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第92話 夢でも幻でもない

「――う、ここは……? 天国、だろうか……」


 目を覚ました。

 どこかもわからないその中で。


 けど妙にぬくくて気持ちがいい。

 それはきっとここが天国だからだろう。

 天女達が舞い踊り、死者を幸せにしてくれる様な。


「何を言っているんだいアークィン。まだ君は死んじゃあいないさ!」

「……へ?」


 でもどうやら違ったらしい。

 俺はまだ夢を見続けていた様だ。


 なんたってちょっと視線をズラせばノオンの顔があったんだから。


 彼女だけじゃない。

 マオやフィー、テッシャもいるし、なんならクアリオもいる。

 それも皆揃って薄着で。


「じゃあ夢だな。山頂付近に皆がいるハズがないし。いや、途中で力尽きたのかもしれないか」

「夢でもなーいし、ここが山頂付近ってーゆーのも間違いちがーうー」

「……え?」


 おかしいな。

 言っている意味がわからないぞ。


 今いるのはどう見てもどこかの一室だ。

 それも木材張りの立派な個室で。

 だから夢かとも思ったんだがそれも違うらしい。

 で、ふとテッシャの頬を摘まんで伸ばしてみたんだが。


 柔らかぁい!

 プニップニだぁ!


 ――これは、夢じゃない!

 現実の感触だッ!!


 そこで思わず起き上がり、改めて周囲を見渡してみる。


 どうやら俺は地べたに寝かされていたらしい。

 それでもって自身も薄着になっていて、しかも妙に暖かい。

 この部屋自体も暖気が籠っていて、加えて強い湿気もある。


 これじゃまるで――


「じゃ、じゃあここは一体どこなんだ!?」

「ここは霊峰山頂付近の洞窟内秘湯さぁ。フィーに案内してもらったんだよ」

「ンなっにィーーーッ!!?」


 そう、ここはまさしく温泉の待合所だったんだ。

 だから椅子や机もあるし、なんなら受付所の人もいて。

 明らかな来客者向けの施設として出来上がっているという。


 クアリオ、お前の座っている魔動機はなんなんだ?

 妙に身体を震わせて凄く気持ちよさそうなんだけど??

 そもそもなんでそんな物がここにあるんだよォ!?


「ここー知る人ぞ知る秘密のおんせーん。昔ーウーイールー様が掘ったてー」

「えっ、我が父が……!? そんな話は聞いた事が無いんだが」

「外から登るの無理ーだかーら、中から掘って登ったーて言うてたってー。それでたまたまこの温泉掘り当てーた。でー後で村人が改造して宿泊施設にしたーよー」

「なん……だと……!?」


 そして更にはこんな逸話まで飛び出す事に。


 そうか、父よわかったぞ。

 貴方がなんでこの山での詳細を一切語らなかったのかが。


 そうだよね、外から登ってないもん。

 中から掘って進んだから外の状況わからないもんね。

 さすがの父でもこの山を普通に登るのは無理だったんだって。


 父ィィィーーーーーーッ!!

 せめてそこは少しぐらい語っても良かっただろォォォ!!

 俺ずっと外から登ってたって思ってたのにィィィ!!!


 意外な事実を知らされ、衝撃を隠せなくて。

 なので遂には床へと肘を突いて項垂れる。

 ガッカリ感と無念感にうちひしがれながら。


「まぁまぁ。ウーイールー様でも無理はあるって事さ! でもね、君はそれでも外からここまで登り切ったんだ。って事はつまり――」

「ハッ!?」

「――君はこの山においてはウーイールー様を越えたって事に他ならないのさ!」


 けどその直後、こんなノオンの励ましが俺の心を揺さぶった。

 そんな事実あっての現実に気付かせてくれたからこそ。


 そう、俺は間違い無く父を越えたのだ。

 父でも成し遂げられなかった外からの踏破で。

 それも己の力のみで、知恵と勇気を振り絞った末に。


 だからだろうか、仲間達が祝福の拍手を送ってくれた。

 俺の快挙を讃えてくれているんだ。


 故に俺は顔を上げて喜びを露わにする。

 感動と感激をふんだんに込めた震え顔で。


 少し恥ずかしいけど、もう全然気にならないさ。

 だってここで応えなきゃ、成し遂げた意味が無いだろう?


「おめでとうアークィン。君ならきっとやれると信じていたよ!」

「ありがとうノオン、そして皆。お陰で俺、ますます自信が付いたよ。父にも負けない自慢が一つ増えた事でさ……!」

「さすがだねーアークィンっ! 最初に現れた時はビックリしちゃったけどー!」

「う、あれは不可抗力というか何というか……その、スマンかった」

「「「あははは!」」」


 でもそれ以上に、こうして皆と無事に再会出来たのが何より嬉しいよ。

 もうダメかと思っていたからさ。


 まぁそれよりちょっと嬉しい事にも遭った訳だけれども。

 あの光景はどうにも忘れられそうにない。


「おやぁアークィン、頬を赤くしちゃってぇ。フフッ、どうしたんだぁい?」

「ちゃ、茶化すなよ。悪かったって言ってるだろぉ……」

「クシシッ!」


 ……さて、こうして皆とも再会出来た事だし。

 折角だから俺も父が掘ったという温泉を堪能するとしようかな。

 身体が湿っている辺り、恐らくは一度漬けられたとは思うけども。


 でもどうせならしっかりと味わいたい。

 頂上付近へと自力で辿り着いた自分への御褒美として。

 なにせあれだけ過酷な環境下を抜けて来たんだし。


 聞くにここは宿泊施設でもあるらしいからな。

 なら今日は心行くまで楽しむとしようか。


 きっと最高の気分でのぼせられるだろうさ。




 それで俺は今夜、この秘湯施設に泊まる事となった。

 もちろん仲間達と一緒に。


 なんたって明日、登山の締めを見届けて貰う事になったからな。

 正式に登頂するその瞬間をね。


 あぁ、明日がとても楽しみで仕方がないよ。


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