♪ フフッ」
でもこうして訊いても大概がはぐらかされる。
まるで「行ってからのお楽しみ」って感じで。
フィーもがこれだから五人揃ってお手上げさ。
けど悪い場所って訳じゃあないらしい。
フィーとしてもいつか必ず連れて来たいと思っていたって話だし。
その〝主様〟って存在も決して悪人ではないそうだ。
ここまでの経験上、どうしても不安しか無いけどな。
「見え~た。あそこ、はいって~」
「あ、あれに入るのかよー!?」
そんな時、フィーが杖で目的地を指し示す。
それでいざ皆で視線を向けて見れば、揃って驚かされる事に。
なんと大地に巨大な氷の裂け目があったんだ。
それも機空船が二~三台普通に入れそうなくらいの。
――って事は、二人の故郷は地中にあるのか!?
じゃあ二人は地底人だとでも言うのかよ……!?
おいおい、いきなりじゃないかこんな展開。
「普段はワタクシが出入りの助けをしているのですが、さすがにこの人数は堪えますのでご容赦を」
「あちしも出る時合体するーよー」
「そう、この様にっ! ラッラァー♪」
けど俺達の事なんて気にも留めず、当人達はマイペースを貫いている。
誰も頼んでいないのに二人で機内を飛び回ったりな。
やめなさい。羽毛が散るから。
ほら、クアリオが煽られてクシャミしているじゃないか。
これで手元が狂ったら皆まとめて墜落死だって事を忘れるなよ?
ただ、機体はそれでもしっかりと裂け目へ降りていく。
ノオンとマオが二人を強制合体解除する中で。
さしものクアリオも今回はいつに無く真剣だ。
やはり閉所での垂直操縦は緊張するらしい。
それでいざ裂け目の中に入れば、今度は上昇気流が襲い掛かる事に。
結構揺れるな、これはさすがに俺も怖い。
ほら見ろ、テッシャが瞬時にして干物になっていくぞ。カリッカリにな!
ノオンなんて床に正座でガッチガチじゃないか。掴まってろって無理するなよ!
あ、マオの奴ベッドに逃げたな。いつの間にかいねぇ!
フィーとニペルは歌ってるんじゃあない。気が散るからぁ!
こんな九死に一生とも言える中を着実に降りていく。
頼むぞクアリオ、皆の命はお前に掛かってるんだからな!
で、それでおおよそ一〇分ほど経過して。
俺達は幸いにも無事、裂け目の底へと辿り着いていた。
「それでは皆様、こちらへどうぞ。ワタクシが案内いたしますわ」
その中で意気揚々と飛び出したのはやはりニペルで。
追ってフィーも飛び出し、俺達もミイラとなったテッシャを担いで外へ。
土に触れて復活させた所で、揃って洞窟の奥へと進む。
そう、ここには土面があるんだ。
と言っても半ば岩場の様なものだが。
それでもこの白空界じゃ珍しい事に違いは無い。
なんたって永久凍土に包まれた土地だしな。
それに全く寒くない。
むしろ防寒着の所為で暑く感じるくらいさ。
「中暑いーから、防寒着ここ置いて平気ー。誰も来なーいからー」
なので言われた通り、着ていた厚着を脱ぐ事に。
確かに、普段着でいても寒気を一切感じない。
それに盗られる心配も無いっていいな。
なんだか実家の様な安心感を感じるよ。
ま、そりゃそうだよな。こんな所に人なんて――
――待て。
誰も来ない、だと?
どういう事だ?
この先は集落とか村じゃないのか?
もしかしてここにはフィーとニペル、あと主って奴しか住んでいない……?
すると妙だな。
フィーが勧めてくれたとはいえど、嫌な感じしかしない。
そう直感が伝えているんだ。
不思議な感覚が肌に触れて、緊張を解くなと訴えて来る。
この場所は、明らかに普通ではないのだと。
その確たる証拠を、俺達はすぐ目の当たりにする事となる。
フィーとニペルが案内してくれた別世界を。
全く想像さえしていなかった驚愕の光景を。
地下に、なんと巨大な都市が存在していたのだ。
それも今までに見たものよりずっと精錬し尽くされた街並みが。
この光景を見た時、俺達はただ息を飲む事しか出来なかった。
それだけ壮大で、優美で、無駄の無い様相だったから。
それでいて一切のひと気を感じられなかったのだから。