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第94話 修行の成果

 雪山大滑走の末、俺達はようやくふもと村へと帰還した。

 するとそこで待っていたのは一つの朗報で。


 村人がもう【ラビリッカー】達を弔ってくれたというのだ。

 それも俺が登山へ挑戦している最中に。


 というのも、彼等の悪い噂は只のデマに過ぎなくて。

 実は彼等、山を守る為に敢えて人里から離れたのだそう。

 その後もずっと無謀な挑戦者を退け続けてきたんだってさ。

 例え魔物と揶揄されようとも、遥か昔に立てた誓いの為にと。


 なんでも、神と契約を交わしたという話だ。

 霊峰を守る戦士となって欲しいと頼まれたらしくて。


 だから彼等は決して俺を怨んでいないそう。

 むしろああやって先頭に立ち、挑戦者に殺される事へ誇りさえ感じている。

 それが【ラビリッカー】達にとっての生き様で使命だからこそ。

 まぁ俺には到底理解出来ないけどな。


 でも、理解する必要なんて無いんだろうさ。

 彼等にとってはそれこそが〝生きる〟って事なんだから。


 ――あ、ちなみに人と決別もしていないらしい。

 なので時々人里に降りて来て、村人とも物々交換とかするんだってさ。

 俺達が帰った時もなんだかんだで村人とやりとりしてたよ。


 そこで俺は礼と償いにと、彼等の望む物を渡した。

 村人に頼んで、喜びそうな物を見繕ってもらって。

 少ない手持ち分しか用意出来なかったけれど。


 それでも喜んで受け取ってくれたよ。

 最後にはしっかり握手まで交わしてな。

 言葉はわからなかったけれど、気持ちだけは充分伝わったと思う。


 そして最後は村人達と一緒に鍋パーティだ。

 しっかり登頂の証拠も残してきたからな、皆揃って大騒ぎさ。

 滑降からのお祭りと、とても楽しい一日だったなぁ。




 それで翌日、この地にやってきてから一三日目。

 俺は今、テッシャとノオンの前に立っている。




 これからやるのはもちろん、修行の成果のお披露目だ。

 この数日間で俺がいない間にどこまで成長したのかを確かめる為に。


 たださすがにこの身で受けようと思うほど愚かじゃあない。

 うっかり本気出されたら俺が消し飛びかねないので。


 なんたって二人とも武芸の達人クラスだからな。

 そこまで錬氣出来ているとは限らないが、やはり怖い物は怖い。


 なので今日の披露相手は目前にそびえる二体の雪だるまだ。

 先ほど仲良く三人で作った超ビッグサイズの。


 あまりに張り切り過ぎて機空船サイズになってしまった。

 とはいえ雪は腐る程あるし、少しくらいこうハッスルしても問題無いだろう。


「雪だるまの作成で〝防〟の闘氣功が様になったのはわかった。なら次は〝攻〟の方を見せてもらうとしよう。あの雪だるまに攻撃をぶつける事でな」


 しかし只の雪だるまじゃあないぞ。

 周囲の雪をミッチミチに凝縮させた、氷も同然の雪塊だるまだ。

 これは〝攻〟の闘氣功が無ければそう簡単には砕けないだろう。


「じゃあまずはノオンから見せてもらおうか」

「ハッハー! 任せたまえっ!」


 おまけに、ノオンへ渡した得物は只の木棒。

 となれば今までの力でも傷痕くらいしか付けられないだろうさ。


 けどどうやら、当人は至って自信満々らしい。


「では行かせて頂こう! ドゥキエル相伝七剣殺法、杭の型――」


 まぁ彼女に関しては何の心配もしていない。

 力を存分に出せる方法も既に教えたからな。


 闘氣功の本領を存分に発揮してくれるこの技を。




「【破・蓮・牙(はれんが)】ァァァーーーッ!!」




 故にこの時、三筋の閃光が雪だるまを見事に貫いた。

 それも後方へと雪飛沫が舞い散る程に激しく。


 更には跡形も無く粉々に吹き飛ばして。


 今のはノオンの兄、ラターシュが得意としていた技だ。

 俺が認めた脅威の三連突きさ。


 この技が最も闘氣功との相性が良いと思ったのでね。


「いい感じだ。合格だな」

「ふふっ! でも変に拘らず従って良かったよ。確かにこの技だと撃ち易いや」


 闘氣功は魔力と同じで、力をより凝縮させる事で効果を高められる。

 なので突きの様な点的攻撃が一番力を発揮しやすいんだ。

 斬撃の様な線的攻撃よりもずっとな。


 だから俺はこの技を勧めたって訳だ。

 ノオンの事だからしっかり習得しているだろうと思ってね。

 ラターシュの事を良く思っていないから抵抗こそあったけれど。


 それでも案の定やってくれたよ。

 しかもまさか木っ端微塵にまでしてみせるなんてな。


 弾けた雪の粒度が荒いから練度としてはまだまだ。

 けど修行して日も浅いから当然、かつ上等な結果だろう。

 きっと近い内に俺と同等まで成長してくれるに違いない。


「よし、それじゃあ次はテッシャだな」

「ふふふー! テッシャ凄いって言わせちゃうんだからねー!」


 となれば次も期待が持てそうだ。

 なんたって才能に太鼓判を押すテッシャの出番だからな。

 未だ不確定要素は多いが、一番に試練を乗り越えた事実は変わらない。


 なら、俺を驚かせてみせろよ。

 どこまで成長したのか、その実力を以って!


 するとテッシャが右腕をブンブンと振り回して自由さを見せつける。

 一切型に嵌らない、フリースタイルらしい独特な挙動だ。


 だけど決して伊達なんかじゃあない。

 しなやかな筋骨があって初めて成し得る、とても自然な回し方だからこそ。


 故にその回転力が次第に高まっていく。

 徐々に慣性さえも取り込み、闘氣功の輝きまでをも舞わせながら。


 ――ウッ!?

 こ、これはまさか!


 間違い無い、これは【孔兜指破(ヴェイオール)】と同じ原理だ!

 捻転力、螺旋集力法、そして闘氣功、それらの特性全てを生かしての!


 それを独自で編み出しただとッ!?

 それじゃあまるでこれはーーーッ!!?




「いっくよーッ!! テッシャァァァティィィーーーッッッ!!!!!」




 そしてなんなんだその名前はァァァ!!!

 鋼穿烈掌(ウルアーティ)のパクリじゃねぇかァァァ!!!

 力の働き方は【孔兜指破】なのにィィィ!!!


 ――だがその力は紛れも無く本物だった。


 この時、俺は垣間見る事となる。

 テッシャという才能の塊が見せつけた実力を前にして。

 

 打ち込まれたのは見紛う事無き正拳突きである。

 しかしてその一撃を前には雪だるまなど、もはや只の粉雪でしかなかったのだ。




 そう、それはまさしく粉雪が舞い散ったかの様に。

 雪だるま周辺が瞬時にして、真っ白な粉塵に包まれたのである。




 この現象は闘氣功が雪だるま全体へ瞬時に伝わったって意味を持つ。

 とても一朝一夕で身に付く様な技術じゃあないんだ!

 これは驚くべき事だぞ!?


 かくいう俺だってここに至るのに二ヶ月は掛かったくらいなんだからな……!

 (常人だと二〇年掛かるらしいが)


 それをたった数日だと!?

 才があるにも程があるだろう!


 こう驚愕する俺の前で、彼女はただただ立ち尽くしていた。

 己の力を今やっと実感したかの如く、静かに拳を握り締めながら。


 そして感極まったのか、俺に向けて両手を振り始めていて。


「出来たよアークィン! テッシャ、カンペキに出来たよー!」

「ああ、そうだな。お前はもう立派な闘氣功マスターさ」


 だから俺ももう何も言う事は無かった。

 ここまでの実力を見せつけられたらぐうの音も出ない。

 この娘は間違い無く本物だよ。


 全く、凄い逸材が転がっていたもんだな。




「アークィンの裸夫像が出来たよー!!」

「ブッゴォォォ!!!」




 ――なんて褒めた矢先のこれだよ。


 粉塵が収まった時、それが出て来たんだわ。

 ツルッツルピッカピカにテカリ輝いた裸夫像がさ。


 そんなこと俺にも出来ねぇよォォォ!!

 そもそも一体どうやったらそう出来るんだよォォォ!!


 ていうか何なんだよこの才能の無駄遣ぁいッ!!!


「【却熱幕布(ヒィィィベェル)】ッ!!」

「ギャアーーーッ!! 折角造ったのにィィィーーーッ!!」


 でも放置する訳にはいかないので容赦無く体当たりして蒸滅させた。

 誰の像かは知らないが、尊厳を守る為には仕方のない処置だろう。

 うむ、魔法もしっかり元の威力が出ているな。安心したよ。


 何はともあれ、これで二人の実力を確かめる事が出来た。

 共にまだ改善の余地もあるが、戦いで使うには申し分ないだろう。

 これから経験を積んでどんどん強くなっていくだろうから。


 フフッ、これは俺もうかうかしてられない様だ。






 こうして見事な成長を果たしてくれたお陰で肩の荷も降りて。

 更には生活環境も安定したし、温泉という楽しみも出来た。


 なら残りの滞在時間は心から有意義に過ごせる事だろう。

 そう思い馳せながら今日は夜までゆっくりしていた――のだけれど。


 どうやら、世界はまだ安心させるつもりなんて無いらしい。




 なんたって今、俺は見知らぬ鳥女に刃物を向けられていたんだからな。

 チッ、この大陸は不可解さに事欠かないよ、全く……ッ!!


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